第26話 異世界無線機


 飛空艇は音も無く着地する、グラウンドクルー達は手馴れた様子で飛空艇を固定していく

 もはや戦いの趨勢が決まったので上空偵察は必要無いとの判断だ、

「カルロータ、ご苦労でしたね、ゆっくり休んでね」

「ありがとうございます、ニコレッタ様」

 上空組は水や食事を貰い休んでいる。


 馬の繋がれている林を抜けると、藪の方から人の押し殺したざわめき。

“向こうの藪が変だ! 何かある”


 シーラを手招きし藪に向かう、やはり女性の声。

 戦場で良く聞く話だが、私の眼の届く範囲でそんな不埒な行為は許さない。

 シーラはサーベルに手をかけ、私を押しのけ前に行く。



「お主ら何をしている!」

 まだ少女と言える歳の羊獣人の娘を押さえつけ、馬乗りになっている、農民兵達。

「なんだぁ、お貴族様か、俺たちは今からご褒美を貰うところなんだよぉ」

「そうだぜ、お前ら娘が空の上から眺めている間、俺たちは血を流して戦っていたんだ、

 貴族様にはわかんねーだろうけどよぉ」

「それとも、何か? お貴族様が俺たちを満足させてくれるって言うのか?」


 農民兵達は一斉に野卑な笑い声を上げる。

「なるほど、分かった、名前を聞いておこうか、そこのお前」

 シーラが低い声で訊ねる、

「俺かぁ、俺はラデク、ダンツィの地頭の息子で…」

 ラデクが自己紹介を終わる前に、彼女のサーベルが風切音を立てた。


 最小限の動きだったので、農民兵達は何が起きたのか?理解できず、固まっている。

 すぐに護衛の領兵隊が来た、

「奴らを捕縛しろ、そうだな、全員ズボンを取り上げるか。

 捕虜に対する虐待には厳罰で臨むぞ、それと羊獣人達を保護しろ」


 毅然とした態度でテキパキと領兵を仕切る隊長。



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「ミルシュカさん、スープだよ、良かったらどうぞ」

 乾燥野菜とスパイスを入れただけの簡単な食事だが、野戦では上等な部類の食事、三人の羊人に振舞う。


 頭をペコリと下げる羊娘、頭の上には小さな耳と、クルット巻いた角が生えている。

 獣人を間近で見たのは初めてだけど、角と耳以外は普通の人間と変わらないね、自分がファンタジーの世界に来たと言う事を再確認させてくれる。


 角に触ってみたいが、今はそんな時期ではない。

 三人共可愛らしいけど、こう言った戦場では可愛らしいのは悪い方向に作用する、

保護された三人の羊娘達の顔のアザを見れば、辛い目に遭ったのは一目瞭然。



 最初は真っ青な顔して怯えていたが、周りには女性しかいなく、皆優しく微笑んでいるので、緊張も解けてきた。


「私はニコレッタ、子供だけどここの隊長なの、君たちの名前も教えてくれないかな?」

 詰襟の軍服を着てはいるが、自分の胸位の身長しか無い女の子を相手にどう対応して良いか迷っている、

「ミランダです…」

「ミルシュカ…」


「ミランダさんとミルシュカさんは、よく似ているね、もしかして姉妹?」

「  …双子…  」

「リプシェの片割れ、死んだ」

「まだ、死んでない!」


 突然三人でケンカが始まった。

「リッツエ、まだいる!」

「ちょっと、落ち着いてね、リッツエはどこにいるのか、分かる?」

 立ち上がり、森の方を指さすリプシェ。

「声、聞こえる!」


 ピースがはまってきた、戦闘中に合図もしていないのに、連携して攻撃してきた、羊獣人達。

 保護された羊娘達は武器を持っていた形跡が無い、そして“リッツエの声が聞こえる”と言う言葉。


 護衛小隊と捜索に当たり、崖の下から、瀕死のリッツエを発見した。

「リプシェは離れていても、リッツエの声が聞こえるのだね?」

 頷く羊娘。

(これって、無線機の様な物?)

 羊人達がタイミングを合わせて攻撃を仕掛けて来たのは、彼女達が無線機の代わりになって、タイミングを合わせていた訳だ。。

 どんな原理で連絡が出来るのだろうか?

 羊人の女性だけにしか使えない能力? 双子だけにしか使えない能力? みんな幼いから乙女だけにしか使えない能力?

 この辺りも考察する必要がある。


「ねぇ、エベリナ、捕虜になった、女性の羊人は全て、私が保護できないかな?」

「分かりました、グートシュタイン公爵に進言してみましょう」

 私の要求はあっさり通った、上空からの偵察が勝因を決めた事を認めた訳だね。

 更に狼藉を働いた農民兵達は戦いに参加した名誉を認められ、縛り首ではなく、全員斬首刑に処された、

 これは軍の規律を保つための措置、規律の無い軍隊は単なる掠奪者の集団になり下がり、アッと言う間に烏合の衆になってしまうからね、



 実際は公爵達にとって、捕虜の娘など些細な問題、敵に大損害を与える事は出来たが、こちらの損害も大きいので捕虜にかまっている暇ななどない、

 なによりも王子が率いる主攻が壊滅的な打撃を受けたと言う報告をもらった、

そんな状態で進軍しても左右の連携が取れないだろう、

 侵攻部隊は最初の戦闘で撤退を決めた。

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