第4話 おばちゃん新入社員になる


 初対面のクソジジイに自己紹介もなく、いきなり履歴書破かれて、元職業と夫の職業に罵詈雑言吐かれて、帰れ!と言われたので、帰ろうとドアに手を掛けたら、いきなりバーン!と開いた。


 そこには最初に出迎えてくれた女性が、真っ青な顔で何かのファイルを握りしめて立っていた。


「〇支店長!!ダメです!〇さんを返してはいけません!!」


「うるさい!△!こいつはとんでもない礼儀知らずの女なんだ!!ここで働かすわけにはい行かない!!」


「でもダメです!!社長命令で、もう契約書も用意されていて、サインをしていただいたら3時までに社長にPDFで送らないといけないんです!!」


 ばっ!と、彼女は書類を私に差し出す。


 ばっ!とクソジジイ支店長はその契約書なる物を奪い取り、目を通すと、ゆでだこの様に真っ赤になった。


 そして、ばしん!!とテーブルにその契約書を叩きつけ、


「好きにすればいい!」


 と、捨て台詞残して会議室を出て行った。バーン!!と、壁がビリビリするくらいの凄い音と立てて、恐らく支店長室のドアが閉められた。


 事務室からは、ハラハラした顔の社員に人達がこちらを見ている。

 いやはや凄い。


「あの?大丈夫なんですか?私はあの方の言う通りに帰りますよ?」

「ダメです!!座ってください!3時までにこれを送らないと、私が怒られます!!」


 壁の時計をみると、あと15分で3時だ。すると前後のやり取り差し引くと、30分はゆうにあの罵詈雑言を聞かされていたのだ。

 なんたる時間の無駄!!


「でも、あの方は納得していないようですよ?もう一度確認してからの方が」

「いいんです!支店長はいつもあんな感じなんです!

 今日の話は本当は先週に来ていたのに、不愉快だと確認していなかったんです!

 なのに、〇さんが来る数分前に社長から念押し電話が来て、慌てて履歴書を印刷したりしたんですよ!あり得ない!」


「はあ」


「本当なら、支店長の方から〇さんにメールをするよう指示があったのにしていなくて、それを社長から怒られて、それで機嫌が悪くなり、〇さんに八つ当たりしたんだと思います。本当にすみません!」


「うーん…でも行き違いがあるならもう一度確認した方が」

「サインして貰わないと、今度は私が怒られます!!」


 仕事内容とか条件とか説明もなく契約しろとか…大丈夫なのか?


 時間がないと涙目の彼女。

 父の紹介。

 実は社長も両親と一緒に何回かあった事のある人ではある。

 時間がないと涙目の彼女。


 はあ、と、嘆息して急いで契約書に目を通す。大体事前に聞いていた通りだ。仕事内容は事務全般と社員教育。


 社員教育?

 何を社員教育すればいいの?聞いているのは電話応対とかだけだけど?


「あと5分です!」


 急かす彼女が万年筆を差し出して驚いた。今どき重役でもない限り、一般社員のサイン等そこら辺に転がっているボールペンを無造作に出されるか、無いので自前のをカバンから出してすることが多かったので驚いた。


 ささささ!と、彼女の指示の部分にサインをしていく。

 契約書を持ち、バタバタと部屋を出てコピー機に急ぐ彼女。なんかもたもたしている。

 傍に行き、ここを押してこうしてと説明してあげる。会社のコピー機なんて大体どこも操作は同じだからだ。


 彼女は自分のデスクに行き、急いでメールを作成し送信した。丁度3時ぴったりだた。


 途端に支店長室の電話が鳴る。

 何か声が聞こえ、そしてバン!!と、ドアが開く。

 ギロリと彼女の方を睨んで「お茶!!」と叫ぶ。

 彼女が「はい!」と叫んで衝立の向こうに消えた。


「おばさん!こっちにこい!説明する!!」


 いきなりおばさんよばわりだ。


 でも、今までしてきたバイトやパートでは、よくある話だったので、驚きはしない。「おいババア」とか「おばさんバイト!」とかよく言われた。


 社長から契約完了だと連絡が来たから、仕方ないから来月からここに出社しろと尊大な態度で言う。雇ってやるんだから俺様に感謝しろと言わんばかりの態度だ。


 ドアがノックされて、震える手で彼女がお盆に載せたお茶を運んできた。お盆にお茶がこぼれている。絶対このクソジジイ支店長に何か言われる。


「あとは私がしますからいいですよ」


 と、ニコリと笑いお盆を受け取り、一緒に乗っているふきんでささっとこぼれたお茶を拭き、零れていない方の茶たくのお茶をクソジジイに出す。


「一応礼儀作法はあるんだな」


 あなたには言われたくはありません。と、言う言葉をニコリと微笑んで呑み込んで、私は彼の前に座り、くだらない彼の過去自慢の話を延々と聞くのが、最初の仕事となった。

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