第27話 復員兵

 行きの意気揚々とした進軍とは比べ物にならない、沈んだ雰囲気での敗走行、

 飛空艇のスタッフやレッケブッシュ伯爵からお借りした護衛小隊には一人の死者も出なかったのは幸いだった。

 まずはレッケブッシュ伯爵に帰還の報告と戦闘の報告、

「……羊獣人達は大変優秀な弓手でした、また擬装も巧みな難敵だったと言えます」

「それを破ったのは、そなたの飛空艇のおかげと言うわけだな」


「はい、ですが敵も学習するでしょうから、これからは上空からの監視にも偽装を施す様になると考えたほうが良いでしょう」

「まぁ、しばらくは羊達と事を構える事はないだろう、良くやってくれた、ゆっくり休めニコレッタ嬢」

「お気づかい有難うございます、一個小隊はお返しいたします、

 それから羊人の娘六人を捕虜にいたしました、夏の館でメイドとして使いたいのですがよろしいでしょうか?」


 レッケブッシュ伯爵は捕虜の娘達の反乱を心配してくれたが、その心配は薄いと思う、

 全員と面談して分かった事、彼女達は高地羊人と言う種族の出、自分達をタークと呼んでいる、

 今羊人の政権を担っているのはアレマン族と言う低地羊人で両者はかなり険悪な関係だそうだ、


 全員が双子か歳の近い姉妹パッと見で二十歳以上の娘はいないから、精神感応の力が使えるのは乙女の特権なのだろうか、それとも言う事を聞くから幼い娘を連れて来たのか。



「そうそう、ニコレッタ嬢、飛行機の研究は進めてくれ、魔石も準備して有るぞ、それから頼りになる者も送ったから、開発もはかどるだろう」

「頼りになる者とはどの様なお方なのでしょうか?」

「まぁ、それは会うまでの楽しみで良いではないか、それよりそなた身の振りを決めねばならぬぞ」

 強引に話題を変えた伯爵、ろくでもない人間が来ても飛行機は理解できないよ、


「その、身の振りと申しますと?」

「飛空艇は大活躍しただろう、そんな技術を持った娘を自分の家に取り込もうとするのは当然の成り行きだぞ」

「簡単な原理ですけどね」

「そうだ、簡単だから皆真似をしだす、その前に囲い込むし、大量に造って金を稼ぐぞ」

「商売になりますかね?」

「わしには金貨が空を飛んでいる様に見えるがなぁ」


「ところでニコレッタ、先程グートシュタイン公爵と話をした、大層褒めていたぞ」

「全ては優秀な部下のおかげです」

「謙遜は必要無い、自慢出来る事は自慢した方が良いぞ、

 そうそうニコレッタ、そなた何歳だ?」


 はて? 一番若いお針子さんでも12歳だけど、ずっとお姉さんに見える、

「8歳か9歳くらいじゃないでしょうか?」

「そなたは9歳だ、よいな」

 レッケブッシュ伯爵が、こう言う時話はこれまで、と言う意味、

 

 戸籍や出生証明が有る訳じゃないし、歳なんて分からないよね。




◎ヴァンナ



 ニコレッタ様が復員して来た、無事で本当に良かった……

 いや別にどうでも良いけど、また領都のお館に戻って下働きなんてしたくないから、

 私みたいな下々のメイドにはお貴族様がどうなろうと関係ないからね!


 喜んでいたら六人も奴隷を連れて来た、まだ幼い子だと思っていたけど、やはり貴族だけある、

「……それではこの六人の奴隷は下働きでしょうか?」

「ヴァンナ、彼女達は奴隷でもなければ戦利品でもありません、わたし直属の使用人として扱ってください、その為の教育をあなたに任せたいのです」

「あの、お嬢様いっぺんに六人も教育するなんて私には無理です」

「それもそうですね、では半分の三人にしましょう、残りは下働きで」



 ◇◇



「ヴァンナ様、リネンの交換ですけど、今は洗い場が混んでいるから、もう少し待った方が良いと思います」

「ミルシュカ、どうして洗い場が混んでいると分るのですか? それから私の事は呼び捨てで呼ぶように」


「ヴァンナ、もうすぐお嬢様が休憩に入ります、お菓子を出しますね」

「マリーナ、何を言っているの? お嬢様のお勉強部屋は東の離れでしょ」


 こんな事が続けば私の様なメイドでもニコレッタ様の“戦利品”の意味が分かって来る、

「マリーナ、あなた双子とと離れていても話が出来るのですね?」

「ヴァンナ、何を言っているのでしょうか? 私の様な羊人には理解できません」

 ああ、そう言うことね、建前上は単なるメイドとして扱わなければならない訳ね。

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