駆け引きⅡ
不意に海斗が空を見上げ、怪訝な顔をした。
「こりゃ三十分後には雨だな」
深矢と茜もつられて空を見上げた。確かに雲がかってはいるが、雨雲ほど厚い雲ではない。
「ついに天気予報までできるようになったのか」
「こんなの雲の様子と風向きが分かれば誰でもできる」
「結構降る?」
「おそらく」
戻りはタクシーだな、と海斗は呟いて店の扉を開けた。
カランカラン、とドアベルが静かな店内に鳴り響き、カウンター席に座る団長がこちらを向いた。
「やぁ、早かったね!」
「どんな『急ぎの』用事ですか」
予想はついていたが、団長に焦った様子はない。
「君たちが今きっと欲しくて堪らないものが届いたんだよ。早く渡さないとと思ってね!」
もったいぶった様子で、団長はトランプのように三枚の封筒を広げてみせた。その封筒には見覚えのある印があった。
長い嘴と足を持った鳥が翼を広げた部分に、三文字のローマ字が並んでいる。
「SIGの印……?」
海斗が目を凝らして首を傾げたのを見て、団長はカウンターの上にそれを置いた。
深矢はすぐにそれを手に取り、中身を開いた。そこには封筒と同じ印の入った薄い紙が入っていた。
「辞令だよ」
手に取るが早く、室内の湿度で紙はみるみるうちに溶けていく。残ったのは、SIGの構成員を示すIDだけだった。
「さあ、君たちは晴れて今日から梟の正式なメンバーだよ。おめでとう!」
深矢達がその内容を理解した途端、団長の激励と共にパン!と甲高い音が鳴り響いた。
見ると、団長が満面の笑みで両手一杯にクラッカーを天に掲げていた。
「……何とも言えないタイミングですね」
降ってきたカラフルなテープを払いながら呟く。
確かに、最終試験と言われた任務は終わり、深矢の謹慎期間も終了したため、表向きはキリがいいだろう。
しかしまだ全てが終わったわけではない——拝島が残っている。
「けど、これで君たちには一つ権限が許される」
「SIGのデータベースへのアクセス権……」
茜がポツリと呟いた。それに団長がウインクする。
「どうだい?喉から手が出るほど欲しかっただろう?」
ハッと顔を上げ、視線を交わした深矢と海斗の表情は、嬉々としたものだった。
これで拝島の情報が調べられる。あいつの口を割ることができる……!
海斗の顔にはそうはっきりと書かれていた。
そして深矢も内心は同じくらいにしめた、と思ったのだった。
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