第3話 池の妖精?
今、彼氏の
「じゃあ、木之子ちゃん。またね」
公園の入り口で軽く手を振る木見に、木之子は不思議な顔で尋ねる。まだお開きには早い時間と感じたからだ。
「木見くんは、これからどうするの?」
腰にぶら下げたポシェットの中から、リップクリームを取り出して、塗り直しながらのことだ。
「ああ、これからイケノヨウセイさんの顔でも拝みに行こうかと思って」と笑って言う。
「えっ!」
さあ、彼女の空想技術が炸裂する。あの遠方に見える池の岸辺に、彼は自分と別れてから一人で妖精と会いに行くと考える。
『木見くん、ずるい。そんな妖精さんとお友達なら、私にも紹介してくれてもいいのに。自分だけの秘密にして、妖精さんを独り占めするのね』
彼女の考えは固まった。
「木見くん!」
「はい」
改まる木之子に、木見は不思議そうに返事する。
「私も妖精さんと会いたい。私も一緒にいちゃだめ?」
真剣な面持ちに、断る理由もなく、木見は、
「いいけど? 普通の人だよ」と不思議そうに承諾した。
「やったー!」という台詞とは裏腹に、『自分だけ妖精さんと会おうなんて、そうは問屋が卸さないわ』と思っていた。
木之子はわくわくしながら、木見の後について、池の畔にやってきた。
「この岸辺で待ち合わせなんだ」
木之子は、池の中から金の斧と銀の斧を持って現れる美しい妖精さんをイメージしている。
岸辺の右側から、「おうす! 木見。げんきにしちょっか!」と声。
高い襟の学ラン、男臭漂う、応援団の衣装を着た無精ひげが走り寄ってくる。
「ヨウセイさん」と木見。
「押忍」
「実は、僕の彼女がヨウセイさんに会いたい、っていうので、お邪魔でなければ、紹介だけでもさせていただけますか?」
その無精ひげはニヤリと笑うと、
「ご婦人に面会を求められて、お断りをするなど、男が廃る。かまわないさ」と木之子の方をみた。
「じゃあ」と木見は、
「木之子ちゃん。この人は僕の大学の先輩で、
そのイメージとかけ離れたヨウセイさんに木之子はその場にうなだれたのは言うまでもない。そしてその無精ひげのヨウセイさんが霞んで、意識が遠ざかっていくのだった。
了
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