第37話 裏口は浦口氏に
伴は受話器を置き、お茶を一気に飲む。
「アッチー! 何て熱(アチ)ーいんだ。喉が焼けどしそうだ」
高木は呆れた顔で伴を見る。
「焦って飲むからですよ。裏口、上手(ウマ)く行きそうですね」
「浦口さんですよ。『ウラグチ』なんて呼び捨てにしたらバチが当たります」
「え? ああ」
高木は話題を変える。
「私大って定員の二倍以上は補欠学生を取ってますよね。例えば学籍番号。あれってとっても変ですよ。だから私大の場合、別に学生の能力の問題じゃないんじゃないですか? 一に経営、二に儲け、三・四が無くって五に補助金ですよ」
伴は高木を見て、
「高木さん家(チ)も政治一家ですよね」
「そうですよ。何か?」
「いや、僕この部屋に居ると世の中、百八十度、違って見えて来るんです」
「そうですか? うちの父は、私の小さい頃から家族によく話してましたよ。世の中は「裏と表」が有るって」
「何ですか? それ」
「裏の明るさを知れば表が暗く見える。表の暗さを知った人は裏の明るさを見たがるんですって」
伴は眼を丸くして、
「イヤー、何から何まで本当に勉強に成ります。僕、人間が変わりそうです」
電話が鳴る。
高木が受話器を取る。
「お待たせしました。衆議院中尾事務所でご座います」
武智が携帯電話で「山川トメ」の玄関先から議員会館事務所に電話をしている。
「モシモ~シ・・・モシモ・・・」
武智はAUの携帯電話を睨み、独り言を言っている。
「こんな田舎からAUって通じんだろうか。モシモ~・・・オ!? 通じた!」
携帯電話から高木の声が、
「あ、すいません。この電話、混線してるみたいです。もしもし、どちら様でしょうか?」
「オレだ」
「あ! 武智さん。お疲れさまです」
「うん? うん。いや~、イヤイヤ、えれぇ~山ん中だよ。ダメかと思ったよ」
「は?」
「いや、このAUだよ」
「AU? ああ、武智さん、AUですか?」
「うん。何かある?」
「はい。今の所、有りません。あ、本人が電話を入れろって」
「本人が?」
武智はイブッタ化に、
「分ったよ」
「今はどちらに居ります?」
「婆さんの家だ。おい、バッテリーが切れそうだ。伴に変わってくれ」
「はい」
伴、応接室の書類棚から陳情フェイルを取り出し立ち読みしている。
「進学で悩む。自殺を試みた息子。息子は五浪。医学部。なんとか・・・『聖山病院』か。・・・セイザン?」
事務所から高木の声が、
「伴さーん、一番に武智さんからです」
「え! あ、すいません」
伴が代議士の机上の電話の受話器を取る。
ボタンを押して、
「代わりました。ご苦労様です」
「何やってんだ~」
「え? 今、浦口さんのウラグチの件で陳情ファイルを見て・・・」
「ンなの後で良い。株が下がってるぞ」
「カブ?」
「早川は来なかったか?」
「来ません」
「そうか。来週の月曜日、アメリカからイエレン財務長官が総理ん所に来る。で、その晩、官邸で経産大臣以下皆んな集めて監視対象からはずした事で何かを喋るらしい。翌日、自動車株と精密機器の株が上がるぞ。浦口に伝えとけ」
伴は驚いて、
「ええ!」
「良いから、早く連絡しろ。五、六人まとめて入れるから」
伴は感心して、
「武智さんて凄いヒトですねえ」
「バカ野郎、この位の事が出来なくちゃ『金庫番』になれねえよ」
「分かりました。しかし、この部屋じゃ、株の上がり下がりまで事前に分かっちゃうんですね」
「ハハハ、ああ見えてもアレは一応財務副大臣だからな。おい! この事は、口外無用! 誰にも言うなよ。俺達どころか、オヤジの手も後ろに回っちまうからな」
「言いませんよ。私は株なんかまったく興味が有りませんから」
「バカ野郎! 株と為替ぐらい勉強しろ。政治とは株と為替とパー券で成り立ってんだ!」
「そう云うもんですか」
「そう云うモンよ」
高木が応接室に入って来て、電話中の伴の机上に「一枚」の名刺を置く。
高木はメモ用紙を名刺の隣に置き、応接室から出て行く。
伴がメモ用紙を見て、
「ア、それから「N&C」の安藤(安藤 登)さんと云う方が武智さんを訪ねて来たそうです」
武智は驚いて、
「え! 安藤さんが?」
つづく
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