おばちゃん社会復帰話し
高台苺苺
第1話 おばちゃん働くように言われる
気づいたらおばちゃんになっていた。
蝶よ花よとまではいかないが、大事に愛情を注いで育てられ、普通の今でいうJK生活を堪能していた。
当時は高卒が主であった時代に短大に行き、大手銀行に勤務し、直ぐに結婚相手と出会い、当然のように寿退社をし、支店長の仲人で盛大な結婚式を挙げた。
バブル時期だったので、新婚旅行はヨーロッパ。1週間。
夫は英語ができないので、私がチェックインから搭乗手続きにレストラン予約に様々な事をした。
その頃から、そういう主従関係な夫婦だったと思う。
住まいは3LDKの都内一等地高級住宅街にある社宅。
社宅なので一等地だが、家賃は夫の小遣いと同じ。
同じく100円単位の月額料金の駐車場付き。
社宅の挨拶はまずは長年住んでいる長老ともいえる方へ、大手菓子店の菓子を風呂敷に包んで持っていく。好みは事前リサーチ済み。
挨拶に行くお宅は順番が決まっていて、向こうも待ち受けているので時間厳守で夫と回る。社宅のルールだ。
住まいの近隣は同じく大手企業や国家公務員の社宅が混在する。なので自然と大手企業勤務等の奥様達と交流することになる。
成程。こうして妻も人脈を広げるという事ね。
夫の実家は都内23区内、表参道から古い大小様々な家が混在した住宅街の中にある。ごみごみしているが高級住宅街だ。
夫家族全員が国立大学出身なので、大変プライドが高い。
言葉の端々に近隣県に在住の実親や実家を卑下する言葉が出るが気にしない。
よくある事だもの。
だけど、義母は私と同じ短大出なのに、神奈川県か都内かで違うとやはり私を卑下する。ランク的には同じなのに、どうしても他人とは違うとランク付けしたいらしい。
セオリー通りに翌年に妊娠し、長女を東京都内の大きな大学病院で産んだ。
義両親と夫はあからさまにがっかりし、最初に顔を見に来たきりその後は無関心を貫いた。
今で言うワンオペで育児がスタートした。
東京から片道約2時間掛けて、1週間に数回手伝いにきてくれる実母が救いだった。
夫は育児で自分の世話や家事が疎かにになるのは許さなかった。
それは同じ社宅在住者への、また近隣在住の他社への外聞があるからだった。
育児と家事と夫の身の回りの世話。
都内に住む義両親からの雑用の為の呼び出し。
嫁としての仕事をくるくるくるくるひたすら無心にしていた。
3年後に長男を産んだ。
長女の時と違い、夫と義両親は大層喜び、嫁としての仕事をやっとしてくれた出来損ないの嫁だと、産院で大きな声で言ったために大層顰蹙を買った。
婦長と担当医から義両親と夫に速攻で指導が入ったらしいが、馬耳東風だったと実両親が呆れたように報告してくれた。
時代錯誤な義両親で大変ねと、同室の他の母親達に同情され、看護師からそれとなくDVがないかを聞かれ…
それでやっと自分が虐げらえていることに気付いた。
でももう遅かった。
理想の妻、理想の母親、理想の嫁。
食事は全て手作り。
子供のおやつも手作り。
冷凍食品や市販の菓子やパンなのどあり得ない。
夫のYシャツは毎日洗い、毎日妻がアイロンをかける。
家中はいつ誰が来てもいいように、整理整頓清潔に清掃されていることが当たり前。
深夜に帰宅する夫を常に妻は待つ。
家計管理は夫。
妻は毎月、生活費を貰い、それでやりくりする。
そして子供の教育。
周囲と同じく幼児教育に通わせ、一流幼稚園に行かせて上流階級の子女達と交流させる。人脈を作る。
ピアノ、テニス、水泳、絵画教室。毎日毎日子供為に付き添う。
小学校は近隣の国立か区立の小学校に受験した。
合格を得るまでは、芳しくない子供達の成績で毎晩夫になじられ、時々義両親宅に呼びつけられなじられる日々。
合格した時は、その場で号泣して喜んだ。
そして23区内に庭付き駐車場付きの1戸建てをローンで購入。
家を選ぶのに自分の意見は採用されなかった。
全て義両親と夫で決められた。
それと同時に夫の浮気が発覚。
同じ支店の高卒のテラー。
同じ支店の昔の同僚が教えてくれた。
夫は不義を認めず離婚騒動にまで発展したが、結局双方の両親も交え、もう二度としない事を前提に、子供達の為に離婚をしないことにした。
そこから夫に対しての愛情は完全に枯渇し、ただ単なるお金を運んでくる人間に、子供達の為の家族という器を守る為のパーツにしか見なくなった。
子供達は有名公立、国立中学、高校に進学した。特に長男の頭の良さは他から抜きんで居て、義両親と夫の自慢になった。
だが問題が発生する。
長女の大学進学に夫と義実家が難色を示した。
理由は女に学問は必要ない、無駄だと言う時代錯誤な考えだった。
初めて夫と深夜まで口論をした。
結論として、娘の大学進学は認めたが、塾費用は一切出さないと言った。
理由は、自分は塾に行かず某最高学府に進学できたからだと言う論理だった。
長女は高校で禁じられているバイトをして塾代を捻出すると夫に啖呵を切ったが、私が止めた。絶対に共倒れになるからだ。
抗議する私に夫は嘲るように言った。
「だったらお前が働いて捻出すればいいだろう。碌に働いたこともないばばあの女が!金の無心をするなどおこがましい!!
恥を知れ!」
私は驚いた。
今まで働きたいと言っても夫が夫の外聞が悪いからと反対していたからだ。
「できるものならやってみろ!」
私は即、人材登録に片っ端から登録し、電話をかけまくった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます