第3話 修繕と言う名の魔改造



何故かゲーム内で建てた家があった場所は、この世界で最も危険とされる森だった。

とは言え、命の危険を感じた事はまだない。


「爺さん、そっち行きましたよ」

「おう」


ドゴン! と言う音と共に、巨大なイノシシの顔が地面にめり込んだ。


「こっちで血抜きしとくで」


そう言うと、爺さんは巨大イノシシを担いで家の方へと向かった。


「ったく、折角ならしたのに」


開拓中に突然現れたイノシシのせいで、草を刈って耕した地面が抉れてしまった。

どうやら異世界に転生した私達夫婦と、飼い猫だったニャ助。


「え‥‥え?」


穴と爺さんが去って行った方を交互に見るニャ助。


「どうした?」

「え、いや、その‥‥とぉちゃ、強いと言うか」

「身体はゲームのアバターだしなぁ。ステータスの年齢は二人とも二百九十を超えとるが、エルフにしてみたらどうなるんかのぉ?」

「アバターとかの問題‥‥かなぁ?」

「まぁ、生きとった時も畑を荒らす獣を追い払っとったで」


イノシシやら鹿やら狸やら、よう出とったな。


「いや、あれ、魔獣‥‥」

「さて、続きをやるかね。べヒや」

「ブモォ!」


ゲームで培ったスキルや魔法は、おかげ様で全部使う事が出来た。

私が得意だったのは、魔法とテイム。

畑仕事を手伝ってくれる子を早々に見つけられたのは運が良い。

最初この子を見た時の爺さんの感想は「丸っこいマンモスだな!」だった。

丸っこい身体に、マンモスの様な牙が二本。まぁ、当たらずとも遠からずだろう。


「か、かぁちゃ、それ‥‥」

「ん? べヒだ。さっきテイムしたで。畑耕すのを手伝ってくれる」


種族はベヒモスと言うらしい。ゲームの中よりもこっちの方が愛嬌がある、か?

こっちには耕す用の便利な機械なぞないので、べヒに牛の役をお願いしている。

実生活での昔は、馬鍬を付けた牛に引いてもらっとったなぁ。


「よいせっと。ほんじゃ、よろしくの」

「ブモ!」


つい掛け声が出てしまう。癖だな。

馬鍬に乗ると、べヒがゆっくりと歩き出す。そして、段々とスピードが上がっていく。


「え、かぁちゃ、なんか速くない?」


始めて見た光景に興味深々のニャ助。

この子がいた頃には自分達の分の畑だったから、小さな機械しか使っとらんかったで。


「ちょ、え?」

「ちょっと行ってくるで、爺さんの方手伝っとくれ」


今日中に家の前くらいは耕しておきたいからな。べヒには頑張ってもらわんと。


「気を付けてね!」

「はいよぉ」


遠ざかって行くニャ助の声に応えると、べヒが更に加速した。

これなら、午前中に終わるかもしれんね。





そろそろお昼の支度をせねばと家に戻ると、呆然と立ち尽くすニャ助がいた。


「どうした?」

「‥‥はっ⁉ か、かぁちゃ、見て!」

「ん? おぉ、爺さん随分と張り切ってくれたねぇ」


ボロボロの廃墟だった家が、ぴっしり新築になっていた。


「いやいやいや! 早すぎるでしょ!」

「あ~、まぁ、スキルやらなんやら使っとるだろうで」

「いや、普通はスキルと魔法総動員しても、無理だと思う」

「ほうか?」


現実でやろうと思ったら到底半日では無理だが、元々の家も爺さんが建てたしなぁ。


「おう、二人とも! 中も全部終わったで、入ってこ」

「はいはい」

「え、え~‥‥」

「ほれニャ助、行くぞ」


呆けているニャ助を引っ張って家の中へと入った。

ひんやりとした土間と、新しい木の匂い。だが、現実世界で住んでいた家を元にしているので、不思議な感じだ。


「わぁ、凄い! 懐かしい‥‥」

「どうだ? 儂の記憶もちゃんとしとるだろ」


土間の奥、台所へと続く扉もあった。


「お疲れ様でした」

「まぁ、その‥‥向こうでは中々できんかったでな」


照れたように後頭部を掻く爺さん。

三つ子の魂百までとは言うが、懐かしさに思わず目を細めた。

お互い年を取り、昔ながらの家では多少の不便さは出ていた。とは言え、手が入れられる場所は少なかった。

流石にトイレと薪の風呂はリフォームしたが。

慣れと習慣で生活は成り立つ。山を下りないかと息子夫婦に何度か言われたが、どうしても離れる気にはなれなかった。


「お、そうだ。ほい、これ」


爺さんが摘んで差し出してきたのは、プルプルとした水饅頭?


「スライムだ」

「ほぉ~! 予想以上にぷるっぷるだねぇ!」


掌に乗せてもらうと、プルプルと震えている。


「さっき裏で見つけた。何でも食うで、台所にでも置いておくといいと思ってな」

「ふふ、ありがとねぇ。そんじゃ早速」


スライムの額(多分)と自分の額を合わせる。


「家族になってくれるかい? フル」


名前は、フル。フルフル震えているから。

パァッと光りが弾けると、テイム完了。


「寝床は‥‥ああ、あれがいいかね」


腰の巾着から小鉢を取り出すと、テーブルの上にいるフルの前に置いた。

フルは小鉢に近付くと、ポヨンと飛んで中に入った。そして、フルフルと楽しそうにしている。


「気に入ったみたいだな」

「よかった、よかった」


ゲーム内でも現実世界でも、趣味で陶芸をやっていた事がある。


「こっちで良い土があるといいな! 窯も作って」

「それは良いですね! あ、その前に大き目の牛舎お願いします。さっき、畑仕事のお手伝いをテイムしたから」

「おう、任せとけ」


さて、お昼ごはんは何が良いかねぇ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る