通り雨 2023/9/26

「よう、久しぶり」雨宿りをしていると声をかけられた。

そして声の主の顔を見た瞬間、深いため息がででる。

「この雨、お前の仕業か」

「いい雨だろ」

「悪い雨だよ。おかげでずぶ濡れだ」


僕の反応に、奴は面白そうに笑う。

何を隠そう、こいつはとんでもない雨男である。

イベントのたびに雨を降らすやつで、天気予報より正確な男と呼ばれた。

あまりの雨男っぷりに、国際機関からスカウトされた。

今では雨の降らない地域に趣き、雨を降らすため世界中を回っている。

「重大な使命はどうしたのさ」

「あー、頑張ったかいあって、水に困ってるとこがなくなってね。必要とされるのは当分先だな」

半分は本当である。でも、

「‥スランプって聞いたぞ」

「知ってたのか。最初らへんは歓迎パーティしてくれるの楽しかったんだけどな。流石にずっとやってると飽きちゃって」

「お前、ひどいやつだな。飽きたって」

「仕方ないだろ。流石に毎日パーティやれば日常だよ」

「パーティ飽きたって言ってみてぇ」

二人で笑い合う。

「いつ帰ってきたの」

「昨日だ」

「嘘つけ。先週に歓迎パーティやったの知ってるんだからな」

一ヶ月くらい雨が降らず、水が足りなくなるかもっていうんで、こいつが呼ばれたのだ。

降らなかったけど。

おや?

「そういえば、この雨なんだ」

「あー、なんというか。久しぶりに友達と会って嬉しかっというか、テンション上がったというか」

「お前、会わない内に恥ずかしいこと言えるようになったのか」

こっちが恥ずかしい。

「お、俺もう帰るわ。恥ずかしすぎる」

と言って雨に濡れながら帰っていく。

「またな。次の歓迎会みんなで押し掛けるから覚悟しとけ」

と言うと、あいつは手を上げて返事をして、そのまま行ってしまった。

自分は、濡れたくないのでそのまま雨宿りする。

と考えていると、急に晴れてきた。昔から足が早いやつだった。

あの様子だと、そのままあちこちに雨を降らせるのだろう通り雨みたいなやつだ。

そう思いつつ、水たまりだらけの道に足を踏み出した。

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