第7話 王位継承者
私は生まれた時から王になる事を運命つけられていた、周囲の者達はその様に扱ってくれたし、私自身その扱いに不満は無く、帝王学を研鑽して行った。
貴族学校の最終学年で全てが変わった、国内を視察していた先国王すなわち我が父は旅先で病に倒れそのまま帰らぬ人に。
国政に穴が開くのは一大事とばかり父の遺体が王都に帰って来るよりも早く次期国王を宣言した伯父。
この伯父は童子を愛でる事が大好きな変態だが、巧緻に長けている面もある。
本当に病死なのか、裏で糸を引いていたのは誰だ、疑問の声はたくさんあがったが、気が付けば私の取り巻きは誰もいなくなっていた。
本来なら私の口も封じたいところだろうが、そんな露骨な事をすれば王としての徳を疑われるのだろう、
“東方の領地を巡行し王族としての見識を高めよ”
体の良い所払で王都を追い出された私は辺境の貴族の家を渡り歩いて先の見えない日々を送っている。
腐っても王家の血を引くわが身、東方の田舎貴族は娘を差し出し、友誼を結ぼうとするが、その様な事をすれば王都に帰る道が閉ざされる、
何か良い防波堤は無いものかと思案していた時に偶然見つけたニコラと言う幼女、見目は悪くない、むしろ貴族と同列だ、算術に長けているし、会話が大人だ、
“この娘を上手く使って返り咲こう”
◇◇
「若、ニコラを迎えに行って参りました」
「御苦労、具合はどうだ?」
「慣れぬ馬車の旅で疲れたでしょうから、部屋で休ませております」
「ふむ、それでハーゲン、そなたあの娘をどう見る?」
「市井の、それも農村の娘で無い事は間違いないですな、
計算が得意なだけの娘だと思っておりましたが、所作が洗練されていますし、
何よりも姿勢が良いです、幼い頃から躾をされた証拠です、貴族か大店の娘ではないのかと」
「それがなぜあんな山奥にいたのだ」
「色々訊いてみましたが、記憶が無いの、一点張りでして、
確かに世の理を知らぬ部分が有ります、ドワーフの塔を始めて見たと言っておりましたし、他所の国から流れて来たのではと思うのですが」
ドワーフの塔は国のあちこちに建っている謎の塔、もはや住まう人は誰もいないが、未知の物質で出来ている太古の遺物、それを始めて見たとは。
「歳上の娘はどうだった?」
「明らかにニコラの身内ではありません、普通の田舎の娘と言ったところでしょうが、身体能力が優れております、護衛騎士に良いでしょう」
「他に何か気が付いた事はあるか?」
「とにかく度胸が据わっております、途中で割と大き目の魔物と遭遇したのですが、逃げるでもなく、騒ぎ立てるでもなく、平然としておりました、
手馴れの兵士でもなかなかおりません」
「確かにな、あの娘まだ年端もいかないが、話していると大人と話している様な気分になる」
「蕾を散らすおつもりですか?」
「わたしを伯父上と一緒にするな!」
「失礼いたしました」
変態の伯父のニヤケた顔が思い浮かび思わず声を荒げてしまった、
幼子に大きな皮の首輪をつけ“犬の調教”と称して嬲っていた最低の男だ。
しばしの沈黙、
「いや待てよ、わたしがあの子娘とねんごろになったら、令嬢方はどう見る?」
「蛇蝎の様に嫌うでしょうな」
「ハーゲン、それっぽい噂を流してくれ」
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