忘れたくても忘れられない 2023/10/17

朝食の時、パンを落とすと、必ずジャムを塗った面を下にして着地する。

そして床にジャムがぶちまけられる。

そう必ず、だ。

普通ならば二分の一のはずだ。

だが必ずジャムと床が接触する。

はっきり言って異常事態だ。


困った俺は物知りな幼馴染みに相談した。

こいつが言うには、それはマーフィの法則なんだそうだ。

難しそうな法則が出てきたが、知りたいのはそんなことではない。

どうすれば解決するかということだ。

こいつが言うには解決方法は2つ。

1つ目は気にしすぎないこと、だそうだ。

俺は激怒した。

気にするな、だと。

パンが落ちていくのをスローモーションで眺め、そして床にジャムがぶち撒けられていく様子を忘れろというのか。

あの悲惨な出来事は忘れたくても忘れることはできない。

俺は話の続きを聞かず、その場を去った。


夜、家に帰り夕食を食べていると、だんだん頭が冷えて、今日のことはやり過ぎではないかと思い始めた。

せっかく力になってくれたというのに、お失礼だったと思う。

幼馴染みにどう謝るべきか考えていたところ、あいつからメールが届く。

『そろそろ頭冷えたか?お前は短気すぎる』

さすが幼馴染みだ。俺のことはお見通しである。

そして、2つ目の解決方法が書かれていた。

『お前、パン食べるのをやめて、ご飯に転向しな』

俺は戦慄した。

まさかそんな方法があるとは!

明日からご飯にしよう。

これでジャムは床に撒かれない。

俺が感動していると、メールには続きがあることに気づく。

『朝ごはんはちゃんと食べろ。お前は腹減ると怒りっぽくなる』

何もかもお見通しらしい。今朝食べていない。

『パンを落として大騒ぎして、朝ごはん食べるのを忘れるの、お前くらいだよ。普通、忘れたくても忘れられないぞ』

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