episode.3
シルヴィが釘付けになっているのは第一部隊の大佐。
アッシュグレーの髪に色つき眼鏡が良く似合う。
逆光も相まって、ただ立っているだけで神々しい。
「あ、ああああの方は、精霊か何かですか!?」
「はぁ!?何言ってんだ?あの人はマティアス・ヴァーグナー大佐。戦場の魔王と呼ばれる人だぞ」
その名を聞いて思い出した。
一人単独で戦場に乗り込み一掃した強者がいると、その者が歩けば死体が転がるとまで噂されているのを耳にした事がある。
その人の名が今目の前にいるマティアス・ヴァーグナーその人だった。
あんな線の細い人が魔王!?精霊王の間違いでは!?
まあ、正直そんな事はどうでもいい。
推せるか推せないか。その二択しかない。
答えは当然、推せる!!
「総監様についで大佐様で見逃していたなんて……私は眼鏡フェチ失格です……」
蹲りながら自分の失態に猛省しつつ、二度とこんな事が起こらない為にブツブツと一人反省会をし始めた。
「おお~い!!シルヴィが変な事呟いてっぞ!!」
「ああ、それが通常運転なので気にしないでください」
「下手に声をかけると噛まれますよ」
「なに!?」
ライアンが救護テントに向けて叫ぶが、返ってきたのは猛獣を飼い慣らしているような言葉だった。
まあ、身内のものがほっとけと言うのならと、ライアンは多少気にしながら剣のぶつかり合う練兵場の方に目をやった。
流石は大佐同士だ。中々勝負がつかない。
観戦している者達も応援に熱が入り、練兵場全体を包みこむような熱気を感じる。
この大佐同士の勝負は実技訓練の締めのようなもので毎回大いに盛り上がる。
始めたきっかけは部下の者達の士気を上げる為だと言われているが、自分達の格好良い姿を見せつけたかったのでは?と言う噂もあり、真意は不明。
ワァァァァァ!!!!!
歓声が上がり、勝敗が決まった事が分かった。
勝者は、第一部隊大佐のマティアス。
当然の結果だが、第三の大佐も引けを取らないほどの歓声を浴びていた。
そこでようやく正気に戻ったシルヴィが、マティアスの姿をここぞとばかりに目に焼き付けようと、目を限界まで指で広げて見ていた。
その姿を見て、ライアンは呆れるように「目が乾くぞ」と伝えるが、シルヴィは一切気にしない。
「いえ、あのお姿を後世に残せるのなら、この際眼球が取れてもいいと思ってます」
「……後世に残すって……誰得なんだよ……」
その言葉にシルヴィはカッ!!と目を光らせライアンに詰め寄った。
「誰得とか関係ないんです。推しの姿を後世に残すことが私の使命。別にこの世の全ての人が眼鏡好きになって欲しいとは思ってないんです。この幸福感を共感してもらいたいだけなんです。なので、その素晴らしさを伝える為に”推し活”と言う名目で授業の必須科目に取り入れるべきだと思ってます」
「お、おう……」
シルヴィの熱に圧倒され、ライアンが若干引き気味に返事を返した。
後ろの救護テントからは
「あ~あ、あれやっちまったな」
「あれは長くなるわね」
「まあ、ライアン少佐は暇だからいいんじゃなぁい?」
なんて口々に話すのが聞こえてきて、シルヴィの地雷を派手に踏んでしまったことを今更になって気がついた。
「ライアン少佐!!」
「お、おうっ!!」
「ちゃんと聞いてますか?」
「いや、すまんシルヴィ。お前の言ってる事が正しい!!うん。俺もそう思う!!」
ライアンはこれ以上シルヴィを刺激するのは得策ではないと、すぐさま賛成派に回り込んだ。
「……本当に?心の底から思ってます?」
「勿論!!心の底から思ってるさ」
ライアンはこれで解放される。そう思いホッと安堵した表情を見せたが、シルヴィがそう易々と離すわけが無い。
「では、何故そう思うに至ったのか教えてください」
「はあ!?」
「おや、言えないのですか?」
まさかの反撃にライアンは言葉を失った。それと同時に心の底から思った「こいつ、めんどくせぇ!!」と。
言葉に詰まりしどろもどろなライアンをシルヴィはグイグイ追い詰めて行く。
流石のライアンも困り果て、白旗を出そうとしたその時……
「何やら面白い子がいるねぇ」
不意に声がかかり、顔を上げたシルヴィが腰を抜かすほど驚いた。
「ああああああああ貴方様は…………!!!!???」
そこにいたのは、第一部隊大佐のマティアス。
まさかの人物の登場にシルヴィは面白いほど狼狽えている。
遠目で見るだけでも価値のある人が、眼鏡を通して凡人である自分を見ている……更には声までかけてくれちゃって………
「──くっ!!」
興奮のあまり鼻から血が噴き出した。
「お、おいっ!!お前、血が!!大丈夫か!?」
「大丈夫です。見苦しいものをお見せして申し訳ありません」
慌てて手で抑えたが思いのほか興奮し過ぎたようで止まらない。
ライアンがすぐにグレッグを呼んでくれたので大事には至らなかったが、一連の様子を見ていたマティアスは大爆笑。
「あははははは!!!君、面白いね。いいなぁ……」
足の爪先から頭のてっぺんまで舐めるように見つめられ、シルヴィは死んでもいいとまで思っていた。
「デュバノンがいるってことは第三小隊でしょ?丁度いいね。君、僕らと一緒に行かない?」
まさかの同伴指名受けました。
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