第36話 世話の焼ける弟

 群馬の『ド田舎(山の中)選挙区』。

武智が群馬水神村の山道を山川由紀の婆さん、山川(山川トメ)を乗せて軽トラ(地元用選挙カー)を運転している。


携帯電話が鳴る。

伴からの電話である。

武智は携帯を懐から取り出す。


 「何だ。運転中だ、電話するな」

 「あ、すいません。あの例の裏口の件です」

 「あとにしろ・・・」


伴はその言葉を無視して、


 「バッチリです」

 「バカ野郎! オマエの話を聞いてると事故っちゃうよ。ちょっと待て。今、車停めるから」


武智は路肩に車を停める。

後ろの座席に座ってるトメを見て、


 「トメさん、わりいねえ。三分待っててや」

 「良いよ。どうせ、急ぐ旅(タビ)でもあんめえ」


武智はまた携帯電話を耳に、


 「もしもし。伴、オマエ、親父の口癖、知ってるだろう。5W1Hだぞ!」

 「ア、すいません。昨日、浦口さんの所に行って来ました」

 「結論!」

 「 OKでした」

 「そんな事、あたりめえじゃねえか。切るぞ」

 「いや、一人で良いんですよね」

 「ナニッ?」

 「あの〜、浦口さんが一人で良いのかと」

 「・・・」

 「もしもし、モシモシ、武智さん?」

 「聞こえてるよお~。おい、応接の棚の陳情ファイルを広げてみろ。息子の進学で悩んでいる親が居るだろう」

 「あ、そうか、分かりました。また後で電話します」

 「いいよ。電話なんてしなくて」


武智が携帯を切る。

トメが後部座席から武智に赤飯の握り飯(ニギリメシ)を差し出し、


 「忙しいねえ~。これ、食うか?」


武智は驚いて、


 「あ、イヤ~、いやいやいや、こりゃーすいません。旨そうだ」

 「誰と喋(シャベ)ってたんだい?」

 「世話の焼ける弟ですよ」

 「そ~けえー」


武智は握り飯を頬張る。

                  

     つづく

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