第24話 ゼネコンへ

 青山通りの朝。

ビル街の一角にタクシーが停まる。

武智と伴がタクシーから降りて来る。

目の前に立ち誇る大きなビル。

玄関の周りは良く手入れされた植栽が植え込まれている。

玄関脇には大理石に金色の文字で『仲間組(ナカマグミ)』と掘り込まれた社名が目を引く。

ここは日本屈指の『大手土建会社(ゼネコン)』の本社である。


 武智が走って階段を上がって行く。

黒いカバンを小脇に抱えた男がその後を追う。

第二秘書の伴である。

武智が受付で女性(受付嬢)と話しをしている。

武智に追いついた伴が、


 「すいません」


情けない伴を一瞥する武智。

受付嬢がフロアーに出て来る。


 「お待たせしました。ご案内します」


武智は慇懃(インギン)に、


 「いや~、イヤイヤイヤ、お手数、掛けまあ〜す」


武智と伴は受付嬢に案内されてエレベーターホールに向かう。

受付嬢がエレベーターのボタンを押す。

後ろで待つ武智と伴。

受付嬢の得も言われぬ「芳しい香り」が漂う。

武智は伴に耳打ちをする。


 「何にも喋んなよ」


伴は小声で、


 「はい」


武智は伴を見てニヤッと笑う。

伴はポケットからそっと『デュポンのライター』を取り出し武智に見せる。

武智はその高価なライターを見て驚く。

伴の手からそれを奪い取る武智。


 「・・・」


武智はライターを自分のポケットに仕舞う。


 「あッ!」


受付嬢は後ろが騒がしいので『清々(スガスガ)しい笑顔』で振り向く。

武智と伴は何も無かったように咳払いをする。

一階に降りて来たエレベーター。

ドアーが開く。

受付嬢がドアーを押さえ、


 「どうぞ」


武智が、


 「あ、恐縮(キヨウシユク)です」


武智は伴にそっとライターを渡しながらエレベーターに乗り込む。

武智は伴の耳元に小声で、


 「靴ぐらい磨け!」


伴は自分の足元を見て、


 「あッ!」


 エレベーターは十五階で停まる。

エレベターのドアーが開く。

するとそこに「上席担当の女性秘書』が武智と伴を出迎える。

受付嬢は担当秘書に引き継ぐ。


 「よろしくお願いします」


後を継いだ担当秘書が、


 「お待ちしておりました。ご案内します」


廊下一面に敷かれた、紫色のカーペット。

伴は担当の「美人秘書」の後姿に目が点に。

担当秘書は奥から二番目の部屋に二人を案内する。

ドアーには『社長応接室』の札が挿してある。

白魚のような手で拳(コブシ)を作り軽くドアーをノックする担当秘書。

返事を待たずにドアーを開ける。


 「どうぞ」


広い応接間には超豪華な応接セットが。

長いサイドボードの上には、備前焼きの花壺に季節の花が一輪、室内の派手さを押さえている。


 「どうぞお掛け下さい」


武智が応接室の中を見回し慇懃に、


 「イヤ〜、イヤイヤ、豪華なお部屋だ~」


武智と伴はソファーに座る。

担当秘書はニッコリ笑い、軽く会釈して部屋を出て行く。

                          つづく

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