episode.2

本日は月に数回ある軍の実技訓練。


この訓練では必ず数人の負傷者が出る。その為、シルヴィ達衛生兵がなくてはならない存在となる。


今回は医官であるグレッグ・デュバノン率いる第三小隊が担当する。シルヴィもこの第三小隊に所属している。


「シルヴィ。傷薬の準備は出来てるかい?」

「はい、ここに」

「お、流石だね」


こう見えてシルヴィは仕事が出来るほうだ。

元々覚えも悪くはなく、手際もいい方で一度仕事の流れを覚えてしまえば大抵の事はすんなり出来てしまう。

多少はやっかむ者もいるかと思ったが、そんなことは全然なかった。


みんながシルヴィに優しく接してくれる。

例えそれが軍医部の平穏の為だとしても、シルヴィの笑顔を見ると誰もがつられて笑顔になってしまう。


「よっ!!シルヴィ、相変わらずちいせぇな!!」

「あ、ライアン少佐」


ライアン・マケーニュ。この人は第二部隊に所属する軍人で口調は荒っぽいが、誰にでも気さくに話しかけて気にかけてくれる人情深い人で、エリートコースを順調に歩んでいる出世頭だ。


「お言葉ですが、ライアン少佐がデカ過ぎるんです。何を食べたらそんな成長するんですか?」

「あははははは!!相変わらずおもしれぇなお前は!!」


ガシガシと頭を撫でられ、ぐちゃぐちゃになった髪を直しながら恨めしそうにライアンを見た。

一人っ子のシルヴィは、この面倒見の良さが滲み出ているライアンを勝手に兄に置き換えて割と懐いている。


今日の訓練は第一部隊と第三部隊。

第一部隊は腕のたつ強靭な男達が集結した部隊で通称脳筋部隊とも呼ばれる。一年のほとんどを遠征で費やし、城にいるのが珍しい。

となれば、今回の趣旨は部隊の中でも力の弱い第三部隊の体力強化と鍛練が目的だろう。


「……出番のない第二部隊のライアン少佐がいる意味が分りました」

「あははは、こんな機会滅多にないからな。これが終わったら第一部隊の奴らまた遠征に出るらしいし」


第一部隊が出ると知ってライアンと同じ動機の者が練兵場へ集まって来ていた。


「お、さっそく始まるらしいぞ」


練兵場の中央を見ると、若い男性と少し頼りなさそうな男性が睨み合っていた。

驚くべきことにこの頼りなさそうな男性は第一部隊所属だと言う。


「え?あの方が第一部隊の方ですか?」

「ああ……見た目で判断すると痛い目見るってすぐに分かるぞ」


誰がどう見ても第三部隊だろ!?と失礼だが思ってしまった。

ライアンは驚くどころか視線を外すことなく、うっすら笑みを浮かべながら二人を見ていた。


若い男性は最初こそビビっていたが、相手が自分より弱そうだと分かった途端勝ったつもりでいるのか笑みを浮かべている。

まあ、その笑みもすぐに崩れ落ちたんだが……


勝者は当然第一部隊。


勝負はあっけなく、そして何が起こったのか分からず終わっていた。

開始の合図と同時にまず動いたのは第三の男性。その瞬間勝ちを確信したのか笑いながら剣を振るい下ろした。……が、倒れたのは第三の男性。


(一体何が起きた?)


シルヴィは元より周りの人らも何が起きたのか分からず困惑していた。

一人、ライアンだけは全て見えていたらしく説明をしてくれた。


「あいつの剣が下ろされる前に既にあいつは斬られていた」

「は?」

「剣をあんなに高く上げれば脇はガラ空きだろ?そこを狙ったんだよ」

「あんな瞬時に!?」

「………………あの人ならできる」


どうやら弱そうに見えて最強だったらしい。


(完全に見た目詐欺だわ!!!)


そこも一種の戦略だとライアンが教えてくれた。


「シルヴィ!!来るよ!!」

「あ、はい!!」


いけないけない。仕事中だった。


一人負傷者が運ばれてきたのを皮切りに、続々と運ばれてきて休む暇も観戦している余裕も無くなった。


運ばれてくれるのはいずれも第三部隊の人達。

しかもどれもこれも傷を最小限に抑えている。神業では?と言えるものまである。

一体、第一部隊とはどんな化け物揃いの部隊なんだと思案した。


ワァァァァァ!!!!


そんな時、今までにない大きな歓声に包まれた。


なんだ?と顔を覗かせると、演習場の真ん中に一際目立つ二人が立っていた。


「大佐のお出ましだぞ」


ライアンがそれは愉しそうな顔をしながら呟いた。が、シルヴィにはその声は届いていなかった。


(な、な、ななななななんと!!色眼鏡サングラスだとぉぉぉぉ!?)


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る