第5話 やっぱり秋は嫌い
いろいろ試してみて、この清楚少女には、白のレザーのジャケットに同じ白のレザーのスカートという組み合わせを選んでやった。ところがそれで十万円行かない。そこで、さらに白のロングブーツも買わせてやった。
どれも、この子のいまの服と同じ純白。
いや。いまのワンピは影もできるし、まったく汚れがないということもないだろう。レザーは光沢があるので、それ以上の純白だ。
純白、光沢つき。
しかも、金具は、ジャケットのベルト孔がいぶし銀のような暗い色である以外は、ぜんぶ金ぴかだ。
それでも予算オーバーはさせられなかったけど。
自分ではやらないほどの高価な買い物につき合うのも気もちがいい、と、アキは思った。
久美子が送り先を伝票に書き込んでいたので、のぞき込めば久美子がどこに住んでいるかわかっただろうけど、そういう品のないことはしなかった。
だから、久美子の苗字すらわからないまま。
買い物が終わってビルを出て、複雑な造りの駅前のペデストリアンデッキに出る。
アキはいちおう久美子に
「ね? いっしょにお食事して行かない?」
と声をかけてみた。
「いえ」
と、いまはレザーではなく純白のワンピを着ている久美子が、それに似合うように恥ずかしそうに首をすくめた。
「八時までに家に帰らないと親に怒られますから」
そして、くすっ、と笑った。
いや。
あれだけ時間をかけて服を選んでいたのだから八時なんてもう過ぎてるでしょ。
怒られると、どうなるのかな?
外に出してもらえなくなって、とらわれの美少女になるのか?
二度と二十万円なんて大金は渡してもらえなくなるのか?
そう言おうとしてアキが時計を見ると、その時間はまだ七時を少し過ぎたところだった。
そこで、アキは
「うん」
と余裕を見せてうなずいた。
「じゃ、久美子ちゃん、これからも元気で」
元気で。
そのかわり、その永遠に美しい身体なんか
そう思おうとしても、思えなかった。
この久美子の清楚で美しい体は世界の宝だ。だから、ほんとうにいつまでも美しくいられるように、守ってやらなければいけない。
だから、セレブの久美子も、せいぜい
「アキさんも、
と久美子はくるんとアキのほうに向き直った。
「突然、失礼なことを言った、見ず知らずの子どもにずっとつき合ってくださって、ありがとうございました」
そう言って、バッグを肩にかけ直し、手を腰の前に組んで、きれいにお
こんなことのできる子だと思ってなかったので、アキはとまどう。
「い、いや……」
そう、押しつぶしたような声を立てる以上の反応はできなかった。
そのあいだに、久美子は、お辞儀から直って、コケティッシュに笑うと、足早に駅の自由通路を去って行った。
まばゆすぎる白い明かりが照らす自由通路で、その白いワンピの後ろ姿はすぐに見分けがつかなくなる。
白がこんなに似合うって、いいな。
「さて」
と、アキはため息をついた。
秋は日が暮れるのが早いから、体感より夜の時間の進みが遅い。
この長い夜をどうやって過ごそう……。
そんなことまで考えなければいけないから、やっぱり秋は嫌いだ。
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