第4話 蹴飛ばしてやりたいのだが
アキの一か月の給料として銀行に振り込まれるのが二十二万五千円。
一か月のあいだ、一日じゅう働いて、そんなもの。
それでもいっしょに大学を卒業した同期の子のなかでは高いほうらしい。
どうやっても、たとえボーナス後であっても、一回の買い物で二十万円なんて使えるはずがない。
でも、服を買いに行く予算が二十万円というのが、親の会社でモデルをやっているこの小娘の生活のリアルというものなのだろう。
だから腹を立ててもしようがない。
デニムの、と考えていたけど、ふと、駅前の幹線道路を隔てた向かいのビルにレザーの専門店が入っているのを思い出した。
バッグや財布が主だが、たしかレザーのジャケットとかも売っていたはず。
しかも平均的にお高かったはず!
高給取りのこいつにはちょうどだろう。
それに、高給取りの高校生につき合ってでもなければ、この店に入る機会もないことだろうし。
歩道橋を渡って、ビルの二階の入り口から入る。
古びたビルに入っているが、この店は、木調のシックな看板を電球色の明かりで照らして、ショウウィンドウのなかも木調で統一していて、めいっぱいの高級感を演出している。
アキは、入るときにびびった。
アキがいま身につけているもので、この店に入るのにふさわしいものは一つもない。
「店に来たからには何か買ってください」的な圧力を感じたら、何か小物を買って帰ろうと思った。
ところが、久美子は何の気後れもせずに店に入った!
やっぱり、蹴飛ばしてやりたくなった。
店員さんもお高くとまっているのかな、と思ったら、気さくに、庶民的に話しかけてきてくれた。とりあえず助かる。
しかも、店員さんのシャツとベストとスカートがけっこう安っぽい。
これも、ここのお店は敷居は高くないですよ、と見せるための策略のなか?
アキは、久美子の腰の後ろに手を回して、その久美子の体を押し出して
「あの。この子が高級感のあるレザーの服がほしいって言ってるんですけど」
と、自信たっぷりに言ってやった。
久美子ははにかんで笑った。
「高級感のある」と言っているのに、否定もせず、とまどいもせず、笑った!
セレブ娘で、美少女で、しかもぼろ服を着ても美少女ぶりが消えない美少女。
じゃあ、セレブのほうも、少しぐらい損失させてやっても傷つかないセレブぶりだろう。
アキは、蹴飛ばすかわりに、この小娘にめいっぱい
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