転生公爵令嬢は異世界でパイロットを目指す
アイディンボー
邂逅編
第1話 生まれ変わったら幼い娘
国産ジェット練習機R-4、練習機の4型と意味だが、丸っこい外見からドルフィンと呼ばれていたりもする、
航空自警隊のパイロット候補性がプロペラ機で修練を積んで最初にのるジェット機でもある、あくまでも練習機なので操縦性を重視した設計だが、今はとんでもない暴れ馬状態。
機内の警告灯は不気味に点滅し、警告音が鳴り響いている。
『NIKKY、脱出しろ!』管制塔からの無線が響く。
ラダーはもう効いていない、エルロンだけで、なんとか機体を海の方向を目指す、
普段は素直な飛び方をするジェット練習機が、今はさながらジェットコースター、上下左右に不規則に揺れ動く暴れ馬、
エルロンと左右のエンジン出力だけでなんとか方向を保っている、
“なんとしても海まで飛ばねば!”
一瞬だが、ベビーカーを押している女性が不安な顔をして見上げたのが見えた。
新幹線位の速さで飛んでいるが、動体視力は健在だ。
“今はまだ脱出できない、出来るわけない!”
なんとか安全な場所まで機体を持って行かないと。
ついに機体がバランスを崩し、頭の上に海面が見える“海だ…”
石油ストーブの様な臭いが鼻をつく、
R―4型練習機“ドルフィン“のジュラルミンの機体は漏れだしたJP-4A燃料が引火、着水の瞬間炎に包まれた。
“パイロットになりたい!”
夢は北九州の海に散った。
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昼前から降り出した雨はいつの間にか本降りに、罠師の少女シーラは外套のフードを目深にかぶり、獣道を歩く、
“今日はフェリ鳥が二羽も罠にかかってくれた”
この時期のフェリは脂がのって絶品だ、煮込みの主役には持って来い、それよりも今夜はこんがり焼いて食べよう、パリパリした皮の食感を思い浮かべるだけで唾液が出てきそうだ……
ねずみ色の雨降りの景色、突然浮き上がった肌色、
“子供だ!”
草むらの中に裸の少女が倒れている、まだ10歳にも満たない歳であろう、
恐る恐る触ってみると、まだ呼吸をしている、
魔物も出るこの森の際に全裸の幼女、ミスマッチこの上ないが、シーラの頭の中のパズルはすぐに正解に辿り着いた、
“きっと辛い目に遭って逃げて来たのだろう”
どれくらいの時間雨に打たれていたのか?
14歳の自分が軽々持ち上げられ、工芸品みたいな身体は冷え切っている、
考える暇も無く少女を抱きかかえ大事に外套の中に、
シーラは足早に自宅に向かう。
身体をキレイに拭きベッドに寝かす、髪の毛は夜の闇の様な光を吸い込む漆黒、この国では高貴ない部類の色だ、
顔つきは将来美人になる事が約束されている整った顔、
こんなレベルの高い子は麓の村にはいない、
貴族? いやいや付き人も付けないで貴族様がこんな所にいる訳がない、
“娼館”と言う汚らわしい言葉が頭に浮かぶ、
とにかく今は身体を温めないと、シーラは毛布に入り込み、氷の様に冷たい身体を自身に押し付ける、
自分の体温が奪われていき、次第に二人の体温が均一になっていく、
雨音が響く中二人は一つになっていく。
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目が覚めた、見慣れない天井の部屋に寝かされている事に気が付くまでに時間はかからない、状況判断が速くないとパイロットは務まらない、
とは言え、この状況を正確に把握するのは難しい、
脱出して民間人に保護された? いやそんなはずはない、僚機が位置を把握していたし、すぐに航空救難隊が来るだろう、
自分が女性と同禽していると気が付くまで、もう少し時間がかかった、
“誰だ、彼女は?”
彫の深い欧米系の顔立ちをしている、そして何より、髪の毛がライトブルー
気がつけば緩くウェーブのかかった髪を梳いていた、
女性の髪をすくと言う行為はなぜか癖になる、
「気が付いた?」
女性にしては少し低めの声、
「ここどこ?」
自分の声なのにまるで子供の声みたいに高い音でビックリした、
「安全な場所よ、安心して私が守ってあげるからね」
慈母と言う言葉が頭に浮かんだ。
ご飯を作ってあげるからね、そう言って女性がベッドを降りる、高校生くらいかと思ったがずいぶん大きい、
自分が小さいだけだと気が付くまでそれ程時間はかからなかった、
更に男として大切な物まで無くなっている、
ベッドから上体を起こすと窓ガラスに黒髪の女の子の姿、幼女特有の毛量の多い黒髪と沖合の海みたいな深い青色の瞳、
しばらく考えて写っているのは自分の姿だと分った。
窓の外は漆黒の時間帯、雨音が響いている、
“大陸から高気圧が張り出して来ているのでこの先数日間雨の予報は無い”
と気象隊は言っていた、
「ご飯出来たよ~、起きられる?」
お姉さんの優しい声、
「うん!」
元パイロット候補生の幼女は素直な返事。
◇
森の際に建っている丸木の建物で野育ちのお姉さんと食を共にする幼女、
最後の記憶がR-4練習機の単独飛行だった、頭の上に海が見えたから背面で飛んでいたのだろう、ペイルアウトは不可能な姿勢だ、
“墜落死して第二の人生なのかな”
食事も済んで落ち付くと、ニッコリ微笑みながら少女と言うかお姉さんがが訊ねて来る、
「君名前は言える?」
性別が変わった今、本名を言っても通じそうもない、そもそも欧米系の名前ですらないし、
「…… えっと ……」
「無理に思い出さなくてもいいわよ、君の好きな名前で呼ぶから」
「ニコ …… ニコラで」
「はい、ニコラちゃん」
母親の様な包み込む微笑みのお姉さん、
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