ep2 本当にこの街にいたか。
夜の街ビナック。どんな夜だって煌びやかに光るこの街には、いろんな奴らが集まる。
獣人に、ハーフエルフ。探せばエルフもいるかもな。
と言っても、そのほとんどが娼婦か商人の奴隷だ。
私のように獣人で冒険者やってる奴もいるにはいるが、ああいうのは大抵、酒や娼館の甘ったるい匂いを嫌がって、このビナックには寄り付かない。
つまり、獣人でありながらこの街を拠点とする私みたいなやつは、変わり者ってことだ。
そして、変わり者とは、いつだって目立つ運命にある。
「よぉクアンゲル!一晩抱かせろよ!」
「お前じゃだめだ。なぁクアンゲル、俺ならいいだろ?」
お前が私を?バカ言うな。
「やなこった。竜でも狩れたんなら考えてやるよ」
「ほらみろ」
「うるせぇ。今晩は行けると思ったんだよ!あぁそうだ、さっきちっこいエルフがお前のこと探してたぞ。」
「エルフが?私をか。」
「あぁ。銀髪の嬢ちゃんだ。あんなんがうろうろしてたら攫われっちまうぞ」
そう言って酒飲みのオヤジ達はガハガハ笑いながらどこかへ行った。あの道は...娼館か。毎夜毎夜飽きないな。
それより、私を探しているエルフ、か。
それも銀髪。まぁ、これは流石に嘘だろう。
ビナックにエルフがいるとは珍しい。ハーフエルフならまぁまぁいるが、純粋なエルフは数が少ない。東の果てに行けばエルフの園があると言うが、これも信憑性は低い。
銀髪のエルフとなれば、御伽話のレベルだ。
月の妖精、その末裔。
いつもなら冗談かなにかだとシカトするところだが、今日はやることもないし、ぶらつくついでに探すとするか。
その前に酒を調達せねば。
ファンターレンの酒瓶を片手に、夜街をぶらつく。ここは酒屋だけでなく、屋台もそこそこある。中でもお気に入りは、串焼きの屋台だ。私は塩っ辛いのが好きだからな。ファンターレンにも合うし。
と言っても、さっきダグルの店で聞いた通りスパイスは品薄。今日はやってなかった。ゲヘナハウンド、許さん。
あぁそうだ、依頼。どうするか。
月光が出るならすぐにでも討伐に行ける。だが今の時期は水の精霊が多く、そのせいで雲が多い。
そのため月の光を浴びることができない。
知り合いの冒険者についてきてもらう...わけにもいかないか。私は銀等級。ほかと実力が違いすぎる。
パーゲンのジジイめ。せめてひと月前に寄越してくれればなんとかなったものを。
ちなみにパーゲンとは、ここビナックにある冒険者ギルドのギルドマスターだ。私がこの街に来た時期に、ちょうどギルマスに就任したんだったか。確か歳は60を過ぎたはず。
.....老ぼれめ。さっさと次のやつに席を譲ればいいものを。
っと、考え事してる場合じゃなかったな。
と言っても、どうしようも...ん?
今し方すれ違った女、あのほのかな果物と木の香り。
...エルフか。となるとあれが私を探していたやつか。
おいおい、すれ違って気づかないのか、どうやって探す気だったんだ。
すこし早足で追いつく。肩を叩いて振り向かせた。
目深に被ったフードから溢れる月光のような銀髪。首元にあるエルフの証の首飾り。
それを見て、数年ぶりに心臓が跳ねた。
銀髪のエルフ。月の妖精の末裔。
この夜街に、本当にいたか。
「...あの?」
エルフが戸惑う。少し緊張しているな。
「エルフのお嬢さん、少しいいかな。」
まぁお構いなしだ。どのみちこいつは、私を探していたと聞くし。
「私はクアンゲル、冒険者だ。君が私を探してると聞いてね。飲みにでも行こうじゃないか。話はそこで聞こう。」
「!あなたが。」
それに、女を誘うのには慣れている。ツラにも自信があるしな。とはいえ私は女だが。
「美味い酒をご馳走するぜ」
ナンパ、ではないからな。先に私を探していたのはコイツだ。
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