どこまでも続く空 2023/10/23

「どこまでも続く青い空、白い砂浜。くぅ~、サイコー」

「こんなんで喜ぶなんてすげーな、お前は」

「だって、仕方ないよ。こんなに綺麗な砂浜なのに、誰もいないんだよ」

「そりゃそうだ。もう秋だぞ。泳ぐには寒すぎる」

「沖縄ではまだ入れると聞きましたが?」

「そりゃ沖縄の話ですから」


今朝、彼女がどうしてもと言うので、海へ連れてきた。

その彼女は波打ち際で波と格闘していた。

楽しそうだが、どこか無理しているようにも見える。


「それで?相談あるんだろ」

「‥太郎君にはお見通しか」

「突然海に来たいと言われれば怪しむさ」

そう言って、俺は彼女に歩み寄り隣に立つ。

彼女は水平線を見ていた。

俺もそれにならう。


「実はさ、親から彼氏に会いたいって言われてんだよね」

「そうなのか。俺は御両親に会ってもいい。でも、なんか会って欲しくないように聞こえるけど?」

「‥今まで秘密にしてたけど、あたし実は鬼なの」

「前に言ってたな。由来が分からないけれど小鬼の末裔だって」


警備の仕事の時に、酒に酔って暴れた彼女を取り押さえたが馴れ初めだ。

人化の術を使って、初めて人里に慣れない酒(鬼ころし)を飲んだかららしい。

鬼というのはその時聞いた。


「違うの。由緒正しい鬼の末裔なの」

嫌な予感がして彼女を方を見る。

彼女は真剣な顔でこちらを見ていた。

「由緒正しいって、まさか」

「そう、鬼ヶ島の鬼なの」

思わず天を仰ぐ。

一面青い空だった。


とりあえず深呼吸しよう。

最悪のケースだった。

「俺が桃太郎の末裔なの知ってるよな」

俺は桃太郎の家系として生まれた。

俺のご先祖様は鬼ヶ島の鬼退治をして、その功績が認められた。

それから桃太郎の家系は、代々人に害をなす妖怪を捕まえたり、懲らしめたりしており、俺もその仕事をしている。


「うん。だから言い出しづらかった」

ごめんねと彼女は言って言葉を続ける。

「こういう時代だから、桃太郎に興味あるひと、あんまり居ないの。お母さんも応援してくれてるし。でもお父さんがね」

「お父さんが?」

「バリバリの桃太郎アンチです。ハイ」

「ああー」

口から変な声が出る。


「今まで色々理由付けて、会わせなかったんだけど。お父さんは人化の術を使えないし」

「じゃあ、今まで通りじゃないことが起こったのか。人化の術が使えるようになったとか」

しかし、彼女は首を振った。


「お父さん、桃太郎嫌いを拗らせて、人間の文化もよく知らなかったんだけど、この前ハロウィンの事知ったの」

「そ、それに合わせてこっちに来る、と」

ハロウィンなら鬼の格好でも怪しまれないだろう。


突然彼女が俺の手を掴む。

「お願い、会って欲しいの」

「そう言われても、桃太郎じゃあ反対されるだけだよ」

「そこは大丈夫。天狗の末裔ってことにしてあるから。お母さんも全面協力。天狗のフリしてやり過ごせばいいの」

準備万端だった。

「駄目かな?」

彼女が上目遣いで見てくる。

俺はこいつのコレに弱い。

「分かったよ」

というと、満面の笑顔になり、そのまま海の方に走って行き、はしゃぎ始めた。

現金なものである。


俺は、ため息をこぼす。

一週間後のハロウィン。

それまでにボロを出さないよう特訓しなければいけない。

あの日は警備の仕事が有ったが、休むことにしよう。

忙しいが頼み込むしかない。


今から気が重い。

もう一度空を仰ぐ。

どこまでも続く青い空。


鬼退治のほうが絶対に楽だよ。

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