第10話 最終回

病院に到着し、板里君のいる部屋に向かった。

部屋に向かう途中、他の病室の入院患者の名前を見てみるとそこには、他の24Hの人たちが連続して名前が載っていた。


私たちは板里君のいる部屋の前に着いた。お母さんが扉を開けるとそこには一人でいる板里君が眠っていた。私たちが部屋に入りしばらくのことだった、白衣を着た中年の医者が入って来た。

「板里君のお母様ですか?」

「はい、そうです。泰斗の状況はどんな状況ですか?」

「今のままでは何とも言い難い状況です。まだ意識も無い状態で、火傷も酷いですから」

「泰斗は助かるんですよね?どうなんですか!」


板里君のお母さんは医師の説明を聞いて正気を保てなくなったような感じがした。私だって正気を保つのに必死だった。今の好きな人の深刻な状況を聞いて、正気を保てる人はなかなかいないと思う。

「お母さん落ち着いてください!気持ちは分かります。我々も助けたい気持ちには変わりありません」

医師はお母さんを落ち着かせようとしたがお母さんはその場で泣き崩れた。

多分、私が家に来たときから泣きたかったのだろう、それが今になって込み上がってきたのだと思う。


医師は一度頭を下げて病室を後にし、お母さんは一度お手洗いに行ってくると言っていた。

私はまだ眠っている板里君の近くにある丸い椅子に座り、板里君の手を取り話しかけた。

「ねぇ、板里君、もしいつか起きてきてくれたら私はあなたに伝えたい事があるんだ。それはね、あの日の放課後に伝えたかったことなんだ。あの時楽しみにしてるって言われて私はすごく嬉しかったんだ。あの時話したい事いっぱいあったのに、、、」

私はいつの間にか泣いていた。やっぱり耐えるのは無理だったんだ、耐えなくて良いんだ。この涙は出して良いんだ。中学のあの日の時も泣いて良かったんだ。


そして私はまた板里君に話しかけるように言った。

「中学の時にね、私、いじめられていたのいじめられていた理由はね君が好きになっただけなの」

そう、私がいじめられていた理由は板里君が好きになったからだ。

どこからか私は板里君のことが好きというのが拡散された。その時は板里君は女子の中では人気者だった。でも陰キャみたいな私が好きになっただけで、一軍女子に変な噂をされ、それが男子にまで行き渡り、色々な陰口が言われるようになった。

「そのことは多分、君の友達の亜紀君が知ってるんだと思うよ。でも板里君の事を思って言わないでくれたんだ。亜紀君は私に手を差し伸べてくれたんだ、でも私それを無視しちゃったんだ。あの人を巻き込みたくなかったから」


病室に板里君のお母さんが戻ってきた。そして私に一つ話してくれた。


「泰斗ね、中学の頃にいじめに遭遇したんだって、その時自分は見てるだけで何も出来ずじまいだったんだって。そしてその数週間後、いきなり事故に合っちゃって記憶の一部が無くなって誰がいじめられていたか分からなくなったの。それから余計に誰なのか気になるらしいのよ。可愛そうよねあの子も色々と災難だわ」


「そうですよね、私もその事を聞いたことあるんですけど、なんか泰斗君の事を思うと胸が苦しくなったような感じがしたんです」


「こういう時は親が助けないといけないのに私は何も出来ずじまいだわ」


「そんな事無いですよ、きっと泰斗君にとってかなりの助けになってますよ!」


「それなら良いのだけどね、でもとりあえず今はこの子のためにも今はがんばるわ」

さっきまでのお母さんとは少し変わったような気がした。どこか頼もしくなったような気がする。


―――――――――


ー 3週間後 ー

私はあの後から毎日のように通うになった。つまり板里君はまだ目を覚ましていない。

病室に入ってはいつもいつも板里君に話しかけた。

「ねぇ、今日の天気は晴れだよ。ここ最近ずっと雨だったんけど今日だけは晴れてくれたんだ、そのおかげで今日はここまで簡単に来れたよ。」

板里君の親も毎日のように看病しに来ている。


まだ目は覚ましていないが、だんだんと顔の怪我や火傷は治ってきている。

話しかけていると、板里君のお母さんがやって来た。

「あら、今日も来てくれたのね、本当にありがとうね。」

「いえ、私がただ勝手に来たいなと思っただけなので。」

「それでも嬉しいわよ。ここまでお見舞いに来てくれる人はなかなかいないわよ。」

あの時よりかは元気を取り戻していて、本来のお母さんが見れた気がした。


「もしかして結ちゃん泰斗のこと気になってる?」

「え!なんで分かったんですか!?」

「うふふ、やっぱりそうだったのね。嬉しいわ、結ちゃんが彼女さんなら私としても安心だわ。」

「いやいや、まだ彼女って決まったわけじゃないですよ!」

私は戸惑いを隠しきれずに言った。それを聞いたお母さんはニッコリとしていた。

「もし、泰斗が目を覚ましてくれたらその時はお願いね。もう辛い思いはさせたくないのよ、だから協力してほしいの。私は親として、結ちゃんは友達として。」

お母さんは真剣な表情で言ってきた。私も同じ意見だ、これからは楽しい日常を送らせてあげたいそう思っている。

「もちろんです。私もできることは最大限頑張ります。」

「本当にありがとうね。」


そして私はお母さんにあの事を言おうと思った。いじめの被害者は私だってことを。

「あの、一つ言いたいことがあるんです。」

「うん?なにかあった?」

「実は中学の頃あったいじめの被害者は私なんです。」

これを言うのもどうかと思ったが、隠しているのも少し申し訳なく感じたので私は正直に言うことにした。

そしてお母さんは何か思い出したかのように言った。

「あぁ、そのことね。その話なら泰斗の友達の亜紀君って子から聞いたの。」

それを聞いた時疑問に思った。なんで亜紀君は板里君の親に言ったのだろうかと。


話を聞くと、亜紀君は最初に板里君本人に伝えたらしい、このまま何も知らずに終わらせるのも辛いと思ったらしい。それであの爆発があった二日後くらいに家に来て説明したそうだ。

「まさか、いじめられていたのが結ちゃんだったとは思わなかったわ、その時聞いた時はびっくりしたのよ。こんなに人思いな子がいじめに合うなんて、世の中は本当に不条理ね。」

「仕方ないことだと思ってます。私は人を不快にさせたからいじめられた。ずっとそう思ってます。」

それを聞いてお母さんはこう言ってきた。

「いい?どんなにいじめられても、悪いのは必ずいじめた人なのよ、先に手を出し人を傷つけたり、大勢で一人をバカにしたほうが悪いのよ、だからそんな事思わないでね。結ちゃんは良い子なんだからね。」

「はい、分かりました。」

どこか私のお母さんに似ている、私のお母さんも同じようなことを言っていた。

もう日が暮れてきたので私は帰ることにした。


―――――――――


ー二年後ー

「結ー!卒業できたね!」

「うん!良かったね」


あれから私たちは卒業式を迎えた。

卒業証書を手に持った私たちはみんなで校門の前で担任の先生と写真を撮った。

卒業式が終われば周りの男子たちもはしゃいでおり、いつもより元気だった。


「結ちゃん?」

誰かがわたしの名前を呼んだような気がする。実香でもないし、私のお母さんでもない。呼ばれた方を振り返ってみると、そこには泰斗君のお母さんがいた。


「あ!泰斗君のお母さんじゃないですか!」

「結ちゃん卒業おめでとう!自分の子じゃないのに何故か泣けるわ〜」

「ちょっとやめてくださいよ〜!」

そう話していると私のお母さんも来た。

「あら、泰斗君のお母さん。久しぶりね。」

「え〜ほんとよ!相変わらずキレイね!」

「そんな事無いわよ〜!」

こういう話を会うたびにいつもしていたような気がする。


泰斗くんはあの後、目を覚ますことはなかった。

私と泰斗君の御両親に見送られていった。

その時は必ず目を覚ますと思っていた。目が覚めて、退院して、そして二人で何処かに行きたかった。でもそれを叶えることはもうできなくなった。

その後、泰斗君のお母さんたちは部屋の整理をしていた。するとそこにはある一冊の日記帳があったという。

それは一年生の時から書いてあったらしくほぼ毎日書いてあった。

内容の一部には私のことも書いてあったらしく見せてもらった。


『4月10日 月曜日

今日は隣の結さんという人に話しかけてみた。

めっちゃどタイプだった。少ししか話していないが多分あの人は元気な人で、やさしい人と思った。あの人を忘れることはないだろう。あと、とりあえずサッカー部に入ることにした。』


『5月9日 火曜日

今日学校に入ると、結さんがいた。

話しかけようと思ったが、そんな勇気が出ずに終わった。

てか、部活の走りキツイわ。』


『2023年 9月18日 月曜日

今日は亜紀と喧嘩した。

亜紀からは中学の頃のいじめの被害者が結さんだということを打ち明けられた。

その時は胸が痛かった。昨日の事を書いているのにこれを書いているときも痛い。結さんに申し訳なかった。でも好きには変わりない。』


などいろんな事が書いてあった。

私はこれを読んで涙が出た。これを読んだ私はもっと好きになった。

付き合っているわけでもないのに私のことをこんなに思っていてくれるんだなと思った。話す回数は少なかったがそれでも幸せだった。時には笑ったり、行き詰まったりしたけど私がしてきた恋愛の中では一番と言えるほど最高な恋愛だった。

日記帳は私が手に持っておきたいくらいだったが、泰斗君の御両親と話し合った結果、空でも楽しかった事を日記にまとめて私たちが空に行く時に見せてもらいたいと私たちは思って、泰斗君と一緒に連れて行ってあげることにした。


泰斗君のお葬式ではいろんな人が参列してくれていた。

それほど人柄が良かったんだと思った。最後のお別れの時には、日記帳を棺桶に入れてあげた。

最後、私は泰斗君に言った。

「泰斗君、今まで本当にありがとう。あなたのおかげで私は毎日が楽しかったよ。私はあの時伝えたかった事があったの。でも、言えなかったよね。だから今ここで言うね、ずっとずっと好きでした。お空でも元気に過ごしてね、そして私は君との恋がいつか叶うと信じてるよ。またね。」


そうして私はお別れをした。


あれから二年経ったが、一度も忘れたことがない。

声も顔も匂いも。

卒業式でもしっかりとお空にいる人達の卒業証書もその家族に渡された。


私は泰斗君の卒業証書を持ったお母さんと写真を撮った。

これが一番の思い出写真だ。


人と人は必ず何処かで別れる。

いつ別れるかは誰にも分からない。

余命宣告をされた人でも必ずそのときに亡くなるとは限らない。

だから今を生きる、全力で楽しむ。

私は今回のことで分かった、大切な人が目の前で消えていくのはどんなにつらいことか。

好きならためらわず伝えるのが一番なのだ。


私は泰斗君が好きだ。そしてこれで終わったわけでは無い。

いつか、いつか、、、きっと、必ず、、、

そう思い私は青く澄み切った空を見て思った。


「いつかはきっと」を信じても良いですよね?と。


ー 終了 ー



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いつか叶う恋を、、、 みむで @kinomo888to

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