第3話 異世界川遊び
あんまりにも幼女が駄々をこねるので、釣りに連れて行ってもらえる事になった、初めての外の景色で心ウキウキ、
「ここ見覚えある?」
なんの変哲もない森の中の獣道を指さしてシーラが訊くが、俺はかぶりを振るだけ、
「そっかー、ここにニコラが倒れていたんだよ」
正直なんの感慨も湧かなければ、何かひらめいた感覚もない、この土地自体は大して重要なのではないのだろう。
釣りは川釣りだった、いや渓流釣りの部類だろうか?
前世では釣りとは無縁の生活だった、初めての釣りが異世界とは趣がある。
「ねぇ、シーラさっきから竿が動いているよ」
「ニコラ、離しちゃダメよ」
釣り上げたのは鯉とナマズの中間みたいな変な魚シルーロと呼ぶらしい、それが何匹も大漁だった、
何匹かはその場で捌いて塩焼きにして食べた、大自然の真ん中でワイルドな食事、男の夢だね、今幼女だけど。
ワイルドな食事をして帰り道、
「……ねぇ、こっちに行くと村に行くのでしょ? それじゃこっちの道は」
「羊獣人の国に続いているわよ、正しくは羊獣人の国に行く街道に繋がっているんだけどね」
今サラリとすごい事言ったよね、羊獣人とな、
「羊獣人って?」
「ここはオステンブルグと言う国だけど、森の向こうに羊獣人の国があるの」
「身体中毛だらけの?」
「獣人って言っても、耳が四つ付いているだけよ、犬獣人は犬みたいな耳、猫獣人は猫みたいな耳」
「シーラは見た事あるの?」
「遠くからだけどね、この先の尾根が有るの分かるかな? そこが境界線でね、会うとお互い違う方向に行くようにしているの」
無用な争いを避ける為の暗黙の取り決めみたいだね、
「羊獣人は角が生えているの?」
「そうよ、昔はオステンブルグと羊獣人の国は交流が盛んだったらしくて、街道を行ったり来たりしていたそうよ、
爺さんに聞いた話だけどね」
「今は?」
「さぁ、時々街道の近くまで罠を仕掛けに行くけど、草ボーボーよ」
森の中のログハウスでスローライフ、パッと見はカナダが北欧みたいに見えるかもしれないけど、想像以上にファンタジーな世界に来たみたい、
ケモノの耳が生えた獣人、会ってみたいよね、ウサギ獣人とか耳を触らせてくれないかなぁ、
シーラ
罠師の私が文字通り拾って来た少女ニコラ、最初からよくしゃべる子だった、無口な私にはちょうど良い相手だった、
旺盛な好奇心と言うか知識欲、貪欲に知識を貪り喰うケダモノみたいだ、そして会話のわずかな糸口から情報を構成する、頭の良い子だ。
頭の良さを実感したのは地面に数字や記号を書いていた時だ、前の晩に教えてあげた数字を書いて更に足し算や引き算の記号を自分で工夫して作り上げていた、
きっと天才だ今度、今度麓の村に行った時には紙とペンを買ってきてあげよう、
今も私はポーチに座って数字を地面に計算式を書いているニコラを眺めている、今更だけど美人さんだ、真剣な横顔を見ていると、可愛がってあげたいと言う気持ちと、イジメて欲しいと言う気持ちが同時に湧いて来る……
◇◇
それから数日毎に釣りに行くようになった、いつまでもログハウスに閉じ込められては、気分が滅入ってしまうから、シーラなりの気遣いなのだろう、
そしてシーラは俺の話し相手になってくれる、今まで一人だったから寂しかったのだろうし、俺もこの世界の情報が集められてお互いに得る物が多い、
そんな会話の中で、この世界には魔法が有る事が判明した、もはやゲームの世界だ、
誰でも使える訳ではなく、人によって様々、幾つもの魔法を操る人もいれば、まったく使えない人もいたり、
手の平から炎を出したり、風を起こしたり出来る人もいるそうだ、
シーラはあまり得意ではないらしく、
“頑張ればロウソクくらいの炎は出せるけど、その後物凄い頭痛がするから、魔法はキライだ”
と言っていた。
「すごいねぇ~、炎を出せるのでしょ」
「平民の魔法なんてたいしたことないよ、領主様とか王様達はすごいらしいよ」
「それじゃ、空を飛んだりしているの?」
「それは聞いた事無いなぁ~」
ホウキに乗って空を飛びまわるのは前の世界でのフィクションだったのか、
ちょっと待って、この世界では飛行機はまだ無いよね。
普段は聞き分けの良い良いニコラだけど、好奇心が先走ると止まらない事がある、
今も、
「ねぇ、魔法を見せて~」
と上目使いで頼んで来る、この子の頼みは断れないよ
「仕方ないな~」
ニッコリと笑うニコラ、この笑顔が見られるのなら頭痛も苦にならない、
「……頭が痛くなるからちょっとだけだよ」
「うん」
“ボゥワ”
顔よりも大きな炎の塊が私の手の平の上で揺らめいている、
「 ちょっと、 何これ 」
慌てて炎を消すし手の平をマジマジと見つめる、
「シーラ、頭痛くない?」
「別に平気だよ、ちょっとビックリしただけ」
全然平気じゃないよ、茫然自失だよ、
どれくらい唖然としていたのだろう、鳥の鳴き声が聴こえない、
「ニコラ、長持に!」
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