第84話 派閥の領袖
新王が即位して数日間、わたしは特に用は無いのだが毎日王宮に参内した、誰に呼ばれた訳ではないが、いつ誰に呼ばれるか分からない状態だからだよ、今は国全体が急旋回をしている時期だ、気を抜くとあっという間に振り落とされるかも知れないからね。
王宮内の要職は時に少しずつ、時に急激に代わって行った、国王派、第一王子派は席を追われ、密かに力を付けていた第二王子派がその後釜に座る、
今や国王派の派閥は葬儀委員くらいしか席が無い状態。
派閥と言う物は一枚岩ではない、係累によるしがらみ、貴族学校時代のしがらみ、同じ職場のしがらみ等が複雑に絡み合っているので、常に相手のバックボーンを意識して話をしないとあっという間に足元をすくわれる。
わたしはオステンブルグの出だが、先の航空侵攻作戦では兵術書を書き換えるくらいの働きをしたので周りの覚えは良い、
そして飛行工房を取り仕切る立場にあり、新国王とは同学、いつの間にか派閥の主要人物になっていた、
そして新国王に意見出来る数少ない人物。
◇
「やあ、ニコレッタよく来てくれた」
「これは国王陛下におかれましては健勝との事、臣民としてこんなに嬉しい事はございません」
「今まで通りフーリーと呼んでくれないのか?」
「わたくし、庭が見とうございます」
「よかろう、案内しよう」
庭師が丹精込めて造ったであろう庭園、もはや屋外に置かれた調度品の様な庭木だよ。
「今日は風の音が聞こえるので、大丈夫でございますねフーリー」
「そんな事を気にするでない、ニコレッタよ」
「そんなに単純ではないのですよ、誰がいつ何を言ったのかを逐一記録している文官がおりますからね」
「ニコレッタ、そなたの懸念はもっともだな、それで話と言うのは?」
「行儀見習いはどうするおつもりでしょうかフーリー?」
「ああ、あれは廃止だ、印象が悪すぎる」
「悪習を断ち切るのは大切な事でございます、ですがこれを上手く使えば下級貴族を取り込むチャンスですよ」
「そんな良い方法があるのか?」
「あなたに頭を下げる覚悟があればですけどね、フーリー」
「聞かせてもらおう……」
◇
“行儀見習い”で王宮にいた子達は全員親元に返された、もう二度と会えないと思っていた我が子に再会出来て喜ぶ親だが、自分の子が慰み者にされた、そんな気持ちもあるので複雑な気持ちであった、
そんな彼らの元には新国王直筆の手紙、
“今や悪癖は取り除かれた、力なき者に対する無体は到底許せるものではないであろう、これは全てわたしの力が及ばなかった事、新国王として心より謝罪をしたい。
もし我の謝罪を受け入れ、なおも信用する気持ちがあるのなら、ご子息ご息女を預けてもらえまいか”
下級貴族にとっては新国王に忠誠心を見せる最高の機会とばかりに幼子達を王宮に送り込む。
◇
貴族は大きく分けて二種類、領地を持った領主貴族と王宮内の官僚と化した内宮貴族、収入は領主貴族の方が遥かに多いが、王宮に参内すると内宮貴族にペコペコと頭を下げなければならない、
そんな内宮貴族の中で頭角を現して来たのがコンツ男爵、わたしの頭の中ではアンジェリカの父親とラベルが貼られた彼だが、
今まではどこの派閥に属する訳でなく、日和見と揶揄されていたが、この度の政変に影で動いていた新王の犬の様な存在、
義弟ディートハルトはずいぶん前からこの政変を知っていた訳だ、彼は公爵家とはいえ後継ぎの目はないから早い段階で自分の将来に対する投資をしていたのだね、
あーあ、わたしは飛行機に乗って戦争をやっていたけど、全ては彼らの手の平だったと思うと力が抜けて来る。
“じえーかん”は職務に専念して政治は専門家に任せておけばよいのかな?
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