第38話 私企業からの隔離
教会からの帰りの馬車、父グートシュタイン公爵に話しかける、
「父上はわたしのギフトを御存知でしたのか?」
「内容までは知らなかったがな」
「わたしはこれからどうすれば良いのですか?」
「何を悩む必要がある、今まで通り飛行機の設計をすればよいだろう」
教化のギフトは制約があって、自分より頭の良い人、能力の高い人には効果が薄い、
能力を高めるだけならまだしも、自分の意思にとは別の事をさせてはいないのだろうか?
飛行機設計は本当にカルロータの意思? パイロットになったのはシーラの気持ち?
自分の行動に責任が持てないよ、
「自分の行動に不安が……」
「何を悩む必要がある、そなたのしている事は貴族の務めであるぞ」
その後父とは一言も話さず、王都近郊の広場までやって来たが人ごみで進めない、
なんだこの賑やかさは、飛ぶ魚を見る為に集まっている見物人?
「銀貨5枚で体験搭乗が出来ると宣伝したら、応募が殺到したぞ」
「空を知る機会を広げるのは良い事ですね」
しかし行列が出来る程人気とは、もはや観光地。
広場の中に入って行くと、天幕が張られそこかしこで話し込んでいる商人達、
“……この飛空艇とやらを買い取りたい”
“申し訳ございません、販売はいたしておりません”
“ルーシンに行く便はあるのか”
“本日の午後便に空きがあります、何名様でしょうか?”
“一人だ”
“お荷物が手荷物一つの場合は金貨5枚になりますが、よろしいでしょうか?”
“ミュンヒナーまで飛べないか?”
”何名様ですか?“
“二人と荷物だ”
“金貨8枚と銀貨50枚になります、こちらの書類にサインを……”
目端の効く商人達は飛空艇の有用性に気がつき、気前よく金貨や銀貨を支払っている、
銀貨一枚の価値が日本円で1万円くらい、銀貨が100枚で金貨1枚、
国内便に100万円をあっさり払う商人達だが、
馬車で行けば数日かかり、途中で宿屋に泊り、追剥ぎや野盗に出会うリスクを考えると、格安の値段かもしれない。
商人達の喧騒を抜け、飛空艇に乗り込むと既に羊のメイドさんが待っていた、
「よろしくね、マリーナ」
「ニコレッタ様、ごゆっくりくつろいでください」
「父上、あの商人達を見ましたか? 飛空艇ですらこれだけ人が集まるのですよ、はやく飛行機を実用化しましょう」
「全くダメだニコレッタ」
いきなりの全否定、
「飛行機を運行すればもっとお客が集まりますよ」
「ニコレッタ、そなた賢いと思っていたが、所詮は子供だな、
今は飛空艇でしっかり儲ける時期だ、金を稼ぎ切ったところで飛行機の運用を始めるのが商売と言う物だぞ」
確かに、良い技術を提供すればお金を稼げると思っていた浅はかな自分、
仕方ないだろう、自警官は私企業から隔離されているのだ、商売とは無縁な存在だよ。
レッケブッシュ領のあるオステンブルグまで行きは強行軍で一気に来たけど、帰りは途中幾つかの領地に泊って行った、別にのんびり空の旅をしたかった訳ではない、
地方領主に飛空艇の売り込みをして行ったのだよ、まずは知名度を上げるところからだね。
マリーナ
飛空艇のキャビンに品よく座っているニコレッタ様、お顔が整っているだけではない、仕草と言うか表情とかも気品が有るお方、
そして不思議なお方でもある、双子のマレイセとは感覚共有をしてきたが、常に五感に薄い膜がかかった様な感じがしていた、
おかげで感覚共有をしていても、現実と間違える心配はなかった、
ニコレッタ様と肌を重ねていると、半透明の膜は無くなり、まるで自分の感覚の様に感じる事が出来る、これはマレイセも同じだそうだ。
そんな不思議なお方の横顔はまさに貴族の御令嬢と言う言葉がピッタリなのだが、夜は別人みたいだ、可愛らしい鼻をフンフン鳴らして……
“ちょっとマリーナ、今気持ち良い事考えていたでしょ~”
“マレイセ、うるさい!”
“いいじゃないの、ニコレッタ様に可愛がってもらえて、帰って来たらわたしもして欲しいなぁ~”
“マレイセ、遊びじゃないのよ、ご主人様の疲れた身体と心を癒すのがメイドの仕事なの”
ニコレッタ様とのワンワンごっこ、感覚共有は切っていたけど、双子のマレイセにはあっさりバレた、
産まれた時から一緒なだけではない、こうして暇があればおしゃべりばかりしているのだ、隠し事が出来る関係ではない。
“それよりマリーナ、聞いてよわたし明日遂に飛ぶのよ、トレイスに乗るのよ”
“ああ、あのカナードのついたやつね”
今トレイス機は4機あるけど、結局前縁複合デルタ、後縁直線翼で、機種にカナード翼を付けたタイプが一番安定して飛行できると言う事で、全ての機体をその様に改修しているそうだ。
“わたしみたいな羊人に飛行機を任せるなんてフェルナンダ様は懐が広いわね、タークまで逃げる心配はしていないのかしら?”
“バカマレイセ、飛行場がなきゃ仕方ないじゃない”
“そうだよねぇ~、あんな山奥に広くて平らな場所なんて無いよね”
“1か所あるわよ”
“どこよ、マリーナ”
“タルサ湖の水面”
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