第9話 主特技
まるでゲームみたいなこちらの世界では魔法の適正の他にギフトと言ってその人特有の特技を授かる場合もあるそうだ、
ギフトは平民の場合は、鍛冶屋なら“均等な力でハンマーを打ち下ろす能力
”パン屋なら“パン生地を均一に練れる能力”
騎士ならば“槍で狙った場所を正確に突く能力”
等を授かるそうだが、ギフトは持っていない人の方が遥かに多いそうだ。
ギフトの説明が済んで授業は一旦休憩となり、ヴァンナがワゴンを押して来た。
「お嬢様、お茶をお持ちいたしました、甘い物もご用意しております」
これは甘い物大好きな子供をおもんばかった行為ではない、
“糖分を補給して、もっと勉強に集中しろ!”
と言う意味だよ。
「ねぇ、ヴァンナ、シーラはどこに行ったの? 昨日の夜来なかったよ」
「わたくしが聞き及んだ範囲では、シーラ様は騎士団詰所に泊まり込んで護衛騎士になるべく訓練を受けているそうです、これは本人の希望とも聞いております」
寝る前にシーラとお話するのが唯一の息抜きだったのに、
「そうだったの、
ねぇ、ヴァンナは風属性だよね、魔法は使えるの?」
“はぁ~”とため息をつくメイド、
「お嬢様、わたくし毎朝風魔法を使っておりますよ、魔法を使っている間、お嬢様は枕によだれの染みを付け惰眠を貪っているので、ご存じないご様子」
スッと手を斜め上にかざすと、窓際のカーテンがスルスル動いて、部屋は薄暗くなった、
「まだお眠の時間には早いですね」
そう言うと、再びカーテンが開いて眩しい明かりが部屋を満たす、
「何これ? スゲー、便利~」
レナーテ先生の教育は魔法の前には吹き飛び、品の無い言葉で感嘆する。
◇◇
食事は基本一人で食べる、味気ない事この上ないが、時々エンゲルブレヒトのご相伴に預かる日もある、これはこれで気を使うのだけどね。
「そなた、私についてどの程度知っておる?」
「本来なら次の国体を担うお方になるはずのお方だったと、聞いておりますが」
「そこまで知っているのなら話は早いな」
一拍おいてエンゲルブレヒトは再び話し始める、
「わが父は旅先で客死して、我が父の弟、つまり伯父が急遽国王に即位した、
私が貴族学校の生徒だった頃の話だがな」
「その事に不満を持っている方達もおられるのですね」
黙ってうなずく若君、
「今私はレッケブッシュ伯爵の世話になっている、この屋敷はレッケブッシュ伯爵の夏の館だ、彼の者の娘を私に引き合わせたいそうでな」
王族だから無条件で言う事を聞く訳ではないんだね、
「もしかして私は防波堤になる為に呼ばれたのでしょうか?」
「話が早くて助かる、私の愛人候補になれ」
「幼い娘が大好きなんて、伯爵の娘さんがドン引きするのは間違いありませんが、いつまでも使える手ではありませんよ」
「時間が無いのだ、四日後に近隣の領主を招いて食事会が有る、その時には私の隣にいろ、いいな」
教育を受ける事の条件とは言え、あんまり気分の良いものではない、
表情に出ていたのだろう、
「そんな顔をするな、そなたはさる高名な家の娘と言う事になっているからな、護衛を用意したぞ」
スッと現れたのはシーラ、
私の前に膝まずくと、
「シーラと申します、わたくしをニコラ様の騎士にしてください」
「もちろんよ、シーラよろしくね」
久しぶりに会えた、ついつい顔がほころんでしまう、
それはシーラも同じらしく、真面目な顔をしているが、目がニコニコしているのが分かるよ。
若君、飴と鞭の使い方は心得ているね。
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