2.
エル・ディアブロ。
それが火星から侵略してきた機体の名だった。
六代目皇帝の戴冠式の際に世間にお目見えした
「相手が悪すぎやしないか」
「これ死ぬよなあ」
と、迎撃基地に向かう車内でブリーフィングを受けながらぼやきあった。
宇宙開拓時代、とは言うものの、その実態は巨大企業間における血まみれのゴールドラッシュに過ぎないことは今や誰もが知るところだった。かつて国家が人民を統治していたことは既知の通りだが、宇宙時代が始まって五十年が経過する頃には宇宙に上がった人々に地球の法はまるで通用しなくなった。いかなる国家群が領土問題に口を出そうとも聞く耳をもつ開拓者は皆無だったのだ。そして宇宙空間は地球の法治を逃れた場所となった。代わりにそこに食い込んでいったのは利権で動く企業群だった。
アクシオム、鉄血公司、YAMADA、スタークエイク、HMRC等々といった
今日に至るまでの地球と
開拓された惑星のうち、特に悲惨な道を辿ったのは火星だった。もとより地球との類似していたために開拓が他の惑星よりかは容易なこと、始祖文明が遺した銀河各地に通じるハイパーゲートが配置されていたことなどによって、開拓競争において有利な立場を享受できるために企業間戦争の主戦地となった。結果土地は荒廃し、衛星フォボスは粉砕された後惑星表面に落下して火星開拓は約百年遅れることとなった。
そのうちに企業の圧政に耐えかねた火星の民衆が蜂起し始める。その中でもフロンティア企業からも見捨てられた火星は市民革命によってようやく地球やら企業やらの圧政から解放された。だがこの星は開拓が遅れたせいで採算が合わないと判断されて革命後にフロンティア企業にすら見切りをつけられるほどのクソ土地に変貌していた。さらに戦争によって企業連中が古代文明の遺跡を発掘しまくった結果世にもヤバい代物を目覚めさせて跳梁跋扈するようになり、火星人の生活は脅かされることとなる。そんな土地に住まう彼らは資源に事欠くこともしばしばなわけで、そういった貧乏な輩が不逞にも地球に降下してきて領土を主張するのはある種当然のことだった。
地球人はそんな連中のことを侮蔑の意味を込めて彼らをマーシャンと呼んだ。
だからぼくらは地球軌道上に居座ってデカいツラしてる奴らに制裁を加えねばならないのだった。
「さっさと撃ち落とせよあんなの」
山田が車窓の外の空に浮かぶ立方体を指差した。夕焼け空の逆光のせいで空間にに四角の穴が空いているようにも見える。あれこそが地球軌道上を周回して領土主張する火星の戦艦群だった。
「まあそのうちやるでしょ。統合軍が反対勢力の制圧にひと段落着いたら総攻撃するって話もあるし」
そもそも地球がこうも簡単にマーシャンに侵入されたのも、大きな内憂を抱えていたからだった。開拓時代が訪れて企業に対して劣勢となった旧国家群は大慌てで地球内の統合を開始した。足並みを揃えて、宇宙にいる目の上のたんこぶどもに“天誅”を下してやろうと考えていたらしい。しかし地球内の強引な統合は大きな反発を招き、その対処に追われているうちに今度は外から来た侵略者にあえなくあちこちを占領されてしまったというわけだ。まさに内憂外患。救いようがない。
山田は早速飽きたように呟いた。
「あー、だりぃっての」
ぼくも頷く。
まったく、同感である。
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