第8話

ー 現在 ー

学校が終わり、本来はその後部活があるのだが、今日は偶々休みだった。なので俺はいつも通り亜紀と二人で帰ることにした。

帰っている途中に亜紀が「なぁちょっと公園寄らね?」

「おう、良いけど」

亜紀がそう言うので行くことにした。

公園のベンチに腰掛け、バックを横に置くと、亜紀が俺に言ってきた。


「なぁ泰斗、お前あの人のこと諦めてくんね?」

「なんでだよ?」

「お前ここ最近話してないんだろ?しかもあっちが気があるかも分かんないし。何より俺あの人のこと好きだし。」

「そんな理由で諦めることは出来ない。」


あの人というのは結さんの事だ。

俺は少しキツい言い方で亜紀に言った。亜紀が結さんの事を気になり始めたのは俺と同じくらいのときだった。

この亜紀の発言は自分勝手すぎる。好きになるのは勝手だし、好きなれば良いと思うが、この発言には理解が持てなかった。

そして俺はもう一度亜紀に質問した。


「なぁ、なんで俺が諦めなきゃならないんだ?」

「だから俺は結さんのことが好きなんだよ。だから少しでもライバルが減れば、結さんに話しかけれるし、あっちも俺に気を引くんだと思うんだ。」

「そんな事をしてお前は嬉しいのか?」そう言うと亜紀は今までとは一変した態度で話してきた。

「うるせぇな!お前はもう結さんと話してないんだろ?しかもあれから話しかけられないのもお前への気が無くなったんだよ!そんな事も分からないのかよ」

その言葉を聞いて、俺も我慢出来ずに亜紀に言った。


「お前は誰なんだよ?そんなこといちいち言わなくても良いだろ?確かにここ最近話していないのも事実だ。でも俺はまだ好きなんだよ。」

「本当に好きなのか?」と亜紀は俺に質問する。

俺はもちろん好きなので、「そうだ」と答えた。


そう言うと亜紀は少し落ち着いたのか声を低くして言ってきた。

「お前がまだ知らないことを教えてやる。」

「なんだよ?」

「お前がずっと引きずっている中学の頃に起きたいじめのことだよ。お前は確かそれが起きた数週間後に事故で頭をぶつけて記憶のほんの一部が無くなったんだっけな。それでいじめられていた人を忘れたんだろ?」

「あぁそうだよ。ずっと思い出せずにいるし誰も教えてくれない。」

「そうだろうな。じゃあ俺が教えてやるよ。いじめられていた人はお前の好きな人、結さんだよ。」


この話を聞いた時、”嘘だよな?”と思った。それをずっと隠されていた理由もなんとなく分かった気がする。


『結さんは転校しました。』

『なんでですか?』

『家の都合です』


結さんがあの時いじめられていた人だったんだ、あの時転校したのも結さんだったんだ。

まだ理解が追いつかなかった。


「お前はずっと助けられなかったとか、ただの傍観者になってたとか言ってたけど結局助けられなかった人は結さんだし、いじめられている結さんをただお前は何もせず見てたんだよ。」

「そうか、でもお前も結さんを助けられなかったんだろ?」

俺はそう思った。そう言っている亜紀も結局は俺と一緒で何も出来なかった人だと、俺は思った。

「俺は、結さんを助けてたんだよ。いつもメッセージで話を聞こうとしていた。でもいつも未読で助けようにも助けられなかった。そうしている内に結さんは転校したんだよ!俺はもうダメだと思った。何もしてあげられなかった。ただ、、、結さんが好きなだけだったのに、、、」


亜紀の顔を見ると泣いていた。追い詰めるのも今は無駄だと思った。亜紀は中学から結さんのことが好きだったらしい。でもそんなことを中学の頃言っていた覚えがない。俺は亜紀に言った。

「そうだったんだな。今お前が言いたことはよく分かったよ。でもな人はいつ好きになっても良いんだよ。誰より遅く恋をしたってそれは良いことなんだ、誰かに取られたりするのが恋だし、結果的には相手が誰かを選ぶかだよ。俺はそこだけを理解してほしい。そしてありがとう、結さんを助けてくれようとして。」

亜紀は下を向いてしばらく泣いていた。気がつけば夕日は今沈もうとしていた。


それから家に帰り亜紀が言っていた事を思い出してしまった。


『いじめられている結さんをただお前は何もせず見てたんだよ。』


俺は泣いた。俺はあの夜泣いていた。

何も出来ずただ見ていた弱い俺を思い出してしまって泣いていた。

その夜はご飯も食べずに寝てしまっていた。


次の日、俺は結さんに合わせる顔も無いと思った。そして亜紀のために諦めようと思った。


学校に行くと亜紀が教室に居た。ただ昨日あのことがあったので会話は無かった。


一限目が終わり廊下に出ると結さんと友達の実香さんがいた。すると結さんは立ち止まり俺に話しかけてきた。

「ねぇ、板里君、今日の夜話さない?」

約一年ぶりに話しかけて来てくれた。ただ俺は無視をして、素通りした。申し訳なかった。これも結さんや亜紀のためとも思った。今事実を知った俺には合わせる顔が無い。

でも俺は結さんが好きだ。


昼休み。亜紀が俺のとこに来た。

「なぁ、昨日は少し言い過ぎた。ごめん。」

謝りに来たのだ。

「いや、大丈夫だよ。お前が凄いってことが分かったよ。改めて理解できた。それで俺は結さんを、、、」

俺が結さんを諦めようと話しているところに亜紀が入ってきた。

「それでお前は結さんを諦らめなくて良いよ。俺は泰斗を応援する。」

「え?亜紀はそれで良いのか?」

「あぁ、昨日俺は間違っていた。そんな間違っている事を言った人に人の好きな人を取る資格はないと思った。だからお前は諦らめなくて良い。だがお前は俺の分まで結さんを愛せ。しっかり自分の愛を伝えてこい。」


やっぱり亜紀は亜紀だった。人の恋愛を応援したりするしっかりと応援するとこがやはり亜紀だった。

「分かった。そうするよ。本当にあの時はありがとうな。」

俺は亜紀にお礼を言い、亜紀は自分の席に戻って弁当を食べ始めた。


ここでもらった恩を無駄にはせず、結さんをしっかりと愛そうそう思った。

今日の夜、結さんにしっかり今日のことは謝ろう。

そしていつか必ず気持ちを伝えよう。

こんなことをしたが俺は気持ちを伝える。



俺はいつか叶う恋と信じても良いのでしょうか―――





  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る