第34話 秘密の夜食
「それではニコレッタ様、お休みなさいませ」
「ありがとう、シーラもしっかり休んでね」
護衛騎士が部屋を出ようかどうしようか、躊躇している、
「どうしたの?シーラ」
「いえ、マリーナが残っているので」
羊人のメイドを羨ましげに見ながら部屋を去る護衛騎士、……
「いいわよ、マリーナ抱っこして」
「かしこまりました、ご主人様」
羊のメイドに抱っこされると背中に感じる柔らかさ、
この感触は甘えさせてくれる母のそれだが、ネットリとした甘い香りは二十代男性の性的な刺激となって心をかき乱す、
普段は上手に使い分けているつもりでも、こう言った直接の刺激を感じると自分が誰なのか、良く分からなくなる。
そっと目を閉じると、目の前には数人が立って何かを話しているのが分かるが、霧の中で耳栓をしているみたいで、ぼんやりとしか分からない、
“誰なの?”集中するとエンジン担当のジョフィエとカルロータの顔がハッキリ見えた、”ジョフィエ久しぶりね、今日の進捗を教えて”
自分の声がヘッドフォンをした時の様に聞こえて来る、実際は羊メイドのマレイセが話しているのだけどね、
何とも言い様の無い感覚共有、本来は双子のマリーナとマレイセの間だけでしか出来なかった事だけど“密着”しているとわたしも共有の輪に入る事が出来た、
「……3番機は問題なく飛行試験を実施しています」
「最高速度は更新しましたよ、高速でも安定した飛行が出来ます、もっと出せると思いますけど、機体強度と魔石の使用が爆発的に増えるので限界でしたが」
「そうです、離陸性能も良いし、やはり機首にカナード翼を付けたおかげでしょうか?」
1番機は直線翼、2番機は放物線翼、3番機は変則的なダブルデルタ翼にカナードを付けてみた、
実機で色々試してみて、最適な形を見つけたら量産すれば良い。
“宿題はどうですか?進みましたか”
「今まさに最中ですけど、なんと言うか……」
「この宿題に意味が有るのですか?」
“設計の練習だと思って望んでください”
「……それから、フェルナンダ様が三日前から領都の孤児院に行かれるております」
お針子やメイドだけでは限界があるし、かと言って領主の命令で強引に人を集めるのも問題なので、孤児院に行って有望な子をスカウトしてくる、
これはフェルナンダ自身の提案だそうだ、
“優秀なパイロット候補が見つかれば良いですね”
「今日は新たにロウルデスが飛行訓練を始めました、結果は良好です」
“パイロットが一機に一人では少なすぎます、パイロットシート一つに対して3人以上が理想ですので、育成に力をいれてください”
≪戦争映画ではパイロット一人にそれぞれ愛機が有ったりするが、あれは嘘だ、少なくとも現代の空軍では有り得ない、
自警隊では航空団に配属させられたパイロットが定年まで飛行任務にい就いたりはしない、
航空任務と地上勤務を数年毎に繰り返しキャリアを積んで行く、地上勤務の間でも技量保持の為に毎年数十時間の飛行勤務。
有事になれば、地上勤務のパイロット達も航空団に戻りパイロットの層を厚くする。
有事の機上任務は激務なので帰頭したパイロットは休養を強制させられる、だが機体は整備と補給をすれば再び騎手を変えて飛び立つ、
パイロットシート一つに3人パイロットがいれば24時間の任務にも答えられる≫
「夜食をお持ちいたしましたよ」
声の方向に集中するとヴァンナの声だと分った、普段はメイドらしい声で話すんだね、
“マレイセ、サンドイッチを食べて!”
いつも夜食が来る時間には居室に帰らされていたけど、今日は美味しいサンドイッチ頬張っている、
周りの声はザワザワした音になり、自分の味覚だけに集中すると、卵とマスタードの味が絶妙なハーモニーになってわたしの口に広がる、
感覚共有ってお得だね。
目の前にヴァンナの顔が来る、
「あなたマレイセですね?」
「左様でございますが」
「おかしいですね、食べ方と言うか仕草がニコレッタ様とそっくりでございますよ」
このメイド勘が鋭すぎ、
「ニコレッタ様は今頃グートルでお休みになられているはずですが」
「それもそうですね」
感覚共有は飛行工房の一部の者達にしか知らせていない、
「ねぇ、ヴァンナも飛行機の操縦をしてみたいと思わない?」
「それはわたしの様なメイドには光栄な話ですけど……
その口調はニコレッタ様ですね、そうですね!」
歴史的偉業を発見したかの様なメイドの口調、
「良く出来たメイドは主人の秘密を知っても黙っているものですよ」
マレイセの口から出たわたしの言葉に躊躇しているヴァンナ。
「ヴァンナさん、明日パイロットのペーパーテストを受けてみませんか、きっとニコレッタ様もお望みだと思いますよ」
カルロータが助け船を出し、それに掴まるソバカスメイド、
一件落着だね、サンドイッチをあと一つ、
手の平にピシャリと叩かれた感触、
「食べ過ぎでございますニコレッタ様」
「なんでさぁ~」
感覚共有が切れると、薄暗い部屋でメイドに抱っこされていた、
なんとも不思議な経験だった。
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:同時刻、領都の館、:
「フェルナンダ様、孤児たちは皆部屋に戻りました」
「そう、ありがとうシャスティナ」
「どうかしら、あの子達は使いものになるかしら?」
「わたくしの授業に着いて来られなければ、下働きのメイドに落とすだけでございます」
「もう少し人数が欲しいわね、他に孤児院は無いの?」
「本日行ったのが最後でございます、どうしても人が欲しければ、方法は無くも無いのですが……」
ニコレッタ様から飛行工房を任されたわたし、乗馬も楽しいですけど、所詮は地面の上だけの娯楽、ですが飛行機は違います、真っ青な空を縦横無尽に駆け回るまさに天馬、
ですがニコレッタの考えは違いました、彼女は飛行機使って金を稼ぐ方法を考えていました、
自分がオモチャを与えられて喜ぶ子供に見えてきました、ここは心機一転わたくしも飛行工房運営の一翼を担いましょう。
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翌日私達は領都内の某所を訪問した、
「こちらはガラスですが、向こうからは鏡となっております、お顔を見られる心配はございません」
奴隷商人はいやらしい笑い顔をしながらわたしを案内する、貴族の娘が遊び相手を物色しに来ていると思っている様だ、
税金を払えず困窮している家庭や、不作で自身の食い扶持すら確保できない世帯から人を買い取り奴隷とする、
奴隷を買い取ると買い主には、最低限の生活を保障しなければならないと言う義務が発生するので、ガラスの向こうは意外に小奇麗、
「外見や年齢、性別は問いません、獣人でも良いです聡明な者を所望です」
わたしの要求に目を白黒させる奴隷商人、
「そのお楽しみの奴隷を所望でございますか?」
後で知ったのだが、奴隷にはいくつかクラスがあり、主人のあらゆる要望に答えなければならない奴隷(若くて見目の良い女性は殆どこのクラス)
主人の性的な要求は拒否できるクラスもある、こちらは専門性が高い奴隷か、あるいは家事に特化した奴隷、
「お嬢様にはこちらなどいかがでしょうか?」
わたしよりも少し若い女性が連れて来られた、
奴隷生活で感情を無くしたのだろうか、わたしの顔を見ても喜ぶでもなく、怯えるでもない、無表情な能面。
「この者名前は?」
「名を剥がされておりますゆえ、ですが貴族の出でございます、なんでも噂ではさる高貴なお方の落とし種だとか、見目も良いですし頭もまわります」
商人に見透かされている様で気に入らないがこれは買いだ。
「主人よ、同じ様な奴隷が入ったらわたしに優先的に連絡をくれないか」
得意先が出来てホクホク顔の奴隷商人を後にする。
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