もう一つの風景

 シェサとルティアがいるところからは、少しばかり離れた森の中。兵士が二人、焚火たきびを囲んで野営していた。その二人の頭上にあるのも、やはり、三日月のかかった夜空。


 パチッ パチッ パチッ


 焚火の赤々あかあかと燃える炎の中に、兵士の一人――どちらかと言えば年輩の方――がまきを放り込む。


 パチッ パチッ パチッ


 年輩の兵士は、燃え続ける炎を見つめながら、もう一人の若い兵士に話しかける。


「ここは俺が番をしておくから、お前はもう寝ろ」


「しかし……」


 若い兵士は銃をかまえると、不服そうに年輩の兵士を見た。


 パチッ パチッ パチッ


 年輩の兵士が薪を放り込み、炎が少し大きくなる。


徹夜てつやでもする気か?」


 その言葉に、若い兵士は、疑わしげに年輩の兵士を見た。


「俺が眠っている間に、賞金を独りじめする気じゃないんでしょうね?」


「……賞金?」


 年輩の兵士が聞き返すと、若い兵士が大きな声で言い返す。


「メティエの連中にかかっている賞金を独りじめにする気かって聞いてるんですよ」


 年輩の兵士は、もてあそんでいた薪をまた火の中に放り込むと、うつむいたままつぶやく。


「メティエの町民を殺して、その代わりに賞金をもらおうなんて……。そんな賞金、欲しくはないよ」


 そして、転がり出た燃え残りを棒の先で火の中に押し込む。


「大体、メティエの人達がなにをしたって言うんだ? ただ、税を納められなかったていうだけじゃないか。それなのに、皆殺しだなんて……。お前はそれをおかしいとは思わないのか?」


 その言葉に、若い兵士は腰を浮かして銃を取り出す。


国王陛下こくおうへいかの決めた事は絶対なんですよ。なのに、それを疑うなんてありえない! まさか陛下に逆らおうなんて気じゃあないでしょうね。もし、そうなら……」


 年輩の兵士は、若い兵士の言葉をさえぎると、彼が構えている銃身に手をかけた。


「反逆なんて、そんな大それた事を考えている訳じゃないさ。それに……俺はあの町を攻めるのにも加わった」


「確かに、その通りですが……。じゃあ、なんで今更いまさらそんな事を言い出したんですか?」


「それは……。嫌、なんでもない。ただの、たわごとだ。聞き流せ」


 そこまで言って、年輩の兵士は口を閉じる。若い兵士はそれを聞いて、不服そうにしながらも銃を下ろした。すると、ちょうどそこへ、どこからともなく綺麗な調しらべが聞こえてくる。


「あれは……。誰かいるのか?」


 若い兵士は、声のする方に体ごと振り向いた。そして、もう一度、年輩の兵士に向き直る。


「今度だけは聞かなかった事にします。でも、もし、またこんな発言をしたら、その時にはだまっていませんよ」


 そう言うと、若い兵士は声のする方へ進んで行く。年輩の兵士は大きな溜息をつくと、ゆっくり立ち上がり、その後に従った。

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