第2話 おばちゃん人材登録に登録する
娘の塾代捻出の為に人材登録に登録した。
だが、世の中そんなに甘いものではない。ろくなスキルも資格もない20年近く社会で働いていない女の仕事探しなど、職種は限定されていた。
求人案内が来て幾つか即応募してみたが、殆ど足元をみたものばかり。交通費だの謎の諸経費を引かれたら、手取りは数万円。しかも保証はない。
屋内、事務、デパート売り子などの一見楽そうで高収入な仕事をうたう募集は殆ど釣りで、気づけば同じ仕事でも手取りや保証がガクンと減り、しまいには屋外の過酷な長時間労働を勧められる。
家事に育児に夫の世話に、屋外の長時間労働は流石に無理。絶対に体を壊し倒れるのが目に見えている。
その場合、当然夫の手助けはない。老いた隣県に住む実親に来てもらう訳にもいかないだろうし、夫は実実家の者が家に入るのを嫌うのでその時点で不可能。
すると負担は子供達に向かう。
寝込む私。学業、家事、受験勉強をする娘に全負担が行くのが目に見えている。理由は娘が「女」だから。息子も手伝うだろうが、夫は絶対にそれを妨害する。
理由は息子が「男」であり、男子厨房に入るべからずだから。
いつの時代の観念なんだろう。
ただただ夫とその義実家の時代錯誤の昭和以前の考えに溜息しか出ない。
色々考え、派遣会社の過酷な労働を断ると、今度はその派遣会社から罵詈雑言の電話とメールが届く。
十何年も働いていないばばあが何を偉そうにとか、贅沢な事を言うな、金が欲しいなら黙って言う通りに働け!この仕事をしないのなら、ばばあには体を売るしかないぞとか…本当にドラマでしか聞いたことないような言葉で嘲り罵倒してくる。
心が折れそうになった。
たまたま、別の小さな人材派遣会社から、
「どれくらいのスキルがあるかチェックをしてみませんか?」
と、打診をしてくれて、確かに今の自分が現代社会が要求する事務スキルがどのレベルかを認識していなことに気付く。
働く事ばかりに頭が行って、足元をみていなかった。
聞いたら近くの事務所だったのでお願いをした。
パソコンの前に座ると、自動的にテストが始まる。
最初は基礎的な社会常識の問題。これは問題なくクリア。昔も今も社会常識はあまり変わらない。そこのモラハラ、パワハラの認識や現代的な雇用意識が入るだけ。
社会構造も夫と共に毎日深夜のビジネス番組を見せらていたのがよかったらしく、知識的には問題はなかった。
だが、そのほかのエクセル、パワーポイント等の操作のスキル、スピードのレベルが惨憺たるものだった。
まるでゲームオーバーとなった画面を見て愕然とした。
実はパソコン関連は、実実家家族が新し物好き、ゲーム好きな事から、パソコンに最新ゲームと慣れ親しんでおり、その関係の友達も多く、近隣の奥様達よりははるかに使いこなせている自負があったからだ。
要は全然素人の域をでていなかった。
井の中の蛙だったのだ。
愕然とする私に、派遣会社の方は親切にもアドバイスをしてくれた。愕然とするという事は自分の社会とのギャップを認識できているから、これから勉強すれば大丈夫ですよと。
スキルをつけた方がいいと、無料のスキルアップ講座を勧めてくれた。
そうだ。やはり何かしらのスキルを磨かないとだめだ。
即勤務できる近隣のパートの仕事をこなし月々の塾代を捻出し、人材派遣会社やYouTubee等の無料講座に、図書館で借りて来た本等で、エクセル、パワーポイント等の基本から様々な技術を習んでいった。
子供達も一緒になって学んだ。
実実家の親や弟達と一緒にパソコン関連やゲーム機器に慣れ親しんでいたので、私より覚えるのが早く、先に学んでもっと簡単に要点を教えてくれるようになった。
塾代はパート代でなんとか捻出できたが、夫達の言動をみていると、まだまだ不安要素がある。なので何を言われても大丈夫なように、もう少し貯めておきたいとおもった。
小さい頃から貯めていた学資保険で入学代等は大丈夫だが、他にかかる雑費も同額にかかると子育て先輩の友達が教えてくれたからだ。
その後も職歴がないので、人材登録からくるのはやはり肉体労働が主だ。世の中経験。職歴が物を言うのだと痛切に感じた。
郵便局の年末パート。隙間バイトで居酒屋の皿洗いやホールスタッフ、配送業者の受け付け等等。隙間時間を見つけては、できるものはなんでもできる範囲でして、コツコツと貯金をした。
悔しいが夫の言う通り、働ける範囲は限りがあった。
しかも夫はパートの仕事は仕事と認めず、日々それを揶揄するばかりで、日々の手伝いをすることは皆無だった。
子供達が私の働き様に心配をしだし、黙っていても家事を分担し率先してしてくれるようになった。ありがたい。
子供達はずっと貯めていたお小遣いやお年玉の貯金を崩すして、受験代に当てると言ったが止めさせた。これは親の務めだから心配するなと娘の背中を叩いた。
だが、3年生の時の集中講座、夏期講座、受験代、入学費等も夫は支払いを拒否した。
愕然としたが、予測はしていた。だから余分な貯金をしていたのだ。
何故夫がそこまでしてわが子の進学を邪魔するのか理解できなかった。
学力的に無理ならわかる。だが合格圏内にいるのなら親としては応援できるのなら、応援すべきではないのか?
確かに夫が働いたお金だが、何故そこまで頑なに支払いを渋るのか理解できなかった。
何故なら義両親や義兄弟のお祝いやなにやにはお金を惜しまず大判振る舞いをするから、お金がないわけでなはい。しかもその額に唖然とするばかりの額をかけるのにだ。
理解不能だが、ここで負けてはダメだ。
余剰に貯めてい貯金と自分の貯金を切り崩して娘のラストスパートに当てた。
娘も事態を認識していたので、受験大学数を最小限にした。本命と次の本命のみ。なぜなら受験代だけでもバカにならないからだ。
高校の先生も塾の先生も滑り止めと受けること、もう少し複数校を受けるのを勧めたが、そんな余裕はないと娘は拒否した。
私もパートにパートを重ね、家事に夫の世話も疎かにはできないので、寝る間を惜しんで夫に文句を言われないようにした。
気づいたら鏡に映るのは近隣の奥様達とは異質なやつれた女がいたが、そんなことに構っている暇はなかった。
近隣の奥様達はエステに習い事に、高級ホテルやレストランでのランチにと、相変わらず煌びやかに生活している。
この差はなんなんだろうと思わない事はない。
夫の収入は殆ど同じはずなのに…この差はなんなんなんだろうと…。
やつれていく私を夫は当然卑下してせせら笑う。
最初の浮気から娘の大学受験の間に、最低でも3回は夫は浮気をした。
だが反省も何もすることはなかった。浮気は男の甲斐性であると、夫も義両親達も浮気をさせる私が悪いと責め立てる。
バカバカしい。
問題さえ起こさなければどうでもいいと、無視した。
そして、春。
晴れて娘は大学に進学できた。誇らしげに桜舞う大学の門の前で笑う娘の姿に涙が出た。
次は息子の大学進学だ!
だが、夫は息子に言った。
「大学は私とお爺様の出身大学であるT大かそれに準ずる国立大のみ。
それ以外は学費も何も出さない。
私達は塾などに頼らず合格しているので、なので当然塾代は出さない。
模試も不要だ。する必要はない」
これには本当に愕然とした。
あんなに可愛がっていた息子にまで、訳の分からない論理を押し付け将来の芽を潰そうと言うのか?!
何故!?
受験判断材料となる模試代まで払わないとは…単なる嫌がらせにしか聞こえない。
だが息子も予測してたらしく、は淡々とその場で計算し、今までの小遣い貯金からある程度賄える、ただ…塾代はお母さんにお願いしてもいいかな?という。
懇願の目で。
私は力強く頷いたが、夫はそんな事できるはずもないと嘲るだけだった。悔しいが、内心は青くなっていた。
息子の目指す国立大コースは娘の私立大コースの倍近い金額になりそうだったからだ。
これ以上のパートの掛け持ちは無理だ。どうすればいい?
だが助け船が出た。
実実家の両親と実弟妹が主催で、娘の大学合格祝いの席を設けてくれた。夫は私の両親や兄妹とはウマが合わないので仕事を理由に参加拒否した。
その席で父が一つの会社を紹介してくれた。
父の友人が経営している中小企業の支店の一つで、ベテラン女性が辞めたので急遽、パソコンスキルに常識的な作法がある女性社員を探していると。
なぜなら、彼女が今まで電話応対や接客等を全部になっていたが、やめた後の社員達にはそのスキルがなく、お客から苦情が多く来るようになったためだと言う。
社員の教育もできる女性が望ましいが、そういう女性がなかなかいないと。
自分にぴったりだと思った。
月給等は夫の扶養から外れることにはなるし、派遣扱いなのである程度は自分でいろいろしないといけないが問題はない。通勤が電車で1時間くらいだだが、幸いにも最寄り駅から1本で行ける。
皮肉なことに、夫の通勤する駅の二つ程手前の駅で、夫と通勤が一緒になるが問題ない。
私は二つ返事で父にお願いをした。
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