第7話 ようやくの旅立ち。

また更に3ヶ月が過ぎた。

そこには沢山久郎が魔王との戦いを盤石にしたい意思と、帰りを妨げられないための予防があった。


シィア達は日に三桁は果てていたが、沢山久郎の言葉に従って今まで通りの報告をしていた。

今や3人の中にわだかまりもなく、沢山久郎の為に頑張ろうと言って、何時間でも限界の先まで続けていた。


3ヶ月後に魔王討伐を申し出た娘達に国王は渋い顔をし始めた。


散々国のためと言いながらも、やはり父親として娘の身を案じて、「もう少し鍛えないか?」と言い出す。


そこに現れた沢山久郎は普段着させられている、いつでも裸になれる服ではなく鎧姿で、国王は「勇者!なぜここにいる!部屋で待っていろ!」と怒鳴ったが、眼力だけで黙らされてしまう。


何とかしなければと思っていると、三人の娘が「うふふ。お父様、久郎なら問題ありません」、「そうだよ。久郎と私達なら魔王退治もあっという間だよ」、「だから旅立たせてくれって」と言って慌てるそぶりもなく笑っている。


ここで国王は初めて娘達の異変に気付き、「お前達?」と言うと、三人娘は久郎に抱きついて「魔王退治に行きましょう」、「倒したら帰れるようにイェイロに頼むね」、「でもその前に最後にしてくれよな?」と言っている。


沢山久郎は「わかってる。さあ旅立とう」と言って外に出ると、「しまった、やり過ぎた」と呟いてしまう。

初めは高難度の魔物の醜悪な見た目に驚いてしまったが、「私でワンパンなんだから久郎なら指一本だな!」と言ったシィアの言葉に従う形で、前に出てハウスバッファローの一撃で逆にハウスバッファローが死んでしまうと恐怖は無くなった。


問題はただ一つ、物理的な距離で、魔王の居城を目指すが沢山久郎は迂回を死ぬ程嫌がり地形を変えると言い出した。


「久郎?」

「地形を変える?」

「何言ってんだよ」


本来なら何日もかけて迂回をするか、何日もかけて登山をするのだが沢山久郎は「落雷魔法」と唱えると目の前の山そのものを消し去った。


夜にしても野宿をする際には、腕力で穴を掘ると水魔法と火魔法でお湯を生み出して風呂を作ったりする。


そんな中、数日に1日だけだが、しょうもない足止めに遭い辟易とする事になる。


「久郎、その…」とイェイロがモジモジと身体をくねらせると、ジェンタが「しようよ」と言う。シィアは「強くなったが魔王に太刀打ちできるか心配なんだ。頼む」と言ってくる。


「催淫魔法をつかうと一日動けなくなるんだけど」

「それは…、山越えをしたと思えばまだまだ余裕があります!」

「そうだよ!山越えから何日も歩いたんだからいいよね?」

「頼む!不安なんだ!」


沢山久郎からすれば、早く日本に帰りたいのになんでこんな事になると思っている。

まあやり過ぎた。

癖がついてしまっていて、沢山久郎に依存し切っている。

そもそも見せ合わない約束はどうしたと言う話だが、「それは城での話です!」、「そうだよ!関係ないよ!」、「頼む久郎!」と押し切られた。


まだ町や村があればわからなくもないが、それでも町や村では朝になる度に、「勇者ってのはやっぱりすげぇな」と言われて居心地が悪い。


野宿の日は一度だけする事にしていたが、イェイロ達は順番さえ決まれば早寝ができる。

沢山久郎は3回果てなければならずに夜がふけこむ。

しかも3番目だけはお替わりが許していないのに許されていて、沢山久郎は4回果てなければならない。


それでも数日に1日、限界を迎えた3人から行軍を止めて、一日中強化に充てようと提案される。


強化ってこれ以上何を強化するんだ?この前もビッグドラゴンとかいう竜というより巨大なトカゲが襲いかかって来たが、ジェンタがワンパンで沈めていた。


ワンパンだ。

戦闘職ではない支援職のジェンタがだ。


シィアが「ジェンタ姉さん、久郎のおかげでどこまで強くなったか見てみようぜ」と持ちかけると、イェイロが「小さな村ならなす術なく滅ぼしてしまうビッグドラゴンですが、久郎の力を貰った私達なら怖いものはありません」と続く。


ジェンタは「怖いなぁ」と言いながらも、「苦戦したら久郎は強化に付き合ってくれる?」と聞いてくる。


「それか、それが目的か」と気付いた沢山久郎だが、強化は必要なので頷くとジェンタは「支援職だからいつでも助けられるようにしてよね」と言いながらスタスタとビッグドラゴンの間合いに入ると、「えい!」と言ってビンタ1発で頭を殴り飛ばしてしまう。


千切れた首がゴロゴロと転がる中、イェイロが「ジェンタ!」と言うと、シィアが「やり過ぎだよ、苦戦してくれ…………いや、大苦戦だったな」と続く。


ジェンタが「うん。大苦戦だったよぉ」と言い、イェイロが「これは強化が必須ですね。幸い食料はビッグドラゴンが居ます」と言うと、シィアが「ここをキャンプ地とする!」と言ってテントを設営してしまった。


その時はビッグドラゴンの肉がなくなるまで強化に付き合わされた。


沢山久郎は「ビッグドラゴンの肉は慈養強壮に効果的なんですよ」と言って口に運んでくるイェイロを見ながら、「強化し過ぎたか」と呟いてしまった。


そもそもイェイロが初めに言った「まあ、なんとかなるわね」は小ささの事ではなく大きさの事で、耐えられなければ意味がない。怪しいが耐えられるかも知れないギリギリのサイズだったから我慢をやめたらあっという間だと言われて照れた。

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