第2話 幼女のお手伝い
青い髪をしたお姉さん、名前はシーラで、お仕事は罠師だそうだ、弓で狩りもするから猟師かな?
「……猟師はどんな獲物を捕まえるの?」
「食べられるのはフェリかラバンね、魔物がかかると魔石が取れるけど、暴れて大変なの」
「魔石って?」
そんな事も知らないの、そんな顔をしてポケットから紫色の石を取り出す、
「これはこうやって使うの」
テーブルの上のスタンドに紫色の石をセットすると明るく光り出した、
“バッテリーか?”
魔物を倒すと身体の中から魔石を取り出す、魔力のしっかり詰まった魔石はコンロや照明器具、暖房などに、まるで電気だ、
頭がグルグルまわっている“こんな事は有り得ない”
“だけど死んだ後の世界なら有りかも”
前の世界では死んでしまったけど、幼女の姿になり違う世界に来た、
迅速な状況把握は健在だ。
◇◇
航空自警隊の航空操縦学生、通称“こうがく”三次に渡る厳密な試験でパイロット希望者を選抜して、更にふるいにかける、
何も知らない若者に操縦桿を握らせるほど自警隊は甘くない、
二年間の地上訓練期間、運動部の合宿所みたいな場所に入れられ、後任期生は一年上の先任期から薫陶を受ける、
かけ足で体力を消耗させ、人間性を消す教練は精神力をゴリゴリ削られ、パイロットに必要な座学、勉強は比較的楽で延灯申請をした事は一度も無い。
とにかく事ある毎にスポーツの行事が有った気がする。
自警隊と言う鋳型に二年間押し込まれると、飛行準備過程に進み、その後プロペラ機、次にジェット練習機と進んでいく、
飛行機に乗れる様になるのがゴールではない、そこからが本当の始まり、隠れたハードルに引っ掛かり不適格と判断されると、地上勤務に回される、
常に緊張感を保っていなければならない、苛酷なサバイバルレース
ピリピリした自警隊時代と打って変わって、のどかな山奥での暮らし、
シーラは朝日が昇る前に罠の確認に出掛ける、
日が昇り少し経った時間になると帰ってきて食事、午後はまた罠の見回り、罠だけでなく途中めぼしい獲物がいれば弓で狩って来る事もある、優れたハンターでもある、
その間俺はご飯を待ってゴロゴロしているだけ、田舎のスローライフと言えば聞こえは良いが、居候、単なるヒモ、ごくつぶし……
留守番の間に覚えた事と言えば三つ編みくらい、今まで自分の髪がこんなに長かった事はない、暇な時間は髪の手入れ。
最初は俺も何か家事を手伝おうとしたが、幼女の身体では出来る事が殆どない、料理をするにもコンロに届かないし、そもそも重すぎて鍋一つ満足に持ち上げられない、
掃除でも、と思ったがシーラは意外にキレイ好きで、自警隊の営内並みに整頓されている、
だったら洗濯でもと思って、タライに水を張っていたらシーラに見つかった、
「……もうニコラはこんな事をしなくても良いの」
「だって~」
「水冷たいでしょ、手がガサガサになっちゃうよ」
そう俺の手はツルンとして手伝いとかしていた形跡がない、ついでに言うと脚の裏もプニプニで長い時間靴を履いていた生活とは無縁、
「お手伝いしたいなら、お皿を並べておいてくれないかなぁ」
「うん、分かった」
嬉しそうに返事をして家に戻りお手伝い、自警隊員の矜持はスローライフには無縁だ、
今は幼女として生きることに全力をつくそう。
◇
「……シーラは家族いないの?」
「ちょっと前までは爺さんと一緒だったけどね、爺さん魔物に殺されちゃって、今は一人だよ」
想像の上を行く重たい返事が返って来て、思わず黙ってしまう、
「ちょっと、ニコラそんな顔しないの、確かに猟師は危険な仕事だけど、毎日お肉が食べられるんだよ、麓の連中は10日に一度くらいしか肉を食べられないんだよ、それもバリバリした干し肉だって」
単純な味付けのスープ、ゴロゴロした肉の塊だけど、子供の歯でも難なく噛み切れる程柔らかい、
「シーラは麓に言った事有るの?」
「うん、あるよ」
「私も行っていいかな?」
「絶対にダメよ!」
甘えた声で頼んで見たが、断固とした声で拒絶された、その後色々やり取りをしたけど、どうやら俺は麓の村の方から逃げて来たのらしい、
本当にそうなのかな、殉職して生まれ変わっただけなのじゃ? だとしたらなぜ赤ん坊ではなくなぜ幼女に?
「私はもうお外に出られないの?」
そんな幼児みたいな事を言ってシーラを困らせる、
「ねぇ、ニコラ退屈なのは分かるけど、お外は危ないの怖い魔物がいっぱいいるのよ、お家でお留守番してくれないかなぁ」
「 まぁ、そう言うなら… 」
いつの間にか14歳の娘にあやされている俺、仕方ないだろう、身体に合わせて精神年齢も下がってきているのだよ。
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