第28話 不条理お姉さん
飛行工房に行くと不条理が服を着ていた、
「お帰りなさいませニコレッタ様、お加減はいかが、怪我などはされていませんか?」
「フェルナンダ様、なぜこの様な場所に、ここは御令嬢に向いているとは言い難い場所でございますが」
「あら、面白い事を仰られますね、私よりも幼いニコレッタ様が働いていらっしゃるとお聞きして、加勢に参りましたわ、これは貴族としての勤めを果たすだけですのでお気づかいなく……」
レッケブッシュ伯爵、飛行機の技術をかすめ取るつもりか、いやエベリナもいるし今更だろう、そもそもフェルナンダに理解ができるのか?
追い出したいけど、そうなると魔石を融通してもらえなくなるし、しばらくは数学の勉強で遠ざけておくか。
「ニコレッタ様、なんでもここでは気球よりも速く空を飛べるものを研究しているとお聞きしましたわ、そこにいる者達に訊いてもさっぱり要領を得ませんの、教えて頂けません事」
元お針子達を見る視線は氷の視線、平民なんて人間じゃないと思っているのだろう、
これはダメだ、こんな人がいてはチームが回らなくなる、
「分かりました、フェルナンダ様、ですが説明するにはもう少しお勉強を重ねる必要がありますね」
「あら、今教えていただけるのでは、わたくしニコレッタ様をお待ちしておりましたのよ」
なんとかフェルナンダとお付きのメイドを追い出した、これからレナーテ先生に頼んで毎日算術の勉強漬けにしてもらおう、あんな奴にチームをかき乱されては大変だ。
「御免なさいね、みんな大変だったでしょ?」
「いえ、戦地に赴いたニコレッタ様に比べたら私たちなど何も……」
居残り組の責任者ロウルデスが言う、彼女はお針子の中でも歳が二十代半ば、いわゆるバツイチだが、豊富な人生経験と年長者の貫録でみんなのまとめ役。
彼女は結婚前、商会で経理事務の仕事をしていたので現場の状況を数字にして報告できると言う特技を持っている。
私ががいない時に今後の方針を決める為の資料を作っていてくれたそうだ、
ロウルデスが私に厚めの報告書を提出してくれたので、エベリナと一緒に内容を精査する、
結論から言うと、実証機と同じエンジンで実用機を量産した場合、使用する魔石の量がレッケブッシュ領全体の魔石を上回る可能性があるので、もっと効率的なエンジンを作る必要が有ると言う内容、
「……見事な洞察ですロウルデス、それで何か対策とは代案は考えていますか?」
「いくつかありますが、まずは飛空艇を量産する事です、飛行機に比べれば遅いですが早馬よりも早く移動できます」
「飛空艇はレッケブッシュ伯爵が量産すると仰っていました」
「そうですか、ではニコレッタ様が考えていたエンジンを実用化する事です、実は飛行工房の皆は既に試作品を作りあげていまして……」
以前皆の前でターボプロップエンジンの話をした事がある、
創造力と応用力の豊富な彼女達は私の雑談から新型エンジンを造り出していた、
「それでターボプロップエンジンはどの程度まで完成したの?」
「とりあえず出力試験が出来るレベルです、実証機のエンジンに比べてかなり短くなりました」
「もう、実物は有るのですね、見せてもらえませんか?」
「ご案内いたします」
彼女達は本当に優秀だ、わずかなヒントだけで新しい技術をものにして行く、
この世界に突然起きた技術の爆発に思うところが無い訳ではない、だが異世界に飛ばされ、幼女の姿になっていても、心のパイロットは健在だ、
しかもターボプロップエンジンとはR-7練習機をこちらの世界で造れる、
航空自警隊パイロットにとってR-7は初めて操縦した飛行機、
航空学生の三次試験では実際に飛行機に乗って適正を見る、試験のポイントは三次元の空間把握と習熟度の早さだ。
最初のエンジンの三分の一くらいの大きさの円筒形が鎮座していた、
「吹き出す力ではなく、プロペラを回す力だけですので、魔石の使用も少なくて済みました」
いかにも素朴な田舎の娘と言った感じのジョフィエが説明してくれる、テトラやカルロータの陰に隠れがちだが彼女も優秀な技術者だったわけだ、
短い期間でこれだけの物を造るとは大したものですね」
「ありがとうございます、ニコレッタ様が優れたアイデアを出してくれたおかげでヴェヌスが出来あがりました」
「ヴェヌス?」
「失礼いたしました、我々はこのエンジンをヴェヌス3型と呼んでおります、気に入らなければ呼び名を替えますが?」
「いえ、大丈夫ですよ、ヴェヌスですか、良い名前をつけましたね」
ジョフィエ頬っぺたを赤くしている。
中の構造を見てみたが減速歯車も含め完璧なエンジンだ、唯一の違いはプロペラがエンジンの後ろに付いていると言う事、
「ジョフィエさん、どうしてプロペラを後ろに付けたのですか? 何か理由が有るのなら教えて頂けませんか」
「あっ、あの、ダメでしたか?」
「そんな事ありませんよ、ただ理由を知りたかっただけです」
実証機のエンジンは後ろに空気を噴き出していたから、後ろに推力を持って来るのが当然だと、考えただけだそうだ、
前の世界でも機尾にプロペラが付いた飛行機はあった、
推進式とかプッシャー式と呼ばれたりする方法だが、主流になりえなかった理由は離着陸で機首上げをした時にプロペラが地面に擦れるから、
そのために脚を長くしたり、設計上の制約が多かったからだろう、
このエンジンは完成度が高い、今更プロペラを前に持って行くのは無理だ、
R-7は我慢して、このエンジンを活かせる機体を設計しよう。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます