第15話 おばちゃんと今までと息子の大学進学騒動

 DVの激しい夫は特に金銭DVが酷く、かなりの報酬を得ているのにも関わらず、生活費から何から私達はかなり苦しい生活を強いられていました。

 それがずっとで義実家からもそれが当たり前と言われていたため、それが家庭内DVであると気づいた時は手遅れでした。


 離婚も何度か悩みましたが、あんな夫でも子供達の父親であること、離婚してもストーカーの様に嫌がらせが続く気がしたこと、自分に経済力がない事が大きなネックになり…子供達を連れての離婚を断念していました。 


 長女が大学進学を希望した時、夫達は「女に高等学問は必要ない」と、何時の時代の価値観なのか分からない謎の論理で大反対しました。学力が足りないなら致し方ないが、十分に進学の可能性のある学力での進学希望でした。

 普通の親ならその希望をできる範囲でかなえさせてあげたいのが親心ではにのでしょうか?

 ですが、頑なに夫と義両親達は反対し、娘を罵倒しました。みかね擁護する私に、夫は自分で塾代等を稼いでみろといったのです。


 そこから、今に至る私の社会復帰奮闘が始まりました。


 20年間近く世間と接していなかった私が、正社員的な仕事につけるわけもなく、スーパーのパートからスタートし、寝る間を惜しんで現代事務スキルを学びなんとか娘の塾代等を捻出して、無事に娘は某有名私立大学に進学しました。

 本当に苦しい3年間でした。


 が、某国立大学や国立大学を卒業している夫、義父に義弟達は、娘の私立大学を鼻で笑い捨てました。国立大学以外の大学など大学でなく、通う価値などない。お金をどぶに捨てるような物でムダだと。


 怒りに震えましたが、娘はもうそういう戯言には耳を貸さず、私に感謝の涙で何度も礼を言い、学費は夫が体裁から支払う事を承諾し安堵しましたが、それ以外の代諾でかかる費用は娘がバイトを掛け持ちして捻出しました。


 自宅から通学できる分、自分はついているしラッキーだと笑いながら。塾の講師、試験監督、飲食店でのバイト等等。勉強の合間に本当に大変だったと思います。


 本来であれば、私のパート代から捻出してもよかったのですが、娘の大学進学と同時に、今度は息子の大学受験がスタート。だけど、あんなに自慢し可愛がっていた息子にですら、夫は塾代や模試代の支払いを拒否したのです。


 理由は、自分達は塾に通わず大学に進学できたからです。義父や夫の時代とは今の試験制度は全く違いますし、勉強量も違います。塾でも進学した高校の保護者説明会(今の時代は夫婦出席必須です)でも説明がありましたのに、自分達より低い偏差値の大学出身者の話など聞く耳など持ちませんでした。


 息子の行きたい大学の塾代は、娘の進学した私立大の塾代よりも高額でした。無理です。パート代では捻出できません。絶望しながらもなんとかすると啖呵を切った私に、救いの手を差し出したのは実父と今の勤務先の社長でした。


 私はなんとか収入の全額を息子の塾代、模試代、夏季合宿、冬合宿、高校での学費以外の費用に充てました。その為、娘は自力で大学費以外を捻出しなければなりませんでしたが、不平不満は一切言いませんでした…。ありがたいです。


 そして女性特有の虐めが横行するパート先から、夫達と同じ固定観念のモラハラ、パワハラをする支店長のいる会社で必死になって働きました。

 嫌な事も多かったですが(主に支店長がらみ)比較的楽しい会社生活でもあり、恵まれていたと感謝しながら…気づけば息子は高校2年生後半、進学先を決める年になっていました。


 もちろん夫を含め、全員が夫達の敷いたレール通りに、息子は夫達の母校に進学をするのだと思っていました。


 ですが、息子は義実家で開かれた義父の誕生日の席で爆弾を落としたのです。


「お父さん、おじいちゃんおばあちゃん、それにおじさん達。お母さんとお姉ちゃんにもだけど…実はみんなに聞いてもらいたいことがある。

 僕は来年度、お父さん達の母校は受けない。京都の大学で学びたいことを見つけたんだ。僕は、京都の大学を受験します」


 場が凍り付いたと言うのはこういう事を言うのだと思った。

 瞬間、私は夫を見て、瞬間息子を抱き寄せるようにして身を伏せた。後ろの壁に、酒器が粉々に砕けて散った。


 そこからは私と娘以外の者達からの凄まじい罵詈雑言の嵐だった。

 お決まりのありがたい上から目線の忠告と言う名のの、徹底した人格否定の誹謗中傷。息子の意見などは聞く耳がない。降り注ぐ罵詈雑言の中でも息子は真っすぐに夫を見つめた。


 たじろいたのは夫だった。

 すかさず息子は淡々と京都の大学に行く理由と、そして夫達の母校に行かない理由を説明しだした。


 お父さんとおじいさんが自慢する母校には行きたくはない。

 理由はただ一つ。お父さん達と群れる他の学友やお父さんやお爺さんのような、T大以外の人間を卑しめ貶めるような人間になりたくないからだ。

 だがここにいれば、お父さんは自分一人で稼いでいる事を理由に、自分の付属物として虐げ進路を強要する事をやめないだろう。

 あなたの言う通りには生きたくない。

 お母さんを、家族を虐げて楽しむような人間にはなりたくない!


 進学校である高校の先輩達、先生達からアドバイスを受けた。

 今まで貯めていた貯金、お母さんの実家のおじいちゃんおばあちゃんには自分の気持ちを話し、出世払いで返す算段で融資もしてもらう予定も取り付けた。おじいちゃんおばあちゃんは、何も言わず利息無し返済期限なしで融資してくれると言ってくれた。

 バイトもすればなんとかなる。

 

 ただ…またお母さんに色々と頼るけど…いいかな?


 と、懇願する目を向ける。


 確かに最近はよくK大の話をして、向こうで一人暮らしできるかどうか相談を受けてはいた。夫が出していた大学進学条件はT大かそれに準ずる国立大学なので、もちろんK大であってもいいはずだ。


 ただ、生活費とかアパート代とか余分にかかるのが痛いのは事実。

 でもそういうご家庭は沢山あるのだし、息子が頑張りたいというのなら、応援できる力があるのなら応援したい。


 それが親だろう。

 だから反対はしなかった。


 私は何時の間に逞しく成長した息子を熱い目で見つめて目頭を拭いて強く頷いた。それに息子も嬉しそうに笑うと力強く頷いた。


 既に息子の意志は固かった。

 

 突然、夫が息子を殴り倒し、「これは立派な家庭内暴力だ!」と息子が激高し、私と娘で悲鳴を上げて夫を停めに入り…。


 「受験代は払わない!学費も払わない」と叫ぶ夫に、「お父さんはそればっかりだよな!」と息子が叫ぶ。

 修羅場だった。


 誕生会をめちゃくちゃにしたと義両親に義兄弟とその家族はカンカンになり怒り、私達を追い出した。


 家に戻っても毎日のように大喧嘩の日々を送る。修羅場だった。



 だが、結論として、息子はK大を受けることになった。


 夫は全て無視の為、私が息子と一緒に京都に行き説明会に参加し、不動産屋と合格した時の為のアパート確保で下見に回る。


 学生が住める場所は金額を厭わなければ幾らでもあるけど、ある程度の範囲になると争奪戦になるので、こういうのは合格してから動いては遅いので今のうち押さえておくものなんだそうだ。


 もちろん、不合格の場合は不要になるし、かなりな金額の前金が必要になり出費はかさむが私はもう揺るがなかった。


 夫達の言う通り、確かにT大に通えば、自宅から楽に通えるのでこういう出費はいらない。息子も生活費等を賄うバイトをしなくて済むし、そのバイト代で好きな事ができるはずだ。

 だが、それを差し引いても息子は夫達と同じ大学に行きたくないと決意は揺るがない。

 

 息子は観光がてら来た「哲学の道」沿いのカフェにで、さらさら流れる川を見ながら淡々と言う。


 お父さんの周りはおんなじ考えの人間ばかりで反吐が出ると。

 もちろん、遠縁の同じT大を出たお母さんのおじさんは違うし尊敬できるけど‥。でもお父さんの周りはお父さんみたいなのばかりで…同じ血が流れる自分もいつかはああなってしまい、自分の家族をあんな風に扱う人間になるんのではないかと…本当に怖かったのだと息子は言う。


 働くのに必死で、そういう悩みまで気づかなかった自分を反省した。後悔した。


 でも息子は晴れ晴れとした顔をしていた。あの家で確かに嫌な事は沢山あったけど、それで気づく事が出来た事も多い。何より、ただ黙ってお父さんのサンドバックになっていたお母さんが…お姉ちゃんの受験でお父さんに真向に歯向かった姿を見た時感動した。直ぐに動いて、泣き言も言わずにただ有言実行した背中を見ていて、自分もああならないといけないと気づいたんだ。

 だから、不安は沢山あるけど、こうして先に進ませてくれたお母さんには感謝しているんだ、と、気恥ずかしそうに笑う。

 尤もまずは合格が先だけどねと、受験の不安も多々あるのだろうに…晴れ晴れとした顔をしていた。


 私は胸の奥から熱いものがこみ上げて、震える手で目頭を何度も何度もふいた。あの小さな息子が、いつの間にか私も夫も超えて大きな人間に育っていてくれた事が嬉しくて…。



 それから、息子は娘の通う私立大学を滑り止めで受験し(娘は滑り止めえ?と大笑いしていた)、返済義務のない支給型奨学金付きで合格した。

 塾の先生の話では、それはかなり凄い事で、かなりの好成績だったのだろうと興奮していた。


 国立大ではないが、夫の呪縛からも逃れらるし、娘の通う大学は私立大でもトップクラスなのだから、そこでいいんじゃないと言った。

 

 だが、息子は首を振る。


 そこに通えばここに住むことになる。国立大(T大)以外は大学と認めないお父さんは、絶対執拗に毎日私立大等と罵倒してくる。自分の事もお母さんの事も。関係ないお姉ちゃんの事も。


 それは絶対耐えられない。


 とにかく東京を、父親のそばを離れたいと、頑なにK大を受けると言った。


 こういう頑ななところは夫に似てるな、と、私は苦笑したが了承した。


 だが、前期は落ちた。


 夫は嘲り散々なじる。息子のメンタルなど考えもしないのだ。

 なんて人だ。


 高校の卒業式の時でも息子の大学は決まっていなかった。


 その頃には息子はげっそり痩せ、ごめんなさいと頭を下げて、一浪したい、お母さん願いしますと土下座した。


 胸がつまった。


 心配するな、予備校代は出すからと背中を叩く。


 ただ、夫のいう事を聞かずに落ちた息子を、夫はあの支店長のように執拗になじり続けるだろう。ここに住んでいては息子のメンタルは持たないかもしれない。

 実実家と話し合い、遠いが実家で両親と住んでそこから通わせるのがいいだろうと言う話になった。


 3月末に、息子の合格がギリギリ決まった。


 私達親子3人は抱き合い号泣したが、泣いている暇はなかった。


 慌ただしく息子の旅立ちの準備をし、桜が舞い散る頃に京都に向かった。

 夫は最初から最後まで無視を貫いた。


 そして…息子は新天地へ旅立って行った。

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