幕間挿話


 桐斗の眠り着いたのを確認したフォルティシアは、ホッと一息ついた。

 呼吸も安定していて、健やかな寝息を立てている。すると、桐斗の姿が変化し始めた。

 金髪だった髪が黒髪に。長かった耳が短くなっていく。あっという間に、いつもの桐斗の姿に戻った。

(うまく順応できたみたいね)

 実を言うと、先ほどの桐斗の状態は危なかった。

 一年間、眠っていた力が、フォルティシアという存在が引き金となり、覚醒した。

 眠っていた力が、一気に目覚めたのだ。急な覚醒に、体が追い付かず、体調崩すのは必然と言えば必然だ。

 下手をすれば、順応できずに死に陥ることもあり得た。そう考えると、フォルティシアの桐斗の血を飲んで、余分な神力を抜くという行為は、正解とも言える行為とも言えた。

(神力も、今のところは安定している。山は越えたってところね)

 ふと、口元に手を添える。

 先ほどの血の味が、まだ舌に残っていた。

(美味しかった。力を持つ人間は、肉も血も美味だという話は聞いたことあるけど、本当だったのね。それに……)

 自身の手に視線を送る。

(力を持つ人間を食した怪物は、以前よりもパワーアップするって聞いたことあったけど、本当だったのね)

 椅子に座り込んで、桐斗の寝顔を見ながら考え込む。

 桐斗の血を飲んだことで、フォルティシアにも変化が起こっていた。

 吸血鬼の中でも、上位に位置するフォルティシアは、魔力量は多い方だと自負していた。だが、桐斗の血を飲むと、以前よりも魔力が増えていたのだ。

 桐斗のこれからのことを、思案する。

 神を受け入れた人間。

 怪物の力を上げる甘美な血肉。

「はあ~。先が思いやられるわ」

 この先、力目当てに狙われるだろう。怪物からも。人間からも狙われる可能性もある。しかも、桐斗はお人好しだ。巻き込まれる可能性もある。だからこそ、すぐに駆け付けることができる魔道具、魔力の糸で生成したミサンガを作成し、桐斗に渡した。

「もう、油断しないわ」

 窓の外に視線を向けると、明るかった空が、暗くなり始めていた。

(前回は、油断して桐斗が襲われた。今度は、油断しない)

「私は吸血鬼、フォルティシア。気に入った人間の、一人や二人くらい、守るなんてどおってことないわ」

 静かに呟くフォルティシア。決意のような言葉は、静寂な部屋に吸い込まれていった。

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