第32話 魔石交渉

「良くやったな、フェルナンダ!」

「まこと、飛空艇はすごい技術だと思っていたが、このヒコーキとやらは遥かにすごいぞ」

 二人の貴族は初飛行の興奮から未だ冷めやらぬようだ、今ならば魔石をねだる良い機会だね。


「グートシュタイン公爵、レッケブッシュ伯爵、我々の開発した新しい乗り物は素晴らしいです、今はそれに改良を重ねている最中ですが、いかんせん魔石が不足しております」

「よいよい、ニコレッタよ、皆まで言うな、魔石が必要なのだな、どれ位欲しいのだ?」

「さし当たって黄色の魔石が20程有れば、2号機、3号機も空に飛べるでしょう」



 初飛行の高揚感が一気にけし飛んだ二人、あれ?失敗しちゃった、

「ニコレッタよ、それは子供のおねだりにしては分を超えているのではないか?」

「左様でございましょうか?」

「ニコレッタ嬢、我々貴族が平民に配る魔石は殆どが紅色か紫ですぞ」

 公爵もウンウンと頷いている、


「父上、いつからレッケブッシュ家はかような吝嗇家になり下がってしまったのですか?」

「フェルナンダ、言葉を慎みなさい、親からもらった魔石であろうが」

「いえ、父上、先程の飛行で使用した魔石は全て私が黄色まで魔力を込めたものでございますわ」

「そなたの魔力で黄色まで魔力を込めるなど無理に決まっておるだろう」

「飛びたいと言う心があれば、魔力などいくらでも湧いてきますわ」

「そんな訳があるか、フェルナンダ、そなた魔石込めは苦手だっただろう……」



 魔石に一番魔力が詰まった状態の色が白、王族の血をひくエンゲルブレヒトに頼んだ時は白まで魔力を詰めてくれたが、魔力を魔石に込める、意外に難しく貴族学校でしっかり仕込まれる技量のひとつだそうだ、

 フェルナンダはこれが苦手で、せいぜい家庭用電源程度の紫色が精いっぱいだったそうだ、

 それが青、緑、黄色とステップアップ、分かり易く言うとコンセントが変電所になってしまったくらいの進歩。



「ニコレッタ様、このお二人は飛行機の素晴らしさを理解していないご様子、魔石を準備できない方など、いくら父上でも願い下げですわ、別の貴族に売り込みに行きません事?」

「フェルナンダ様、それは余りにも性急なお考えでは?」


「そ、そうだぞフェルナンダ、誰も魔石を渡さぬとは言っておらぬ」

「ベルナルド、大丈夫だ魔石は我がグートシュタイン公爵家が出そうではないか」

 よし、これで編隊飛行も出来るだけの魔石が集まった!


「グートシュタイン公爵のご理解とご配慮に感謝いたします」

「うむ、ニコレッタはしばらくここを離れるゆえ、しっかりと飛行工房を守ってくれよフェルナンダ嬢」

「グートシュタイン公のご期待に添える様に努力いたしますわ」


 ちょっと、なんでわたしがここを離れなければならないの?



 ◇◇



 気がつけば眠ってしまった様だ。

 無理も無い今朝は日の出の前にレッケブッシュ領を離陸したのだ、その時間に飛空艇に乗り込むと言う事は真っ暗なうちから準備をしなければならない、

 まだ10歳にもならない幼女の身体には苦行だ。



 瞼を開くと後ろに流れて行く田園の風景、この飛空艇は時速40キロ以上出ているよ、

 後方斜め上には別の飛空艇、更にその後方斜め上には別の飛空艇、雁行の形をとって進んで行く、

 飛行機がこの様に飛ぶ場合、後続機は先導機の右斜め後ろ下、高度差をつけて追随するのが普通、ボックスと言う形だけどね、

 これは後続機の正操縦士が前を飛ぶ機体を確認しやすくする為、

 飛空艇は上方の視界が悪いので、後続機は斜め上を飛んで常に先導機を視界に入れる様に。


「目が覚めたかね、ニコレッタ」

「これは父上、見苦しい姿をお見せしてしまい申し訳ございません」

「よいよい、ここには口うるさい侍女はいないからな」

 わずかなメイドと護衛騎士のみが艦尾楼とも言う豪華な空間にいるだけ、

「それにしても見事な飛空艇の大群ですね、いつの間にこんなに造られたのですか?」

「あの戦役の後すぐに量産を手配するようレッケブッシュ伯と話したのだ」

 飛空艇を造ると聞いてはいたけど、飛行機に夢中でこんなに量産していたとは気がつかなかったよ、

 これではレッケブッシュ伯爵が魔石不足に陥る訳だ。



「父上、私の母の妹とはどの様なお方なのですか?」

「マルヨレインか、心根の優しい女性だ心配する事はないぞ、そなたの事を話したら、せひ会いたいと言っていたしな」


 私は9年前に出産で亡くなった先妻の忘れ形見と言う事になっている、今はグートシュタイン公爵の領地グートルに向かっている最中だよ。


「私の母がいたと言うグートルに行くのはまぁ良しとしましょう、ですがその後王都まで行く必要が有るのですか?」

「必要があるから行くのだ、そなた冬には貴族学校の入学が控えておるしな」


 公爵令嬢になれば権限が増える、と言われたがあれは嘘だ、この国の貴族の枠組みにガッチリと入れられるわけだ、

 色々思うところがあるが、将来的に自分が乗る飛行機の魔石を染め上げるくらいの魔力は欲しいし、

 周りのみんなはわたしが貴族学校に行く事は既定路線かの様に言っているけど、わたしに魔力が無かったらどうなるの?

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