第5話

ー 一年生の頃 ー

この日の夜、俺は中学の頃の友達の亜紀あきと夜ごはんとしてラーメンを食べに行った。

学校が終わり、少し何処かでブラブラしそれからラーメンを食べに行く予定だった。俺は食べることが好きなので、予定がない日に誘われたら必ず行く程だ。


午後七時くらいになりラーメン屋に行くことにした。亜紀がおすすめのラーメン屋があるというのでそこに行くことにした。目的地はここからおよそ十分の所なのでそこそこ近い。店に入って席に座り、俺はメニュー表に目をやった。

取り敢えず何を注文すれば良いか亜紀に聞いてみた。

「なぁ、なんかおすすめある?」

「そうだなぁ、取り敢えずここはシンプルに醤油ラーメンだな。」

「なるほど、じゃあそうするわ。」

ということで二人とも醤油ラーメンになった。


待っている時に亜紀と喋っている時に、恋愛の話になった。

俺から話題を振り亜紀に質問をした。

「最近の恋の状況はどうなんだよ?お前ならモテるだろ?」

亜紀は中学の頃モテていたような気がする。よく女子に告られたと俺に報告してきていたような気もする。それで確か付き合ったりもしていた。

「いやぁ特に良い情報は無いけど、いて言うなら、確かお前と一緒なクラスで、お前の隣の人だっけかな?あの人かわいかった。」


結さんの事だ。流石に俺と被るとは思っていなかった。まさかまだ始まって間もないのに他クラスの人を気になりだすとは、俺は少しびっくりした。

そしてそのまま亜紀は聞いてきた。

「隣なら少し分かるだろう?あの人の名前とか。」

俺は嘘をついた。

「うーんまだ覚えてない。まだ始まったばっかだし、後、人の名前覚えるの苦手なんだわ。」

実際そんなこともない。もちろん名前も覚えているし、どっちかと言うと人の名前

を覚えるのは得意な方だ。だが少しでも知られてほしくなかったと思う自分がいた。亜紀なら名前を聞いてインスタのアカウントとか探しそうだからだ。

もちろん亜紀はそんな事も知らず「そっかー、そりゃ残念。」とだけ言った。

そう話していると、ラーメンが届いた。

ラーメンが届くと、机にまとめて置いてある割り箸を取って、割り箸をキレイに割りラーメンを啜った味はとても美味しくて、あっさりめな醤油だった。


亜紀は食べながら俺に質問してきた。

「逆に泰斗たいとはどうなんだ?気になっている人とかいるのか?」

ここで結さんが気になっているとか言えない。なのでまた嘘をついた。

「いや、いないなー」

「泰斗の隣の人とか良いと思うけどな、ぶっちゃけ気になってるんじゃないの?」

亜紀は少しニヤニヤしながら聞いてきた。まるで心の中を読んでいるのかなと思うほどバレていた。亜紀は確かこういうとこがあった。


「なるほどね、参考にしてみますよ」

「よし!その心意気だ!しかし俺が好きになってしまいそうだよ。あの人は結構かわいかったぞ。」

「お前よく見てるな、、、」

「いや別に?お前に会いに来たら目に入るんだよ。しょうがないんだよ。」


確かに亜紀が色々と言っていることは間違ってないと思う。かわいいのも確かだし、俺の席の隣だから目に入るのも確かだ。


すると急にスマホ通知が鳴った。スマホを見ると結さんからだった。

『今から少し話さない?』ということだった。

俺は見た瞬間心臓がバクバクになった。亜紀には感づかれないようにしないとすぐにバレてしまう。


とりあえず食べ終わったので、会計を済ませ、店を出た。

ここから自分の家は近いので、猛ダッシュで自転車を漕いで家に着いた。

早口でただいまと言い、自分の部屋にある二階に上がった。

ここまで約二十分。やっと返信する時が来た。ここは変に思われても嫌なので普通に『うん、良いよ』と返信した。

しかしなぜ急に話そうと誘ってきたのだろうか。今日、偶々たまたま話しかけて、そこから俺は気になり始めただけなのに、きっとなにかあったのだろうと思った。

そこからは俺たちは色々な話をした。お互いの好きなものや、家族の話などをした。そして中学の頃あったいじめの話をすることにもなった。俺が話したかった理由は、世の中では実際にいじめというものがあるという事を知ってほしかったのと、結さんにいじめの被害者になってほしくないからだ。

かれこれ約一時間以上会話していた。


気がつくと俺は静かに涙を流していた。鏡を見てやっと気づいた。なぜだろう、あの時の事を思いだしても涙は出なかったのに今日だけは涙を流していた。そこにあったタオルで涙を拭った。感情は別に沈んでいるわけじゃない、、、

あの時のことは大体しか覚えていない。いじめがったということとその人が転校したことくらいだ。

いじめられていた人の名前も、顔も何一つ覚えていない。


この話を聞いて、結さんはどんな気持ちになっただろうか。

もしかしたら少し嫌な気持ちになったかもしれない。

そうかもしれないから、いつかまたどこかで会えたら、この事を謝ろう。

俺はそう思い目を閉じた―――。

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