第9話 『まだ』ないから


「じゃぁ、2人で選んであげない? 私も凛久くんコーデ選んでみたいし」


 俺の方を眺めながら言う愛ちゃん。


「それ面白いかもね!」


「私たち服の系統全然違うから新鮮で楽しそうだよね」


「分かる! でも、愛の服みたいなの着るとダークな雰囲気になっちゃわない?」


「そう? 似合いそうだけど」


「……確かに似合うかも」


 まじまじと俺を見ながら言う恋。

 何、俺今から着せ替え人形みたいに遊ばれる感じ? だとしたら恋を連れてこの場から逃げ出したいんだけど。


 でも、恋はなんか楽しそうだし、付き合ってあげるしかないのか。

 どうせこれが終わったら愛ちゃんと別行動になるだろうし、ここだけの辛抱か。


「なんでも着るから自由に選んでいいぞ」


 手に持っていた服をラックにかけると、2人に向かって言う。


「ホントぉ~! やったぁ」


「お姉ちゃんに負けないようにしなきゃね」


「私、負けないよ?」


「お姉ちゃんの方が凛久くんのことを分かってるかもしれないけど、ファッションに関しては私の方が知識あるからね、それにちょっとくらい凛久くんのこと私だって知ってるし」


 その知ってるは体だけだろ。内面まで俺は見せた覚えはない。


「じゃ、待ってるから自由に選んでくださいな」


 近くにあった椅子に腰掛けると、スマホを片手に2人が選ぶのを待つ。

 店内を駆け回り、服を片っ端から漁る2人。


 これ、デートと言うのだろうか。恋が一生懸命選んでくれるならいくらでも待つし嬉しいのだが、厄介な人物が居ると早く選んでくれと思ってしまう。

 俺も恋に服を選んであげたかったのに、これじゃ俺だけで終わってしまう。


「はい最初私ね~」


 数分後、先に俺の前に現れたのは愛ちゃんであった。


「あぁ~! 愛早い~!」


「こうゆうのは直感で決めるの。悩んでたら一生決まらいからね」


「そ~だけど~」


 服を探す手は止めずに、恋は悔しそうな顔を浮かべる。


「お姉ちゃんは探してていいよ。私が試着させとくから」


「わかったぁ~。凛久くん、着替え終わったら教えてよ?」


「恋に見せれるような服だったらね」


 もしこれで、愛ちゃんに遊ばれて変な服とかを選ばれてたら恋に見せれたもんじゃない。

 そんなことされてたらそもそも着ないけど。


「じゃ、これ着てきて」


「お、おう」


 更衣室の前に移動すると、早速愛ちゃんから服を渡される。


「安心して? ちゃんと選んであげたから」


 俺の心を見透かしたか、ニヤリと口角を上げる。


「お前のちゃんとは信用できないんだよな……」


「信用できるでしょ。あの事お姉ちゃんに言ってないんだから」


「それとこれとは違うだろ」


「まぁ、心配しなくて大丈夫だよ。お姉ちゃんに言う気はまだないから」


 そう言いながら、俺を更衣室の中に押し込む。

 心配でしかない。しかも、『まだ』って……いつか言う時が来るのかよ。本当に時限爆弾みたいだ。

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