エピソード2
幕間~気まぐれな吸血鬼の世話焼き~
1
慰霊碑に寄って、縁正と出会った神社……その神社は無くなっていたが、その場所に行ったことで、縁正の分まで生きる決意をした俺は、家へと帰宅すると、疲れが一気に押し寄せてきたので、そのままベッドに沈み込んで寝てしまった。
そして、次の日。カーテンの隙間から漏れ出る日差しで目が覚めた。
携帯で時間を確認すると、画面は八時三十分と映っていた。
もう少しだけ寝たいなあ。
お盆休みも今日までだ。昨日、遠出したこともあり、疲れも出ていたので、今日はゆっくりしようと考えていた。
意識が覚醒したことにより、喉の渇きを自覚した。水か麦茶でも飲んでから、二度寝しようと、起き上がると、違和感を覚えた。
脳の内側から響くような頭痛。起き上がることがやっとの倦怠感に襲われた。
嫌な予感が走り、すぐさま体温計を取り出し、測定すると、画面に映ったのは三十七度五分という数字だった。
「うわ……完全に熱出てやがる」
昨日の遠出で移されたか?疲労という可能性もあるな。
だるさが出ている体に鞭を打ち、台所に向かい、冷蔵庫を開けた。
「食欲もないし……ゼリーがあれば良かったんだが……あるわけないよなあ」
とりあえず、解熱剤を飲んで、ベッドに寝ることにした。
こういう時は、睡眠をとるのが一番だ。
幸い、仕事は明日からだ。できれば今日で治したいと思いながら、眠りに着こうとした。だが、体中に巡る熱が邪魔をして、眠ることができない。
また、時間が経つにつれて、息をするのもつらくなっていき、呼吸を荒くなる。
携帯で時間を確認すると九時三十分と映っていた。
まだ、一時間しか経っていないのか。
あまりのひどい状態に途方に暮れていると、携帯から着信音が響いた。確認すると、フォルティシアからメッセージが届いていた。
『渡したいものがあるから、昼過ぎにそちらに伺ってもいいかしら?』
どうやら、こちらを訪れたいらしい。
ちょうどよいタイミングと言ってもいいのか。こちらに来るついでに、ゼリーやスポーツドリンクなどを買ってきてもらおうかと考えた。と同時に、わざわざ買ってきてもらうのは申し訳ないという気持ちが芽生えてくる。
だが、背に腹は代えられないと思い、携帯にメッセージを打っていく。
『こっちに来るんだったら、申し訳ないがゼリーとかスポーツドリンク買ってきてくれないか?熱出て体が辛い。その分のお金は払う』
そう打って返信すると、すぐにメッセージが来た。
『は⁉先に言いなさいよ!ちょっと待ってなさい。すぐ買ってきて、そっち向かうから!』
怒られてしまった。自然と不機嫌な顔をするフォルティシアを思い浮かび、笑みが零れる。
『ありがとう』
感謝のメッセージを送り、携帯を置く。
ふと、指に絡まっている縁の糸が目に映る。ミサンガのように編まれた濃い黄色の糸。その中に、一本だけ混じっている桃色の糸。
濃い黄色は、気を許した友人。その中に恋愛を意味する桃色の糸があるということは、恋愛対象として気になっているという関係性を示す。
まあ、先日はフォルティシアが居てくれたおかげで、一年前の飛行機事故と折り合いをつけることが出来た。
一人では慰霊碑も、あの神社も行くことが出来なかったからな。
それに、自身の力について相談できるというのも大きい。
そう考えると、この数日でフォルティシアの存在が、自分の中で大きくなっていることに気づいた。
俺にとって、フォルティシアの存在ってどういう立ち位置なんだ?
異性として好き……というには、まだお互いのことを分かっていないし……。まあ、先日の、フォルティシアのセリフにはドキッとしたけど。
考えが巡っていくうちに、眠気に襲われたので、睡魔に身を寄せるように、目を閉じた。
2
辺り一面に広がる草原。静寂が流れる場所に、気づけば立っていた。空は夜のように暗かったが、星一つもない、闇が広がっていた。
ここは?
なぜここに居るのがという疑問を持ちながら辺りを見回す。目の前には赤い鳥居が目に映るので、ここは神社かなと判断した。
後ろを振り返ると、これは立派で、見覚えのある社が建っていた。
これは……縁正と出会った社だ。
出会ったときは、寂れていた社。だが、目の前に居る社は、土やほこりが被っておらず、柱も腐っていない、観光名所にあるような立派な社だ。
「あの神社も……昔はこんな立派だったんだな。時間って無常だなあ」
風にかき消されるような、小さな声で呟いた。その時だった。
「そうだね」
聞いたことのある声が辺りに響いた瞬間、目の前に男が立っていた。
腰まで伸びた金色の髪。金に相反する銀色の目。そして真横に伸びた耳。
その特徴は、自分を助けるために消えた、かつての神、縁正の特徴だった。だが、唯一違うのは、出会ったときは六~七歳の子供の身長だった。だが、目の前に居る男は、自分と同じ身長だった。
「お前は……」
誰だと問い詰めようとした瞬間、世界が暗転した。
意識が覚醒すると共に、瞼を一気に開けた。
時間を確認すると、十二時を回っていた。ゆっくり起き上がると、心臓の鼓動が響いているのに気付いた。
何だ?あの夢は。
ただの夢のはずだ。だが、妙に頭にこびりつく夢のはずなのに、嫌な夢とは思わなかった。
とにかく落ち着こうと、息を大きく吐き、ゆっくり立ち上がると、体がふらついた。
「あ……やべえ」
二度寝する前より熱が上がっている気がした。立ち上がろうとしても、体がふらつく。呼吸も荒くなっている。
もう一回、体温を測ろうと、体温計を探そうとした時だった。
体の中にある何かが溢れる感覚が走ったと同時に、視界の端に見える自身の髪が、黒色から金色に変わった。
恐る恐る耳を触ると、尖った耳の感触が伝わる。
「まさか……」
ふらつく体に鞭を打ち、洗面台の鏡に向かうと、そこに映っていたのは、金色の髪に長い耳。光にも反射するような銀色の目を持つ青年が映っていた。
「何で?」
なぜこの姿になったのか、考えを巡らそうとするが、体に巡る熱が邪魔をして、考えがまとまらない。
いつまでこの姿なのか、それとも元に戻るのかと考えていると、意識がもうろうとなっていき、膝をついてしまう。
「まじでやべえ……」
このまま意識を手放しそうになったその時、インターホンが部屋に鳴り響いた。
「桐斗!お願い、開けて!」
フォルティシアの声と共に、ドアを叩く音が響いた。
「フォルティシア……」
壁に体重をかけながら歩き、玄関のドアを開けた。すると、目の前には、緊迫した表情のフォルティシアが、勢いよく中に入ってきた。
「結構やばい状態ね」
苦い顔でそう呟いた後、勢いよく俺の首元を引き寄せた。
「ごめん、桐斗。少し我慢して」
何が?と返答する間もなく、首筋に痛みが走った。耳元では、フォルティシアが飲んでいる音が聞こえている。その時、初めてフォルティシアが俺の血を飲んでいるのだと分かった。
だが、痛みは最初だけで、血が飲まれるたびに、体の熱が引いていく。また、血が飲まれるたびに力が抜けていき、フォルティシアに体重を預ける体制になる。
「これくらいかしら?」
首から牙を抜くと、抱き上げてベッドへと運んだ。
「体調は?」
「さっきよりは辛くない……けど、少しだけクラクラする。何したんだ?」
噛まれた部分、首筋を手で押さえながら聞いた。
体中に巡る熱が、幾分収まったことで、呼吸も楽になった。少しだけ眩暈はするが、横になっていると、さほど気にならないくらいだった。
「桐斗の血を飲んで、暴走している力……神力を吸い取った」
「……何で?」
思わず聞いてしまった。
血を吸い出すことで、なぜ熱が収まったのか、その原理が分からなかったからだ。
「桐斗が今出ている熱は、ただの熱じゃないわ。この前、覚醒した力……桐斗の場合は神力ね。いきなり神力が覚醒しちゃったから、体が順応しようとした結果が、今の熱よ」
そう話している途中で、懐からハンカチを取り出して、こちらに渡してきた。
「使って」
端的に言われた。これで、首筋の噛まれたところを押さえろということだろう。
「汚れるぜ」
「洗えばいいわ」
「それじゃあ……お言葉甘えて……」
俺はハンカチを受け取り、首筋に当てた。
「それで、なんで俺の血を飲むことに?」
「さっきの状態……暴走状態だったのよ。私が入ってきたとき、凄かったわよ。この部屋全域に、桐斗の力が溢れていて、私の五感に作用して、縁の糸が視えていたもの。それで、桐斗の力を吸い出して減らしたら、体の負担も減らせると思ったのよ。私と同じ魔力だったら、口吸いでいけたんだけど、桐斗の力は神力。神力だとうまくいかなくて……それで血を吸い出すことにしたのよ。血には神力、魔力、妖力など、力のエネルギーが多く宿っているから」
「なるほど……」
「……でも、献血の量くらいしか吸い取ってないから、余分な力を吸い取ったくらいかしら。吸いすぎると、逆に体調が悪化するし……とりあえず、食べないことには変わりないわ。というわけで、キッチン借りるわ。栄養になりそうなもの作るから」
そう言うと、フォルティシアは立ち上がった。
「ええ!そんな悪いって」
買い出しまでしてくれたのだ。そのうえ料理までしてくれるとなると、申し訳ない気持ちが込みあがってくる。すると、フォルティシアは余裕の笑みを浮かべた。
「何言っているのよ。病人は素直に甘えなさい。それに、気まぐれな怪物の世話焼きよ。今甘えないと、二度と味わえないわよ」
「……分かった。お願いします」
「ふふ。よろしい!」
満足げな笑みを浮かべると、台所へと姿を消した。
食材を切る音、鍋などの調理器具を出す音が聞こえてきて、なぜか安心感が湧き出てくる。
ふと、先ほどのフォルティシアの言葉を思い出した。
俺の力……神力。縁正が宿っていた力。
あの時、フォルティシアを狙っていた輩に攫われたときに覚醒して……それで今、体が順応させようとして、体調を崩しているんだなあ。
今までの状況とフォルティシアの言葉を照らし合わせて考えていると、あることに気づいてしまった。
フォルティシアにも縁の糸が視えていた?
まて……視えていたということは、この縁の糸も視えていたということか⁉
自身の指に絡まっている縁の糸。フォルティシアに繋がっている縁の糸に視線を向ける。ミサンガのように編まれた濃い黄色に、一本だけ含まれているピンク色の糸。縁の糸が視えていたということは、この糸も視えていたということだ。
恥ずかしさが込みあがってきたせいか、顔に熱が集まってきたので、思わず、手で顔を覆った。
「どうしたの?」
料理を終えたのか、フォルティシアが顔を出してきた、トレーを手に持っており、その上にはスープのような物が置かれている。
「フォルティシア……縁の糸、視えてたのか?」
「桐斗の力でね。今は視えないけど」
「視たか?」
「……ミサンガのように編まれた黄色の糸のこと?そういえば、ピンク色の糸が混じっていたような……」
がっつり視られていた。隠していた物がばれたような感情が込みあがって、枕に顔を沈めてしまう。
「あのねえ、私に縁の糸が視えたからって、その色がどんな関係性を示しているのか分からないのよ」
「でも、気になっているんじゃないのか?」
「まあ……ちなみにどんな意味よ?」
興味有り気に聞くフォルティシア。俺は重たい口をゆっくり開けた。
「黄色は友人。濃ければ濃いほど親し気な友人という意味だ」
「ふうん。ピンクは?」
「……恋愛」
「は?」
「だから恋愛って意味だよ!だから言いたくなかったんだよ……ネタバレされた気分になるから……」
まだ自分の気持ちが整理されていない状態なのだ。散らかっている部屋を見られたような恥ずかしさが込みあがってきた。
「まったく……目で視えるものに固執しすぎているんじゃない?」
「どういう意味だ?」
「そのままの意味よ。桐斗が視える糸は縁を示す糸。つまり関係性を現すものでしょ?その人自身の感情、思考を読める訳ではないわ。おそらく、友人を示す黄色の糸の束の中にピンクの糸が少しだけということは、友人という枠組みだけど、その中で気になっているなあとか、そういう感じでしょ?」
「よく分かったな」
「まあね。それで、桐斗は私のこと異性として好きなの?」
ストレートに聞いてきたな……。
にんまりと弧を描くように笑みを浮かべるフォルティシア。対応が確実に末っ子をからかう姉みたいだった。
「分からねえ……ただ……」
「ただ?」
「頼りになるなあとは思ってる……」
素直に今の気持ちを伝えてみた。優しい笑みを浮かべた。
「いいじゃない。今はそれで。ほら、冷めないうちに食べちゃいなさい」
「ああ。ちょっと待ってくれ」
俺は首筋の傷を確認しようとハンカチを離した。ハンカチには血が滲んでいた。
「ハンカチ、ありがとうな。洗って返す」
「いいってことよ」
傷口を確認したいが、首筋にあるため、目で確認することが出来ない。だから、触れて確認しようと、手で首筋に触った。
恐る恐る触れてみる。痛みが走ると覚悟した。だが、いくら触れてみ痛みが来ない。そのうえ、噛まれた跡らしきものが、いくら触れても感じなかった。
「あれ?傷が……」
「ちょっと見せて」
フォルティシアがすぐさま、首筋に近づいた。すると、一瞬、驚いた表情をしながら、呟いた。
「傷が……治ってる」
「え……マジで?」
「跡形もなく」
いくら軽傷とはいえ、先ほどまで血が出ていた傷だ。完治するには数日はかかるはずだ。それが一時間くらいしか経っていないのに、跡形もなく治っているというのだ。
「これも……覚醒した影響か?」
静かに聞いてみる。
「そうね。回復力が人間にしては上がっているわ。まあ、以前と比べて、どれだけ向上しているのか、後々確認したほうがいいわね」
「……俺って、人間じゃなくなったのか?」
恐る恐る聞いてみた。
別に、悲観しているわけではない。縁正に救われた命だ。どういう形であれ、生きていることには変わりはない。
あの時、決めたのだ。生きると。
ただ、専門家に聞いてみた方が信ぴょう性もあるし、覚悟もしやすいと思った。
「何言ってるの?人に決まっているでしょ」
あっけらかんとした表情で言うフォルティシア。
「まあ、こちら側の存在が混ざっているけど……根っこは人間だし……少しぐらい常人と違うからって怪物扱いなんてしないでくれる?怪物ってそんな軽い存在じゃない」
言葉の端端に、呆れと怒りが混じっている気がする。空気も尖っている感じがして、つい、気圧されてしまう。
「人の姿じゃなくなった。傷の治り早くなった。その程度のことで、人から外れたと思うな。桐斗、貴方は人間よ。小さいことでくよくよ悩んで、脆弱なくせに、重い業を背負いたがる……哀れで愛しい人間よ」
怒りと悲しみと愛しさが、言葉から感じた。
フォルティシアから見れば、些細な変化だと言いたいのだろう。確かに、生粋な吸血鬼であるフォルティシアから見れば、そうなのかもしれない。
胸の内が軽くなったのか、自然と笑みが零れる。
「そうか……ありがとうな」
そう言うと、先ほどの尖った空気が柔らかくなった。
「ほうら。病人で、さっきまで暴走状態だったから、体力も消耗してるわ。さっさとそれ食べて寝ちゃいなさい」
促されるまま、作ってくれたスープを口に運ぶ。
フリッジが入ったクリーム系のスープだった。フリッジ以外にもホウレンソウやニンジンが入っていて、栄養面を考慮したのだと分かる。
一口、口に入れると、温かいスープの味が舌に染み渡った。クリーム系のスープだが、以外にもあっさりしている。さらに、フリッジも柔らかく煮込まれており、食べやすかった。
「これ、旨いな」
「そう。良かったわ」
思えば、誰かに作ってくれた料理なんて年単位ぶりだ。自分で作ることはあるが、誰かに作ってもらう料理は、また違う美味しさを感じた。
美味しさも相まって、スープはすぐに完食した。
「ごちそうさまでした」
「完食できたわね。これで十分に睡眠をとれば、力も安定して、姿も元に戻ると思うわ」
「そうか……」
元に戻るという言葉がフォルティシアの口から聞けて、ホッと安心した。
明日から仕事なのだ。元に戻れなければ、仕事どころではない。
「そうそう。私、今夜、ここに泊まるわ」
「はあ⁈何で?」
あまりの爆弾発言に驚きを隠せなかった。
「何でって、また暴走する可能性があるし、心配だから、私が居た方が対処しやすいかなあっと思ったんだけど……嫌だった?」
「嫌というか……一つ屋根の下に男女がいるっていうこと自体が……」
「病人がやましいことするわけないでしょ」
「……」
フォルティシアって、見た目のわりに大胆だなあ。
可愛らしい少女の姿なので、大胆な言動に戸惑いが隠せない。だけど、一晩、居てくれるという言葉で、ホッとしている自分がいるのも確かだ。
体が弱っているときに、誰かがそばに居るだけで、安心感が天と地ほどの差があるのかと痛感した。
「お客さん用の布団とか無いぞ」
「それは大丈夫。吸血鬼って夜に動くのよ」
「つまり?」
「夜、起きているから問題ないわ」
きっぱりと言い放つ姿に、頼もしさを感じた。
「分かった。よろしく頼む」
「ええ」
ベッドに体を沈めた。本当なら、このまま寝た方が良いのだが、あいにく眠気がどっかに行ったままだ。
「そういえば、渡したいものがあるって言っていたが……」
「ああ、それね」
フォルティシアが皿を片付けると、カバンから、ミサンガを取り出して、渡してきた。
紫色と青色が交差するように編まれたミサンガだった。
「これ、私の糸で作ったミサンガよ。外的要因によって所持者が傷づいたり、襲われたりすると、私に知らせてくれて、一瞬で、ミサンガを持っている者に飛べるようにしといたわ」
「え……」
何かとんでもないことを言っているような気がして、理解ができなかった。
「もしかして……作ったのか?」
「ええそうよ」
「……」
もはや言葉を失ってしまった。
フォルティシアが出す糸は貴重と言われている。その糸目当てにフォルティシアを狙う人もいるくらいだ。なのに、その糸を使ってミサンガを作り、渡してくることに、受け取っていいのか不安になった。
「まさか、受け取れないとか言わないよね?」
怪訝な顔で聞いてくるフォルティシア。
「いや……その……いいのか?貴重なんだろ?」
「そう言われているけど、私にとっては、普通に出す糸よ」
「そうなのか……」
本人にとっては、いつでも出せるから、そこまで貴重というほどでも無いらしい。
「それに……責任は取らないとね」
「責任?」
フォルティシアの表情が暗くなると同時に、放たれた意外な言葉。その言葉に、疑問を抱いた。
「桐斗が覚醒したのは、私の存在もあったんじゃないかと思ったのよ。怪物は、否が応でも人に影響を与えてしまう。一年間、眠っていた力が覚醒したのも、私の存在に呼応したから、目覚めたのではないかと思ったのよ。覚醒した今の桐斗は、人や怪物からも狙われやすくなってる」
「フォルティシア……」
つまり、自分に出会ったせいで、俺の力が覚醒した。覚醒してしまったため、危ない目に遭いやすくなってしまった。そのため、責任を感じていると。
まったく、義理堅い吸血鬼だな。
「フォルティシアが変に責任を感じることはないぜ。フォルティシアに出会えたから……あの時、覚醒したから、大事な記憶を思い出せた。一年前の飛行機事故と向き合うことができたんだ。むしろ感謝しかねえよ」
「桐斗……」
フォルティシアに表情が明るくなった。
やっぱり、女性は笑顔の方が良いな。
「けど、フォルティシアがせっかく作ってくれたからな。貰っておく。ありがとな」
ここはお言葉甘えて、受け取っておこう。この前みたいに襲われる可能性もあるし。
そうこう話していくうちに、眠気がやってきて、瞼が重くなってくる。
「安心して眠りなさい。私がそばに居るから」
優しく頭を撫でられた。
俺は、フォルティシアのことが、好きなのかは分からない。だけど、それはこれから知っていけばよい。これから、フォルティシアとの関係は続きそうだからな。
側に居てくれる安心感のおかげなのか、睡魔が一気に押し寄せ、意識を闇に沈めていった。
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