第10話 進軍。

帰りも過酷な道のりだった。

行きより早く進めているからとイェイロ達の手で足止めを喰らう。


「こちらの名産品はハウスバッファローのグリルですわ」

「久郎、この景色よくない?」

「久郎、今のうちに剣の訓練をしよう」


三者三様の足止めと、強化の願いを聞き入れて城に着いたのは、行きと同じ日数が掛かった頃で、到着時は城の兵士達が二度見をするほど纏う気配が違っていた。


最初の頃は抜け駆けすらしていた三姉妹達だが、同じ方向を見るとタチが悪くなる。


「久郎、出立式を執り行います。兵達も十分な準備を行いたいでしょうから時間をください」と言うイェイロ。

「久郎、荷物の用意もさせるから時間頂戴ね。前のテントとかボロボロだから替えようね」と言うジェンタ。

「久郎、私たちも戦いたいんだが、装備が強化に追いつかないんだ。少し時間をくれ」と言うシィア。


「なので準備が整うまで強化をお願いします」

「だから強化して待っていようよ」

「やはり万全の体制が望ましいから強化をして盤石にしよう」


久郎の左手を持つイェイロ、右手はジェンタ、背中を押すのはシィアで半強制で沢山久郎を強化部屋に連れ込むとコレでもかと強化を行う。


タチが悪いのは、出立式の計画書をみて「やり直しなさい。久郎に失礼です」と言うイェイロ、準備品のリストを見て「んー…、日保ちは大事だけど、もう少し栄養価の高い奴にしてよ。決戦だよ?」と言うジェンタ。

刀鍛冶が持ち込んだ剣を素振りだけで破壊して、「こんな剣で魔王に届くと思ったのか?やり直せ」と言うシィア。


沢山久郎は「イェイロ、俺は式典とか嫌いだからやらなくてもいい。ジェンタ、3日とか言ってたよな?別に栄養とかこだわらなくてもいいよ。シィア、剣ならアイスソードがあるからさ」と言って魔王討伐に向かいたいと言うと、今度は易者を呼んで「最良の日を占いなさい」、「来月だよね?え?もしかして来年!?それは守らなきゃね」、「勝利の為には我慢も大事だな」と言ってまた強化部屋に沢山久郎を押し込む。


「いい加減にしろ!お前達が満足したいだけだろ!」

沢山久郎が怒っていよいよ仕方なくなると、イェイロが「転移魔法陣に魔法を込めますからもう少しお待ちください」と言い、最後の強化として沢山久郎は強化部屋に連れ込まれた。


もう沢山久郎にもわかっている。

三姉妹に足止めされていて、1日でも長く強化を受けようとしている。


沢山久郎は「俺はセクシー男優何人分の働きをしたんだ?日常生活に戻れるのか?」とベッドサイドで落ち込んでいた。


ちなみにベッドではイェイロ、ジェンタ、シィアが息も絶え絶えで眠っている。

沢山久郎はさっさと満足させる為に、最大限に引き上げた催淫魔法を使い続けて強化を行なっていたので、腕や足を見るとかつての面影はない。


筋肉質の身体を見て「オリンピックとか出れたりして」と呟いていた。



沢山久郎は知らない連中からの言葉を聞きながら出立式を終え、シィアが荷物持ちの格好で、新たな装備に身を包み転移魔法陣へと入っていった。


シィアは結局剣を振れない身体になっていて、鉄骨のような柱のような鉄の棒を武器にしていた。


転移魔法陣の外は魔物だらけで、流石に沢山久郎はビビって二度見をしてしまったが、シィアが「任せてくれ久郎!お前のくれた力でお前を無傷で魔王の元に連れて行く!」と言って鉄棒を振り回すと、魔物達は原型も残らずに真っ赤な血煙に霧散する。


「ズルい!私も久郎の役に立ちたい!」と言ったジェンタは支援職なのに前に出て殴って魔物を殺すだけでは飽き足らずに「過剰回復!」と言うと魔物達が一斉に弾け飛ぶまで回復魔法を放つ。


「魔法攻撃なら私です」と言ったイェイロは、火魔法で魔物達を焼き尽くすと、「久郎!あなたの強化の賜物です!」と感謝を述べた。


「なあ!久郎も何かやってくれよ!」

「そうだよ!やっちゃってよ!」

「よろしくお願いします」


三姉妹に頼まれた沢山久郎が「やってみるか!」と気合を入れただけで、魔物の群れは弾け飛んでしまった。


三姉妹は凄いと沢山久郎を褒め称えたが、沢山久郎はそんな事はどうでもいい。

さっさと魔王を倒して帰りたい。

それだけだった。


だが三姉妹は疲れる訳もないのに「疲れたから休もう」、「最後のダメ押しで強化をしてくれ」、「最後なので拒絶をしないでください」と言われて、沢山久郎は強化をしてから魔王の居城に乗り込んだ。



そのおかげで帰れなくなった。

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