【再掲】第46話 さながら美容師のように







  ウィラの髪の毛をドライヤーにかけながら空いた片方で手櫛をして整え、ある程度乾けばブラシの出番。


 最初は軽く、優しくブラッシングすればするほど、ウィラは気持ちよさそうな笑みを浮かべながら少しずつ、彼女の望む力加減に調整していけば丁度いい案配を見つけたのだろうか?


 恍惚とした色っぽい表情を浮かべ、とても幸せそうな笑顔を見せるものだからたまらないね?


 ブラッシングを続けていけば髪の毛はよりサラサラに、天然アッシュブラウンの髪色がより艶やかになり、緩いウェーブを描いた美しい髪の毛はまるでビロードのようだ。


 ウィラのお望みのヘアスタイルはわからないものの、今回は簡単にヘアゴムで留めて、シンプルながらも高貴な雰囲気の漂うポニーテールの出来上がり。


 鏡に映るウィラの表情はとても満足げであり、あたしもブラッシングした甲斐があるよ……本当、妹がいたらこういうこともあったんだろうな。


 弟のリューキとも仲は良いけど、同性ならではってものがあるよな?


「ナギ、ありがとう! あんたプロになれるんとちゃうか? ドライヤーの当てかたもそうやし、ブラッシングがめっちゃうまくて最高に気持ちよかったわ!」


「そいつはどうも、喜んでくれてなによりだよ」


「またお願いしてもええか? これな、うちを虜にしたんやから……もうナギ無しでは生きていけへんで?」


「ああ、強く生きろよ?」


「「HAHAHA!」」


 ウィラにここまで喜んでもらえてあたしも嬉しいものでさ、あたしも果たしてウィラ無しで生きていけるのだろうか?


 本当、この可愛すぎる不思議な生き物のようなウィラに魅了されたと言うか……ああ、あたしも強く生きないとね?


 ひとしきり笑い合えばウィラはチープな丸椅子から立ち上がり、振り向いた彼女はあたしを見上げたまま、あたしの手をとって座るように促してきた。


「ナギ、次はあんたの番やで? そういやあんた、お腹は平気か? まだ痛むんか?」


 心配そうな表情であたしの顔を覗くウィラの心遣いはありがたく、別にお腹が痛んでいるとかでもなく、ただ……あたしには低すぎる仕切りのおかげで前屈みにならざるを得ないだけのこと。


 今、言うべき話題でもないと言うか、あたしも早く髪を乾かしたいし、ウィラはお返しのつもりか、もうドライヤーを片手に待っているものだから、お手並みを拝見したいんだ。


「大丈夫、あとで話すからさ、心配する気持ちに海外旅行のチケットを渡してやれよ?」


「あんたがそういうならええんやけど、うちの心配事な、今からフライトに間に合うんかいな?」


「「HAHAHA!」」


 ま、あたしの体調に何ら問題もなく、大丈夫だと言うことを察してくれたのか、笑ったあとに安堵したウィラは鏡越しに微笑みを浮かべた。


 彼女の手に持ったドライヤーは、音を立てながらあたしの髪に温風を優しく吹き付け、空いたもう片方の手に持つ新しいタオルで優しく包み込むようにしていれば、ショートヘアのおかげですぐに乾くってものだ。


「お姉さん、お仕事なにしてはるんでっか? 痒いとこありまっか?……よし、乾いたで」


 さながら美容師さんの気分と言うのか、ウィラの楽しげな表情を鏡越しに見てさ、こっちも楽しいよ。


 続けてブラッシングの時間、なんとなく嫌な予感がしたものの杞憂に終わる。


 ウィラがシャンプーしていた時とは違い、豪快さは鳴りを潜め、まずは手櫛で優しくほどいてからブラシを手に取り、ゆっくりと丁寧にあたしの髪を梳かしてくれるのだ。


 ああ、シャンプーの時のように豪快だったらさ……流石に全力で止めるけど、ウィラの見せるギャップにあたしは魅了されるがまま、心地よい時間はあっという間に過ぎていくのだった───。






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