第4話 これから
「さぁ、出来ましたよ」
お昼ご飯の材料は、アイテムバッグの中から出した。ゲームの中の物は少し不安だったが、試しにリンゴを齧ってみたが、腹も壊していない上に美味しかったから大丈夫だろう。
作ったのは、温かいソバと野菜のかき揚げ。一応、この世界に引っ越して来たと言う事で。
「ニャ助、お前さんも食べられるんだろう?」
「あ、はい!」
「ふぉ~! ひっさしぶりだの!」
野菜のかき揚げは、爺さんの好物だった。
「「「いただきます」」」
三人で手を合わせ、食べ始める。外から見たら、小さなエルフ二人と大きな猫の食事風景。なんとも不思議な光景だが、懐かしさに鼻の奥がツンとする。
「うまい! やっぱり婆さんのかき揚げは最高だ!」
「いやですよ、爺さん。あっちの方が美味いもんがぎょうさんあったでしょうに」
「まぁ、そりゃああったが、なんともなぁ」
私は行かなかったので知らないが、あちらの世と言うのは、痛みも苦しみも飢えも争いも無いと聞いた。行く場所によっては真逆らしいが。
ところが、爺さんは微妙に渋い顔をしている。
「儂はやっぱり、一仕事終えた後に婆さんが作ってくれる飯が一番だて」
少し照れた爺さんにつられて、私の頬も少し熱い。まったく‥‥この人は昔っから!
「かぁちゃのご飯、とっても美味しい!」
「あぁ、ニャ助は初めてだったか。うんうん、美味いよなぁ」
ニャ助は口いっぱいに頬張り、目を輝かせながらブンブンと頭を縦に振った。
器用に箸を使っているが、もしや練習でもしとったんだろうか。
「そんなに急いで食べんでも、たっくさんあるで」
本当の猫だった頃は、人の食べ物はあげないようにしとったでなぁ。美味しそうに食べてくれるのが、私も嬉しい。
皿に山盛りにしてあったかき揚げとソバがきれいさっぱり消え、お茶を入れて一息。
「ふぅ。さてはて、住む所は問題ないな」
「畑も、問題無いよ」
「‥‥お二人とも、順応が早すぎる‥‥」
「生活の問題はないが、せっかくの異世界だしなぁ。色々と見てみたい気もする」
爺さんの言う事も一理ある。結婚してから数十年。最後に行った旅行らしい旅行と言えば次女の結婚式だったか?
「畑を始めると、中々ここから離れられないですしねぇ」
「ああ、それなら問題ないぞ。ほれ」
爺さんがテーブルの上に、三つの鈴を置いた。
「家を直すついでに、転移装置を作っておいた。この鈴に魔力を込めて鳴らすと、世界中どこにいても裏にある転移装置に戻れる」
「そう言えば、ゲームの中でも使っていましたね」
「そうそう。これがあると少しは便利だからな」
「そうですねぇ」
本当に便利な装置だが、一方通行だからと爺さんが文句を言っていたのを思い出した。
例え世界の裏側にいようと、鈴を鳴らすだけで家に帰れる。だが、戻る前にいた場所には、戻れない。十分便利だと思うのだけどねぇ。とは言え、行き道の時間は必要だもんで、爺さんの言っている事も分かる。
「少し便利って‥‥転送装置なんて、世界中の魔導士がどう頑張っても作れないんだけどなぁ」
「ん? なんか言ったか、ニャ助」
「う、ううん! 僕は、首に掛けようかな! 紐は‥‥」
「紐なら、これを使うといいよ」
巾着から紺色の紐を取り出し、ニャ助の良い長さに切って鈴をつけた。
「ありがとう、かぁちゃ」
「それなら絶対に失くさんで」
「絶対?」
「ああ。その紐は聖剣でも魔剣でも切れんし、もしも持ち主から離れても、自動的に戻ってくる」
「それはいい! 儂にもくれ」
「はいはい」
この人、しっかりしているようで、どっか抜けとる時がある。まぁ、そんなとこも可愛いんだが。
さて、私は‥‥巾着にでもつけておこうかね。
「そう言えば、他の子供達もいるって?」
「うん! 二人の子供に人族はいなかったから、全員生きているよ」
「「おぉ!」」
それは朗報だ! ゲーム後から二百年とニャ助が言っとったで、少し心配だった。
「ここからなら、クレイル兄さんが一番近いと思う」
「クレイルは確か‥‥」
「ドワーフですよ」
「そうだったな!」
そうと決まれば、ソワソワしだすのは爺さんだ。
昔から「思い立ったが」なんぞ言うが、この人は「日」どころか今直ぐに動きたがる。
「私はべヒの所へ行ってきますから、戸締りしてくださいね」
「おう!」
こうなったら止まらないので、べヒの所へ向かった。
「契約したばかりなのに、すまないねぇ。お前さんの気が向いたら、またお願いするよ」
「ブモ!」
べヒとの契約を解除した。爺さんの調子だと、いつ戻れるかわからないからね。べヒはのそりと動き出すと、森の中へと帰って行った。
「戸締り、終わったぞぉ」
「はいはい。フルは?」
「連れてきたぞ。流石にベヒで町までは行けんだろうが、フルなら大丈夫だろ」
爺さんからフルを受け取ると、自分の肩に乗せた。落ちやしないかと心配だ。フル用の巾着かカゴでも作ろうか。
「アレ、戸締り‥‥いや、戸締りかな? 家の戸締りに結界って‥‥」
ニャ助がなにやらブツブツと言っている。
「どうした?」
「ん⁉ いや、まぁ、大丈夫だと思うよ! あれなら、ドラゴンが乗っても大丈夫そうだし」
「安心だろ」
「ドラゴンが乗っても? なら、ブレスも大丈夫ですかねぇ。ここいらは凶悪な魔獣が出るらしいし」
「おうとも!」
「うん、間違いなく戸締りレベルではないかなぁ‥‥」
折角爺さんが直してくれた新居だで、ちゃんとしといた方がいい。べヒに留守番をお願いしようかとも思ったが、あんまり強そうじゃないしなぁ。
「まぁ、爺さんが大丈夫って言うなら、大丈夫だ」
「そんじゃ、行くか」
異世界に来た、なんて言われた時はビックリしたけど、爺さんとニャ助が一緒なら‥‥何とでもなる。そう思える。
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