理想郷 2023/11/31

「なんか思ってたのと違うな」

俺は友人と一緒に渋谷にやってきた

ハロウィンにかこつけて、日本中の妖怪が集まり、百鬼夜行すると聞いた。

妖怪の妖怪による妖怪だけの世界の顕現。

数時間とはいえ、それはまさに理想郷である

参加すれば酒の席の話になる。

そう思ったのだが、どうも様子が変である。


ここで毎年コスプレイベントをやっていると聞いたのだが、コスプレをしている人間を見ないのだ。

それどころか、警察や陰陽師共が巡回している始末だ。


なぜこんなことに。

本当なら、俺たちは今頃楽しくやっているはずなのに。

電話している友人を見る。

百鬼夜行のこともこいつから聞いて、今知り合いから事情を聞いている。


友人が電話を終えてこっちを見る

「去年、若い奴らが大暴れしただろ。それで、もともと非公式なのもあって、今年は徹底的に潰す事になったらしいぞ」

「これだから人間は」

「若い妖怪も暴れたそうだ」

「‥これだから若いやつは」

俺はため息をつく。

「百鬼夜行のことは?」

「ぬらりひょんの大将も、なんか気が乗らないと言ったらしい」

ぬらりひょんの爺さんの事を思い出す。

あの人、意外と馬鹿騒ぎ好きだもんな。


「こんなことなら池袋でやれば良かったのに‥」

思わず愚痴をこぼす。

「池袋のハロウィンは終わってから気づいたらしい。ニュースになるのは、渋谷ばっかりで池袋とか他のところとかやらないもんな」

「そういえば、俺も最近知ったな」


「じゃあ行くか」

友人が歩き出す。

「どこにだよ」

「そりゃ決まってる。飲みに行く」

あたりを見渡しても開いている居酒屋はない。

「開いている店ないぞ」

「さっき聞いたから大丈夫。オレたちみたいに何も知らないで来た奴らがやけ酒してるってさ」

思わず苦笑する。

「あー、そりゃうまい酒が飲めそうだな」

「間違いない」

二人で笑う。


しばらく歩き、路地の奥に入ったところに、その店はあった。

店に入ると、奥の方に何人か顔見知りが見えた。

すでに出来上がっているようで、隣に行くまで俺たちに気づかなかった。

「よく来た。理想郷へようこそ」

俺たちに気づいた一人が、歓迎の意を表す。

間違いない。

俺たち酒飲みにとって、酒が飲めればどこでも理想郷だ


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毎日短編集10月分 ハクセキレイ @hakusekirei13

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