第77話 緊急整地
「ルーペルト!」
「はい!」
「今夜です」
「ただちに準備致します」
領兵隊の隊長はバネ仕掛けでも入っているかの様な機敏な動きで出て行った」
わたしは羊人メイドマレイセに向き直る、
「今のうちにご飯食べておきなさい」
張りつめた雰囲気に余り場違いな言葉、羊人マレイセは当惑している、
「長い一日になるわよ、次にいつ食べられるか、いつ寝られるかも分からないからよ」
「それでしたらまずはニコレッタ様がお召し上がりください」
◇
“ケフッ”と令嬢らしからぬ品の無いゲップをしたわたしはすっかり暗くなった台地の上に出る、
「ニコレッタ様、歩くには遠すぎます、馬を用意しました」
「ありがとうイラーナ」
今から急造滑走路を造る、ヘラクラス輸送機ならば大きな石とか木の切り株とかが無ければ草地でも離着陸は可能だし、前の世界でも大戦中のプロペラ機は草地を滑走路にしていた。
舗装がデフォルトになったのはジェット機が幅を効かせてからだ、ジェットエンジンは超巨大な掃除機みたいな物、子石を吸い込みタービンブレードを破壊してしまう。
とは言えパイロットならば平らな滑走路を望むだろうから、彼女達の願いを叶えないと。
ランウェイエンドにやって来たわたし、以前は灌木や大きめの石などが転がっていたので人足達を集め根っこごと引き抜き、石を脇に寄せて滑走路の下準備は済ませてある、
手を前に伸ばすとお腹の底の魔力を絞りだす様に放出して行く、青白い光がわたしの手前から次第に遠くに伸びて行き、最後は小さいな光の塊にしか見えなくなった、
草地だった地面、幅50M長さ数百Mは有るであろう巨大な長方形が硬く平らな地面となる、
“フッ”やり遂げた、そう思った瞬間立ちくらみがわたしを襲う、
「ニコレッタ様!」
護衛騎士イラーナは人事不省となったわたしを抱きかかえてくれる。
◇◇
多数の飛行機が飛ぶ事を編隊飛行と呼ぶが、その隊形は様々、縦一列になって飛ぶトレイル隊形、一見シンプルだが後続の機体は先導機の乱流を受けるので問題の多い隊形でもある、
後方の乱流が問題ならば横一列になれば良いと思うかもしれないが、飛行方向や速度を決めるリーダー機に合わせにくいと言う欠点がある、
他にも斜めになった雁行等があるが、世界中の空軍で愛されているのがフィンガーチップ隊形、
親指を除いた四本の指の隊形、中指が一番機で小指が四番機。
暗闇の中二つのフィンガーチップが低地羊人の国アレマンに進入、
ヴィアベル機は牽引に特化した機体、三角形の全翼機に二枚のスタビ、機体後方には四つの強力なエンジン、だがプロペラピッチは低速に特化しているので最高速度は信じられないくらい遅い、
全幅はそこそこだが、全長は短く主翼も厚いので、直進の安定性はよろしくない。
そんな機体で長時間の飛行はパイロットには負担、だが先導機のパイロット狐人族のラドミーニは作戦に参加出来た興奮で波打つように揺れる機体やトリムバランスはまったく苦にならない、
二人乗りのこの機体、パイロットと背中合わせで牽引士が座り、牽引策の調整や回収を行うのだが、今夜は牽引士の代わりに航法士のドロレスが乗りこみ、正確な時計とコンパス、天測器を使って現在位置を計算している、
「まったく、人間って無駄よねドロレス、そんな高価な時計を使わないと場所が分からないなんて」
「狐人族の力を疑う訳では有りませんが、バックアップは大切ですよ」
「わたしだったら目隠ししてもヘルマーナまで行けるわよ」
「ラドミーニ!4時の方向に航法灯、2機分です」
「高度差は?」
「当機より上空、トレイス機ですね」
「わたし達より後から離陸したのに、あっさりと追いつかれたわね」
「あの機体に控えのパイロット達が乗っているのですね、羊の国に着いたらこの機体を引き渡さないと」
「わたしは族長の娘ラドミーニよ、交代なんて必要ないわ」
「フェルナンダ様がこの機体に乗る予定ですよ、我儘は通りますかね?」
優速のトレイス機はあっさりとヴィアベルの編隊を追いこして行った。
◇
トレイス機に追い越されてしばらくして、翼端の航法灯を消す様に指示をした、唯一光を発するのは機尾の白色灯のみ、空中衝突を避ける為にフィンガーチップは間隔を広げて高度差もつけた、
地上は川面とか水面が月明かりで光っている以外は真っ暗な世界だが、そんな中に緑色の光が浮かんで見えて来た。
「見えたわよー、ドロレス」
「アプローチの方向も問題無いです、隊形を変えますか?」
「そうね、合図して」
翼端灯は消されているが、僚機の姿は良く分かる、後ろ向きのドロレスがフラッシュライトで信号を送ると四機はキレイな雁行隊形に移行、
「このまま一回ランウェイ上空をパスしたらローリングコンバットピッチで降ります」
R/W上空を通過し終えたら一番機が左に180度旋回、その三秒後に二番機が左旋回、そしてその三秒後と続くと、四機の雁行は間隔を開いたトレイル隊形に移行する、これがローリングコンバットピッチ、
これだけ機体同士の間隔が開くともはや隊形とは呼べないかもしれないが。
高度と速度を少しずつ落としたラドミーニの一番機は最後の左旋回を終えファイナルアプローチに入る、
ランウェイの両側に置かれたライトが横一列に見えていると言う事は進入角度が正しいと言う証左、
何度も繰り返した夜間の着陸は初めての滑走路でもあっさりと成功した。
「フェリー飛行お疲れ様、あなた達食事が準備して有るわよ、早く休みなさい」
先に到着したフェルナンダが声をかけるが、興奮した彼女達なかなかエプロン地区から離れようとしなかった。
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