第46話 報連相

 九段会館『農林事業振興総会会場』。

ロビーである。

先生が武智と電話で話している。


 「『ホウレンソウ』は?」

 「は? あッ、今しょうと・・・」

 「言い訳はよしなさい。結論だけ」

 「すいません」


先生は再度力強く、


 「ケツロン!」

 「ハイ。一週間後にケツロンが出ます」

 「なに? ・・・流れは?」

 「悪くはありません。ただ・・・」

 「タダ?」

 「堀田先生の事務所が関わっています」


先生は驚いて、


 「ホッタ!・・・公生党の堀田か?」

 「あ、ハイ」

 「建設(国交)に顔を売っているからな。分かった」

 「何か?」


電話が切れる。


 「もしもし、モシモ・・・? 」


 議員会館中尾事務所。

高木が事務所に来る。


 「おはよう御座いま〜す」


伴は振り向いて、


 「あ、おはようございます」

 「あら、今日は早いですねえ」

 「昨夜(ユウベ)武智さんから、もう少し早く出勤しろって言われたんです」

 「ええ? 武智さんが早く出過ぎですよ」


高木はロッカーにコートを仕舞ながら、


 「武智さん、事務所にいつも六時半には来てるんですよ」


伴は驚いて、


 「ええ! 三鷹からですか?」

 「ええ。いつも仕事の事で頭がイッパイなんですって」


伴が不安そうに、


 「俺、付いて行けるかなあ」


高木は伴の座る机にお茶を持って来て、


 「どうぞ」

 「あ、ありがとうございます」


伴を見て、


 「大丈夫ですよ。あのヒトは特別です。武智さん、群馬の小中学校で皆勤賞だったとよく自慢してますから」

 「へえ~。真面目なんですねえ」

 「マジメと云うか、決めたら突き進むんですって。だから高校も大学も皆勤賞だと言ってます」


伴は鼻からお茶を吹き出し、咳き込む。


 「ダ、大学で皆勤賞なんか有るんですか?」

 「ね〜え。・・・だから、みんな優だったそうですよ。優が好きなんですって。一つでも良が有ると留年したくなるそうです。何しろ小学校では班長・中・高で生徒会長、大学ではゼミで進行係りをやってたそうです」

 「凄い人なんですね〜」

 「凄くは無いみたい。好きなんですって。そう云う事が」

 「やはり政治家に成るつもりなんでしょうね」


電話が鳴る。

高木が受話器を取る。


 「おはようございます。中尾事務所です」

 「おうおうおう、ご苦労さん。伴、居るか?」

 「あ、武智さん。ちょっとお待ち下さい。今、変わります」


高木が受話器を伴に渡す。


 「武智さんからです」


伴が受話器を取り、


 「はい、電話かわりました。おはようございます」

 「うん。電話あったか?」

 「はい、本人からホウレンソウだと」


武智は捨て鉢の笑いで、


 「ハハハ。いつも食ってるよ。それだけか?」

 「早川さんの事が引っ掛かってる様でしたよ」

 「早川? ああ、公生党だからな。そんなの関係ねえよ。おい、俺はこれから防衛施設庁の審議官の所に寄って来る。オメーは施設庁の中沢さんの所へ行って挨拶して来い」

 「ナカザワ?」

 「施設課長だ」

 「ああ。で、何て言うんですか?」

 「バカ、繋(ツナ)ぎだ。挨拶だけで良い。後は俺がヤル。それから、四時から例の件、二人で打ち合わせしよう」

 「あ、はい。靴と背広とクルマでしたっけ」

 「なにッ?」

                          つづく

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