第四章~Set up! Vampire~
日差しが降り注ぐ中、俺は一軒家が立ち並ぶ住宅街を歩いていた。目指すはフォルティシアが滞在している家だ。
今日、浴衣を着付けする約束をしているのだが、先日別れた後、フォルティシアが滞在している家でやってほしいと連絡が来たのだ。
「このへんか?」
教えてもらった住所に着くと、目の前には豪邸と呼ぶにふさわしい家が建っていた。
「まじか……」
一般家庭では見ることができない豪邸に、後ずさりしてしまう。すると、玄関からフォルティシアが現れた。
「いらっしゃい」
「おう」
若干引きながらも、豪邸に足を踏み入れる。家の中は、一人暮らしとは思えないほどの広さだった。
「フォルティシアって……もしかしてお金持ちなのか?」
先日のブラックカードに、この豪邸。答えは決まっているが、恐る恐る聞いてみた。
「私の本名、フォルティシア=フォン=ファルダニアって言うの」
「ファルダニア……」
おそらくフォルティシアの苗字なのだろうが、ファルダニアという単語に覚えがあった。
「知らない?服飾関係で知られている名前なんだけど」
そう言われて、思い出した。ファルダニアという服飾関係で知られているブランドだ。
「もしかして……」
「そ……ファルダニアは、人間社会に溶け込み、成功した吸血鬼よ。お母様が立ち上げた会社で、今や服飾関係で有名になったのよ」
「……」
開いた口がふさがらなかった。世界的有名ブランドが、まさか吸血鬼が運営していたことにだ。ブラックカードを持っていたのも頷ける。
「それで、桐斗。着付けのほかに、ヘアセットもお願いしていいかしら?」
「もとよりそのつもりで、持ってきたけど」
「わお……用意周到」
浴衣を着るには、それに合う髪型というものがある。ヘアセットの道具やメイク道具も持ってきていた。
そして案内された部屋が、ソファーやテーブルが並んでいるリビングだった。
「最初にヘアセットでいいか?」
「それだったら、このドレッサーを使いたいのだけどいいかしら。これ特別性なの」
「特別性?」
一見、普通のドレッサーに見えるが、どこが特別なのだろうか。
「これはね、こちら側を映すように出来ているのよ。吸血鬼はね、普通の鏡だと映らないの」
「そうなのか?」
「ええ。と言っても私ほどの上位となると、普通の鏡でも映ろう思えば映ることが出来るんだけど、どうしても疲れちゃうの。だから、こういう特別性の鏡が必要なの」
ドレッサーの前に座りながら説明するフォルティシア。その間に、道具を並べて用意していく。
「吸血鬼も大変なんだな」
「人間と比べたら、たいしたことないわ」
ヘアセットの道具を、ドレッサーの上に用意した後、フォルティシアの後ろに立った。
浴衣に合うように髪をセットする予定だ。椅子に座るフォルティシアにブラシを手に持つ俺。自然と美容師としても心持ちになる。
「それでは、どのような髪型にしましょうか?」
仕事の時に、お客様へ声をかける時と同じように話しかける。安心できるように、優しく丁寧な口調で。
フォルティシアの顔を覗くと、驚いた顔か目に入る。
「それ……接客するときの口調?」
「まあな。こういう体制だからな。つい仕事スイッチが入っちまう。嫌か?」
「う~ん」
首を傾げるフォルティシア。
「嫌じゃないかも」
「そっか」
顔を見ても気分を害してないと思い、ほっとする。
「出来れば耳を隠せるように髪をまとめ上げることできる?出来るだけ尖った耳を隠したいの」
「耳を……」
人間とは違う耳の形。確かに普通に髪をまとめ上げると、耳が見えてしまう。だが、耳を隠すようにまとめ上げるのは、出来なくもない。
「出来なくはないですよ。他にご要望は?」
「無いわ。任せる」
つまり、ほとんどお任せということだ。センスが問われる内容に、自然と笑みが零れる。
「かしこまりました」
もうすでに、完成形は頭も中に思い浮かんでいる。あとは、それを目指してまとめ上げるだけだ。
ブラシで髪を解かしながら、ヘアピンを使って髪を上げていく。こうしてフォルティシアの髪を触ると、自然と縁正との出会いを思い出す。
「懐かしいな……」
「懐かしい?」
つい零れてしまった言葉を、フォルティシアは聞き逃さなかった。
「前にも、人じゃない奴にこうやって髪を触ったんだ。まあ、あの時はシャンプーとカットだったけど」
「ふ~ん。だから、私に出会っても普通に接することが出来るのね。あんまり怪物に優しすぎると、痛い目見るわよ」
「あはは」
乾いた笑みが零れてしまう。
この際だ。フォルティシアなら話してもいいかもしれないな。
一年前の出来事は、あの飛行機事故から誰にも話すことはなかった。内容もおとぎ話のように聞こえるのもあって、誰かに相談することもなかった。さらに、あの飛行機事故が起こった前日になるため、どうしても事故と結びついてしまう部分もあった。
だが、あの事故から一年経った。時間の経過が気持ちと記憶の整理が成され、今こうやってフォルティシアに出会っている。
話せるチャンスかもしれないな。
「実はな。前に人じゃない奴を、こうやって髪を整えたのって、飛行機事故の前日だったんだよ」
「前日って……まだ」
「ああ、まだ幽霊とかを視認出来なかったんだ。あいつが言うには一日限りって言っていたけどな」
「なんか特別な条件が揃ったのかしら。天候のいたずらで視えるようになるって聞いたことあるけど」
「そういえば……通り雨降ってたな。バケツがひっくり返したように降ってた」
「それだわ」
「まじか」
一年間疑問に思っていたことが、ようやく解決した瞬間だった。そして、あの出会いは本当に奇跡だったんだと思った。
「それで、その時どんな怪物の髪を整えたの?」
「神様」
「……待って。今なんて言ったの?」
「だから、神社に居た神様だよ。まあ、信仰の力で神様になった通りすがりの妖怪だって言っていたけどよ」
フォルティシアは、勢いよくこちらに振り向いた。
「フォルティシア、前向いてくれないとセット出来ねえ」
「あんた……」
信じられないという顔だった。盛大にため息をついた後、渋々前に向き直したので、俺もヘアセットを再開する。
「日本は多神教で八百万の神々がいるって聞いていたけど……」
「といっても、残りかすしかないって言っていたけどな」
「もしかして……その神社、寂れていなかった?」
そう言われて記憶を遡ると、何年も手を加えられていないと思うほど、草木が生い茂っていたのと、土埃があったのを思い出す。
「寂れていたな。何年も手を加えられていないと思う」
「信仰によって力を付け、神格になった者は信仰が減っていくごとに力を失うわ。おそらく、その神は参拝者も居なくなって、消えかけていたんでしょうね」
消えかけていたという単語に、手が止まった。
『僕は残りかすの力しか残っていないから』
見た目と大差ない笑顔で言われた言葉を思い出す。
「今だったら普通に視えると思ってたんだけどな。もしかしたら、もう……」
あれから一年だったのだ。最悪の場合を想像してしまう。そのことを俺の表情で察したのだろう。フォルティシアが笑顔でこちらを見上げた。
「そんな顔しないの。その神様に出会ったのは一年前なんでしょ?だったらまだいる可能性があるわ。人間と比べて、私たちのような怪物は、そんな軟じゃないもの」
「そうか……そうだといいな」
「会いたいのなら、私も手伝うわ。桐斗には昨日、案内してもらったからね」
「それは心強いな」
フォルティシアの言葉に、重くのしかかった気持ちが軽くなったような気がして、笑みが零れた。
「ありがとうな」
そう言って、再度手を動かし始めた。
「それにしても、こんな長い髪を器用に纏めることが出来るわね。惚れ惚れしちゃうわ」
「そうか?美容師になって、まだ五、六年くらいしか経っていないひよっこだ。まだまだだよ」
「そうかしら。私には出来ないわ」
そう言われて、悪い気がしなかった。
「出来ました。このような出来栄えですがいかがですか?」
様々な角度から見て、出来栄えを確認するフォルティシア。すると、満足した笑みを浮かべた。
「わお。想像以上の出来栄えね」
腰まで伸びていた髪を、後頭部下の部分で纏めた。そして、尖った耳を隠したいという要望に応えるために、横の髪を三つ編みにして、耳に被せるようにした。そして顔も少しメイクを施した。もともとフォルティシアは顔立ちが整っているため、薄化粧程度で施した。
「髪型違うだけで、こんなに雰囲気が変わるのね。しかもメイクまでしてもらって……」
「せっかくだから、少しだけ施した」
ヘアセットとメイクも施したら、最後に浴衣の着付けだ。フォルティシアを立たせて、着付けを始める。浴衣は着物と違って簡易的であるため、だいぶ楽だ。着付けは数十分で終わった。
俺の目の前には、紺色の浴衣を着こなした少女がそこに居た。月下美人の柄と銀髪、紺色の浴衣が、より夜を象徴しているようで、普段着ている服装とは違う美しさを出していた。
おお。惚れ惚れする美しさだ。我ながらいい出来だ。
「へえ~。凄いじゃない。気に入ったわ」
鏡の前で一回転して、自身の姿を確認していた。表情や言葉から気に入ってもらえたようで、ほっとした。
「出来栄えもそうだけど、ヘアセットとかメイクをしている仕草が、まるで魔法のようだったわ。惚れ惚れしちゃった。カメラで撮りたいくらい」
「言い過ぎだって……でも、ありがとうな」
窓を見ると、青かった空が少し赤くなっていた。
「それじゃあ、行くか」
「ええ」
俺はフォルティシアの手を引いた。
太鼓と笛の音が鳴り響く祭り会場。道なりに屋台が並んでいて、香ばしいソースに匂いが漂っている。
「桐斗。あれ何?」
「あれは射的だな。弾が商品に当たると、その商品がもらえる」
「あれは?」
「金魚すくい」
「あれは?」
「ヨーヨー釣り」
見るものすべてが珍しいのか、一つ一つ屋台に指をさしていく。
「やっていくか?」
「ええ!」
満面の笑みを浮かべて、射的が行われている屋台に向かっていく。その姿は、見た目通りの少女に見えて、俺も自然と笑みが零れる。
「う~ん。なかなか当たらないわね」
射的を行っているフォルティシア。だが、欲しい景品になかなか当たらないのか、苦い顔して苦戦していた。
「どれが欲しいんだ?」
「あれ」
フォルティシアが指さした方向には、片手で抱えられるサイズのテディベアがあった。
「ちょっと待ってな」
俺は、店主にお金を払って射的用の銃を手にし、テディベアに照準を合わせる。射的用の銃の起動を意識して、引き金を引いた。コルクの弾は見事にテディベアに当たり、後ろに倒れていった。
「お!兄ちゃんうまいね!」
「まあ、少しだけサバイバルゲ―ムに触れているので」
店主からテディベアを貰うと、フォルティシアに渡した。
「ほれ」
「ありがとう」
フォルティシアの頬が、少し赤くなった。テディベアに喜ぶ姿が、あどけなさを感じる。
「桐斗」
「何だ?」
「お腹すいた」
「ああ~。それじゃあ、屋台で食べ物買うか」
「ええ」
目に映るは、焼きそばやイカ焼きなど、食欲がそそるメニューが豊富にある。俺たちは近くの屋台に向かい、焼きそば、イカ焼き、焼き鳥など買うと、両手は食べ物で塞がった。ちなみに、俺とフォルティシアの二人だが、どう見ても四人分の量はある。ほとんどフォルティシアが食べるのであろう。
「私が持つわよ」
「いや、これくらい持つぜ。それでお願いなんだが、飲み物買ってきてくれねえか?」
「いいけど……」
「サンキュー。その間に食べるところ探しながら待ってる」
「分かったわ」
フォルティシアはそう言って、飲み物を売っている屋台に向かっていった。それを見送りながら、俺は食べるところを探していく。だが、人が多いせいか、どの椅子も空いていない状態だった。
「ふぅ」
疲れが溜まっていたせいか、つい、息を吐いてしまう。人込みに酔ったわけではない。ただ、人の多さに比例して、縁の糸が多く視えていた。
あ~。やっぱり人が多いと糸が多いなあ。酔いそう。
色とりどりの糸が絡み合うように映っているため、目が疲れてくる。楽しいはずの祭りが疲労を蓄積してしまうのは予想外だった。
そういえば、視えるようになってから人が多いところに来たの初めてだったな。
目頭を押さえて、眼精疲労を回復させようと試みる。
「桐斗?」
名前を呼ばれたため振り向くと、飲み物を持ったフォルティシアが居た。
「もしかして、糸がいっぱいあるの?」
的確な質問に一瞬黙ってしまった。その反応に楽しそうだった表情が一気に不機嫌になり、俺の手を引いて歩き始めた。あまりの力強さに、引っ張られてしまう。そして、祭り会場から、少し離れた公園に着き、ベンチに腰掛けた。
「ここだったら、人も少ないからまだましでしょ?ここで食べて休憩しましょう」
「ありがとうな」
正直言うと、ありがたかった。
フォルティシアは美味しそうにイカ焼きを食べていたため、俺もイカ焼きを口にする。香ばしい醤油の味とイカの歯ごたえと味が口に染み渡る。
「まったく……どうして人間って、弱いのにそんな重い業を持っているのかしらね」
悲しげな表情で呟いた言葉が聞こえた。それは、俺よりも長い年月を重ねた者、そして、その長い年月の中で人間を見てきた者の言葉だった。
「それを言うならフォルティシアもだろ?狙われているのか……それとも因縁の相手でも居るのか?」
フォルティシアは驚いた顔をしてこちらを見た。どうやら図星だったようだ。フォルティシアには家族の縁であるオレンジの糸と友人である黄色の糸があるのだが、そのほかにも糸があった。家族、友人の縁より多い、敵意の縁が。赤黒い色の糸が体に纏わりつくように絡まっていた。
「まったく……妙に適格なんだから」
苦笑いを浮かべるフォルティシア。
「まあ……ほかの吸血鬼より狙われやすいのよ、私」
余裕の笑みを浮かべてこちらを見て語った。
「でも、そう簡単にやられない安心して」
「そうか」
そう言われて、先日の悪霊を細かく切った様子を思い出し、乾いた笑いが零れる。
確かに簡単にやられないし、俺に心配される筋合いはないよな。
情けない気持ちと頼もしい気持ちを浮かべながら、イカ焼きを口に運ぶ。すると、打ち上げる音が聞こえると同時に空が一瞬明るくなった。空を見上げると、花火が打ちあがっていた。
「あ……花火の時間だったか。ここだと少し小さいな。近づくか?」
立ち上がろうとすると、手を掴まれたため立ち上がることができなかった。
「ここでいいわ」
「え……でも」
「ここのほうが落ち着くもの」
手と手が重なりあっているからか、フォルティシアの体温が伝わってくる。人とは違う、冷水のような冷たさが伝わってくるが、夏のこの時期には心地よい冷たさだった。
花火が本格的になり、周りの音をかき消す花火の打ちあがる音が響き渡る。夜空に大輪の花が咲いては消えていく。
ふと、手の方へと目をやると、俺とフォルティシアの間に結ばれている糸が見えた。濃い黄色がミサンガのように編まれたような状態になっていた。縁の糸は関係性が変わると色が変わっていくが、関係が深くなっていくと一本だった糸は二本、三本へと増えていき、それがやがて束になっていく。太ければ太いほどその絆は強固になっていくのだ。
「綺麗だな」
「ええ」
俺たちは、花火が打ちあがる姿を、終わるまで見ていた。
花火が終わると、辺りが静寂に包まれた。だが、それもほんのつかの間。すぐに帰路に着く人込みの音が、辺りに響き渡った。
「俺達も帰ろうか」
「ええ」
フォルティシアの家に向かおうと、足を運ぶ。
「フォルティシア、頼みがあるんだ」
「なに?」
「明後日、飛行機事故の慰霊碑に花を贈りに行くんだが……一緒に来てくれないか?一人だと……怖くてな」
「桐斗」
「それと……あいつの……縁正と出会った神社にも行きたいんだ」
本当はすぐにでも行くべきだった。だが、あの飛行機事故によって負わされた傷は、体だけでなく、心にも負わされていた。慰霊碑や事故の現場がテレビに映っているだけで、胸が締め付けられるような気分になるのだ。
なぜ自分だけ生きているのだ。生きるべき人はもっと居たはず。なぜ自分なのか……と。
それと、縁正と出会った場所に行くのもためらっていたのも、飛行機事故と重なるからという理由だけではなかった。行ってしまうと、見てはいけない真実があるようで……本能的な恐怖が奥底にくすぶっていた。
だが、あれから一年経った。そろそろ、目を向けるべきなのだ。だからこそ、このお盆休みの時に行こうと考えていた。ちょうど一年経った事故の日に。だけど、行く前日になると、胸の奥底にしまっていた恐怖が噴き出しそうだった。
「いいわ。一緒に行ってあげる」
優しい笑顔でそう言ってくれた瞬間、少しだけ胸の重みが取れたような気がした。
「ありがとう、フォルティシア」
そして、明日の約束をした俺たちは、フォルティシアの家に着くと、玄関の前で別れた。
軽い足取りで家路へと歩いていると、一台のワゴン車が通り過ぎた。すぐ近くと路肩に止まったので、避けて通り抜けた。すると、ワゴン車の扉が開かれる音が耳に届いたと同時に、体中に痛みが走った。それは静電気による痛みに近かったが、その数十倍の痛みはあった。
何が起こったのか理解できず、意識が途切れていく。そんな中、目に映ったのは、覆面を被った男達だった。
2
桐斗と別れたフォルティシアは、浴衣から、いつものワンピースに着替えると、ソファにくつろいで昨日今日撮った写真を眺めていた。デジタルカメラの画面に映し出される風景は、日本の建物や風景、そして桐斗の姿も映っていた。デジタルカメラを操作して、最後の写真になると、桐斗に勧められて二人で撮った写真が目に映った。楽しそうな笑顔で映る桐斗とどこかぎこちない笑顔になっている自身の姿に苦笑いを浮かべる。
(写真は撮るんだけど、映るのは慣れてないのよねえ)
写真を見ると、その出来事が思い出すことができる。だから、フォルティシアは写真が好きだった。
(本当……楽しかったな。しばらく日本に居てもいいかも)
そう思えるほど日本……というよりも桐斗のことが気に入っていた。最初は興味本位で近づいた。だけど、桐斗と一緒に居ると楽しいし、もっと知りたいと思っていた。
「さてと、明後日の準備でもしちゃおうかしら」
フォルティシアは、反動をつけてソファから立ち上がった。すると、玄関から紙が擦り切れる音がした。
(こんな時間に郵便?)
今は夜の九時を指したところだ。疑問に思いながらも玄関に行くと、郵便受けには茶封筒が入っていた。取り出して中身を確認すると、写真が三枚と一通の手紙が入っていた。
「?」
さらに疑問に思う中、写真を見た瞬間、背筋が凍った。
写真には倒れている桐斗が映し出されていた。二枚目の写真には倒れている桐斗を、ワゴン車に運ぶ姿。三枚目には椅子に縛られている桐斗が映し出されていた。
(は?どういうこと)
急いで手紙を確認する。
『君のお気に入りは預かっているよ。早くしないと命はないかもね』
そう短く書いていただけ。だが、文章の下には、丁寧に目的地を記された地図まで書かれていた。
(ああ……そうか。まだ、こういう輩が居たのね)
怒りが込みあがると同時に、内に秘めていた魔力が放出した。放出した魔力によってガラスにひびが入る。
自身の能力を狙った輩は数多くいた。だからこそ、一人で旅する時、細心の注意を払っていた。だが最近、近代化の流れに伴って、こちら側への認識、干渉するもの、つまり魔術師やヴァンパイアハンターが少なくなったせいか、フォルティシアを狙う組織は少なくなっていた。それでも、無くなったというわけではないから、知り合った人に迷惑が掛からないように、細心の注意を払っていた。
だが、平和と言われてい平和と言われている日本なら、奴らも大きく動かないだろうと思っていた。
完全な油断だった。
玄関の扉を勢いよく開け、地面を思いっきり蹴ると、背中に蝙蝠の羽を出現させ、空高くへと飛び立った。
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