第38話 タヌキ・キツネ・「ムジナ」

 群馬水神村。

山川由紀の実家である。

トメ(由紀の祖母)は中々家の中に入って来ない武智を見て、


 「何やってんだ〜?・・・アンれ、まだ喋ってんのか。蚊に刺されるから早く入れや」


武智はスマホを耳から離して、


 「すんません。弟が家、買ってくれってうるさくて。困ったヤツだ。ハハハハ」


トメは驚いて、


 「イエッ! 家か?・・・まあ、餅を焼いたから食えや」

 「モチを? イヤイヤイヤ、ありがとうございま〜す」


伴の声がスマホから、


 「モシモシ・・・モシモ~・・・」

 「ハイハイハイハイ」

 「誰と話してるんですか?」

 「婆さんだ」


するとスマホの「電池切れ」の警告音が。


 「ピピ・・・」

 「おい、もうダメだ」

 「誰ですか? 安藤さんて」

 「仕切り屋だ」

 「シキリヤ? モシモシ・・・、モシモ」

 「ダメだ」

 「あッ、それから例の後援会長の息子(枝野)さん。高校を卒業出来ないそうです」

 「何ッ?」

 「家に籠城(ロウジョウ)して居るそうです・・・」

 「マジかよ〜・・・」


武智のスマホの電池が切れる。


 応接室の電話が切れる。

伴は受話器を置き、机の上の名刺を取り上げ、独り言を。


 「シキリヤ?・・・」


高木が事務室から盆にお茶を載せて応接室に入って来る。


 「お茶をどうぞ」

 「あ、すいません。高木さん、この安藤さんて誰ですか?」

 「ああ、安藤さんはこの事務所の下請けです」

 「シタウケ?」

 「渉外専門の外郭団体です。何と言いますか、営業? 談合関係の調停役かな? 上手く説明出来ません」

 「ダンゴウってあのゼネコンの?」

 「そう! でも、それだけじゃないですけどね。いろんな所に顔を出しますよ。安藤さんは昔、ここの事務所で第一秘書をしてたんです。頭が良くて。お話を聞くと凄く勉強に成ります」

 「ガイカクダンタイ? 」

 「まあ、政治家の事務所って外にもネットワークが敷いて有るんです。だいたいの情報は此処に集まって来ますよ。詳しい事は武智さんがよく知ってるみたい」


伴は感心して、


 「へ~え、ネットワークですか。早くお会いしたいなあ。しかし、この部屋の関係者ってみんな狼(オオカミ)みたいな人ばかりですねえ」

 「ええ! そんな怖い方は居ませんよ。どっちかと云うと『タヌキとかキツネ、ムジナ(狢)』かな? 皆んな、とっても可愛い方ばっかりです」

 「タヌキとキツネ、ムジナ? 蕎麦屋(ソバヤ)ですね。」 

                          つづく

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