また誰か殺される?
第40話 僕は色付きリップをつけない
退院して塾の授業に追いつくための猛勉強がひと段落したら、こんどは期末テストだという。学校のテストは眼中にないから特に勉強するってわけではない。
でも、12月というのはどこか落ち着かないものだ。まわりがソワソワ感を出しているせいだろう。僕は普段となにもかわらないはずだ。
クリスマスが近づいていても僕には関係がない。中学にはいってからクリスマスプレゼントは現金でもらうことになっている。自由に使えて便利。今年のクリスマス・イブは日曜日だから学校でプレゼントがやり取りされるのを見なくて済む。プレゼントを交換する相手がいなくて寂しいわけじゃないからな。
期末が終わりクリスマス・イブが来週に迫った日曜日、僕はまあなんというか、ショッピングセンターに買い物にやってきた。正直に言ってしまうと、ココノにナイスなクリスマス・プレゼントを渡してご機嫌をとり、お兄ちゃんの株を大いにあげたいと思っているのだ。せこい。
小学生の女の子がなにに興味をもっているのか。僕には簡単な問題である。オシャレ! ズバリ、大正解でしょう。ちびまる子ちゃんの丸尾くん。てなわけで女の子がオシャレになるためのグッズをゲットすべく、いわゆるロフトへやってきました。
僕はすでにアタリをつけている。なぜなら、同級生はみんな中学生、女子の話題を盗み聞き、オッフォン、もとい小耳にはさんでいるからだ。背伸びをしたいお年頃、中学女子にウケるものは小学校高学年の女の子にもウケる。勝利は約束されている。
コスメという看板を見つけ、やってきた。うん、商品がありすぎる。ここから選ぶのか。だが、大丈夫、僕が探しているオシャレ・グッズは色付きリップなのだ。乾燥する冬にマストアイテムのリップ、色がついてオシャレならうれしくない? 僕調べ。人類は検索を手に入れているからな、僕でもおすすめな色付きリップの知識を得られるのだ。
ロート製薬とかニベアは却下である。名前がオシャレではない。メイベリン・ニューヨーク。うん、オシャレ。パッケージはポップでかわいいのだけれど、名前はやっぱり硬いというか、高級そう。小学生向きではない。じゃあ、なにならいいんだよということになって、僕の答えはコレ。
キャンメイク ステイオンバーム ルージュ
キャンメイクというポップなブランド名は中学生でも委縮することなく買える。しかもなんだかカワイイ。お値段638円税込み。ナイス。中学生にはどうってことないけれど、小学生のおこづかいにはちょっぴり高く感じる。そんなジャストミートなお値段ではないか。そして、色は。
ミルキーアリッサム
調査したところによると、この色は店舗限定となっていて、ネットでは買えない。限定って女の子大好きだもんな。これならまちがいない。かわいい感じの赤っぽいピンク。どこがミルキーでアリッサムなんだかわからないが、気にしない。
えーと、ハンガーにつるされた商品を指でたどり、これだ。見つけたと思ってとろうしたら、もうひとつの手があって、お互いに触れた。
あっ。
体を起こしてみると、横には笹井さんが立っていた。また笹井さんと手が触れて、あっとなってしまった。京極夏彦の本のときと今度で2回目だ。やっぱり運命。
「あれ、笹井さん」
「わ、渡辺くんも?」
も? ああ、色のことか。同じの取ろうとしたからな。
「うん、そう。いい色だよね。かわいいし、澄んだ感じがする色だね」
「そうかな」
なんだその反応は。同じものを選んだんだから、笹井さんだっていいと思ってるんじゃないのか? 賛成してくれると思ったのに。
いや、待てよ。その唇。笹井さんはすでにこのリップを使っているのか。リップをほめられたと、むしろ笹井さんの唇がかわいいという風に解釈したのか? ということは、僕の意見に反対なのではなく、ほめられて恥ずかしがっている、のか。そんな風に思われたら、こっちまで恥ずかしいじゃないか。
「渡辺くんも似合うと思う、な」
「はい?」
なに言ってるんだ、笹井さん。僕に似合うって。ああ! 渡辺くんも? のも? は渡辺くんも色付きリップつけるの? のも? だったのか。僕はまちがっていた。そりゃねえだろ、笹井さん。クリスマス近いんだしプレゼントだと気づこうよ。僕って色付きリップつけそうなイメージなのか?
「ちがうんだよ、笹井さん。これはプレゼント。自分用ではない」
「そ、そうなの?」
今度はガッカリしてる? 僕にリップつけてほしかったのか? 僕の唇がピンクになってなにかうれしいか? 勘違いしているときはそんな風には見えなかったけど。ちょっとヒイてるって感じだったような。
「そうだ、笹井さんに聞いていいかな」
「なにを?」
ちょっと嫌そうなんだけど? どんだけ僕は笹井さんをガッカリさせてしまったんだ。そんなことならリップつけるか? おかしなことになりそうだけど。亜衣さんなんてよろこんで大笑いしそうだ。
「小学生の女の子にプレゼントなんだけど、よろこばれるかな」
「小学生の女の子」
なんか勘違いしてる? すっごい冷ややかな目をしているんだけど。
「あ、妹ね。ココノ。この前病院で。ほら、入院したときに見舞にきてくれて、会った」
「ああ! ココノちゃん。ココノちゃんにプレゼントだ」
あっぶねえ。小学生が好きな変態と思われるところだったぜ。いや、すでに思われたけれど、誤解を解いたってところだな。
ココノ、お兄ちゃんはお前にプレゼントを買おうとして好きな人に変態と勘違いされたよ。勇者だろ?
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