第4話 地頭の息子

 ニヤニヤ笑いながら許可も無く家に入り込んで来る男、

「ようシーラ、お楽しみのマイスの実だぜ」

「なんだよ、インゴルフ、マイスの実を置いたらさっさと帰んな」

「つれない事言うなよ、シーラ、俺とお前の中だろ、」

 なれなれしく肩に回して来た手をピシャリと撥ね退ける、



“フンッ”と鼻をならしたインゴルフだが、テーブルの上に並べらたスープ皿に気が付く


「なんだ、連れない態度取っているかと思ったら俺の分まで準備して有るじゃないか、

クーゥ気が効くね」


「汚い尻で座るんじゃないよ、そこは爺さんの席なんだよ!」

「そんな事言うなよ、シーラだっていつまでもこんな山奥に暮らしている訳にはいかないだろう、俺と一緒になれば地頭の妻だぜ」


「白いパンが食べられる事を自慢しに来たのならもう聞き飽きたよ、ほら魔石だよ、受け取ったらさっさと帰んな」

 文字通りインゴルフを蹴りだした、

 森の中では動物の肉には困らないけど穀物は作れない、魔石とマイスの実を交換するのは爺さんの代からの取り決めだ、



 インゴルフと下男一行は見えなくなったが、気を抜いてはダメだ、あいつは蛇みたいに狡猾でずるがしこい、おまけに一度狙った獲物はなかなか諦めない、

 ガルサ鳥の鳴き声が聴こえて来た、用心深いあの鳥が鳴くと言う事は近くに人はいないと言う意味、


 隣の部屋に行き長持を開ける、

「ニコラ、ごめんね、一人で出て来られる?」

 長持の底板を持ち上げると、そこは床下、そこまで用心深くしなくても、と思うかもしれないけど、人買いを甘く見てはいけない。



「さっきのが人買い?」

「あれは地頭のバカ息子、だけど見つかるとあっという間に知れ渡るから、気をつけてね」

「私は人買いから逃げて来たの?」

「多分だけどね、村にはニコラみたいな子いないはずだし」

「そうなんだ、ところでさっきインゴルフに魔石をあげたよね?」

「ああ、あれね、私が狩った魔物の魔石とマイスの実を交換しているの」




 あれ? 魔石の魔力はそんなに長持するの、いやいやそれだったらシーラの暮らしぶりはもっと良くならないとおかしい、

「今日渡した魔石はどれくらい魔力が詰まっているの?」

「紅色だから少ないわよ、村とか街の人達は領主様に頼んで魔石に魔力を込めてもらうんだよ、そのかわり年貢を払わないといけないけどね、

 爺さんそんな生活が嫌で、こんな山奥に引っ越したって良く言っていたし」


 何となくだけど、この世界の構造が分かってきた、領主は魔力の詰まった魔石を渡す、つまり電気みたいな基本インフラ、

 その代わり平民は税金を払うわけだ。



 図らずもこちらの世界の理を知ったが、そんな支配・被支配の枠組みから外れた山奥では、時間は穏やかに過ぎて行く。


 村人に秘密を抱え、人買いを敵に回してまでどうしてシーラは俺を庇うのか、そんな感情の機微に気がつかないほど、俺は無粋でなければ、朴念仁でもない、

 俺を庇うのは小さい子を守ろうと言う母性なのか、恋愛の様な気持が有るのかはわからないが、好意的な気持ちを向けられているのは伝わってくる、

 幼女になっても好意を向けてもらえるのは嬉しいしものだ、



 ◇◇



「もう寝ようか」

「うん!」

 夕食の後しばらくだべったらベッドに入る、

 シーラは早起き、幼女のニコラは遅くまで起きていられない、

 こちらの世界の生活は自警隊以上に健全だね、


「灯り消すよ」

「ねぇ、シーラ今日はそっちのベッドに行ってもいい?」

「だ…ダメだって、その そう言う事は、 えっと~」

 顔を真っ赤にして拒絶するけど、俺はそんな事お構いなしに布団に潜りこむ、

「今日は怖い事が有ったから、ねぇ、良いでしょ?」


 しばらくはシーラの鼻息が部屋に響いていたけど、それも穏やかな寝息に変わり、静かな夜になる、

 こんな日がずっと続くなら良いのにね。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る