第34話 カバン持ちが『お邪魔します』

 文教振興会事務所。

浦口はリモコンでテレビのボリュームを落としながら受話器を持っている。

武智の声が受話器から漏れる。


 「じゃあ、改(アラタ)めてご挨拶に」


浦口が、


 「ゴアイサツですか。ハハハ」


武智、


 「まあ、それはそれとして、ちょっと」


浦口、


 「チョット? どうしました」


武智、


 「ちょっと、理事長から大所高所(タイショコウショ)からの『ご指導』を仰(アオ)ごうと思いまして」


浦口、


 「アタシが出来る事なら何なりと」


武智、


 「いや~ッ! イヤイヤ。あのね・・・、ウチの若いモンを行かせますから話を聞いてやって下さい」


浦口、


 「何だろう。楽しみにして良いのかしら?」


武智、


 「そりゃー、アンタ~、甘~いモンですから」


浦口、


 「ええ! 甘いモノ? ただ、今、ドクターストップなんですよ~」


武智、


 「甘さ控(ヒカ)えめですから大丈夫です」


浦口、


 「うれしい! お待ちしてま~す」


 事務所では伴がカップ麺を置いてジッと聞いている。

武智の締(シ)めの言葉。


 「じゃ、後(ノチ)ほど三時頃に、伴 憲護と云う『カバン持ち』がお邪魔します」

 「カバン持ちですか。お待ちしてま~す」


武智が受話器を置く。

伴は呆れた顔で武智を見ている。

武智が、


 「どうした?」

 「武智さん、本当に頭がキレますね。詐欺師みたいだ」

 「何? オマエ、俺をバカにしているんだろう」

 「とんでもないです。僕、武智さんみたいなキレる方って今まで見た事ありません。いやー、本当に勉強に成ります」


武智は伴の顔を見て、


 「?・・・」


 高木が台車に『湯呑』を載せて購買から戻って来る。

伴がソレを見て、


 「ご苦労さまです」

 「けっこう、この湯呑って売れてますねえ」


武智は振り向いて、


 「何処も大変なんだよ」

 「あ、武智さんにお弁当・・・はい」

 「おお、ワリー、ワリー」


武智は伴を見て、


 「おい、早く行って来いや」


伴、


 「いや、まだメシ食ってないです」


 「何?」


     つづく

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